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第二章

40.バレンタイン

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「愛里紗が生まれた頃は今ほどブームじゃなかったんだけどね」



  母親と台所でそんな話をしながらチョコ作りを手伝ってもらった。

  彼氏が出来て初めてのバレンタイン。
  友チョコは何度か作った事があるけど、本命は初めて。
  彼氏に渡すチョコは前々から手作りと決めていた。



  先日の誕生日プレゼントは喜んでくれたから、きっとバレンタインも喜んでくれるはず。
  受け取った姿を想像するだけでも自然と顔がにやけちゃう。



  楽しそうにチョコレート製作に取り掛かる娘の姿を見た父親は、不自然に『ゴホン』と咳払い。
  多分ヤキモチ。



  手作りクッキーに溶かしたチョコレートでコーティング。
  チョコの上には、ナッツやチョコスプレーやトッピングシュガーに、カラフルなチョコペンで模様を書く。

  彼に喜んでもらえる姿を思い浮かべながら一生懸命作った。


  ラッピングは雑貨屋さんでお母さんと相談しながら一緒に選んだもの。
  完成したチョコをベージュの箱の中にしまい、赤いリボンを巻いて最後は紙袋に入れて完成。



  お母さんには彼の事を報告済み。
  親友のように何でも話した。
  だから、まるで自分の事のように手伝ってくれた。






  ビュウッ……

  春の訪れは近いようで遠く、冷たく吹き荒れる風が全身を包み込む中。
  バレンタインの今日も頬と鼻頭を赤く染めながら、コートにマフラーに手袋といった完全防備で登校した。



  全開放の前扉から教室へ一歩足を踏み入れると、先に登校していた男子達は会話で賑わっているが何処となくソワソワしている。



  私にはその理由が分かっている。
  狙いは女子からの特別なバレンタインチョコだろう。


  先週辺りから男子達は女子に対してヤケに優しかった。
  今思えばバレンタインを意識していたんだな~と。


  我がクラスでお笑い担当の坊主頭の佐藤くんですら、今日は口数が少ない。
  過剰に意識してないといいけど……。



  チョコの数が男の価値を決めるなどと言ったくだらない情報までもがクラス内を飛び交う。

  いかにもチョコが欲しいような見え見えな態度に、転校生の私はどの学校でも反応は同じなんだと思って、ちょっとフいた。


  一方の女子も、あちこちでチョコレートの話題を挙げている。
  小学校に食べ物の持ち込む事は禁止されているけど、友チョコをコッソリと交換してる姿も。

  ……そ、今じゃこれが当たり前。


  バレンタインは女子同士でも仲が良い友達にチョコを送る習慣が根付いている。

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