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第三章
48.レモン味の飴
しおりを挟むーー五時間目の授業が始まる直前。
隣のクラスの木村は、教室の扉越しにヌッと顔を覗かせて付近の席に座る咲に言った。
「駒井~。数学のノート貸して!」
「えっ! ……木村くん、また?」
木村はこのように咲に何度もノートを借りに来る。
好意を寄せている事は一目瞭然。
木村は剣道部に所属。
背が高くてガタイが良いだけでなく、髪が短くて顔はちょっとごつめで太眉。
人柄は申し分ないけど、おっちょこちょいで不器用タイプ。
去年同じクラスだったからそこそこ仲が良い。
二年生に進級してからは、咲によく会いに来るように。
木村の気持ちはとうにお見通しだけど、最近咲に彼氏が出来たなんてとても言えない。
ーーそれから3日後。
木村は性懲りも無く再び私のクラスを覗きに来た。
「あれ……? 江東、今日駒井は学校来てる?」
「休みだけど。今日もノート借りに来たの?」
「あっ……、あぁ」
「代わりに私のノートを貸そうか?」
この日、咲は風邪で欠席だった。
だから、再びノートを借りに来た木村にニヤケ眼で意地悪を言ってみた。
だけど、木村は腕を組んでプイッと顔を背けて……。
「江東のノートは字が汚いから読めん」
「はあぁ?! 丁寧に書いてるんですけど~」
木村は明らかに私に対する態度が違う。
しかし、引っ込みがつかないのか、私のノートを借りていった。
木村はノートの返却時にお礼としてイチゴ味の飴を添える。
どう言う意味があるのかわからないけど、毎回同じ飴を咲に渡している。
ーー同日の放課後。
木村は借りたノートの返却時に咲と同様飴は添えてくれたけど……。
味はイチゴ味じゃなくてレモン味。
咲には甘いイチゴ味で、私は酸っぱいレモン味ですかいっ。
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