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第三章

51.咲の家

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「愛里紗、着替え持ち忘れてない?」

「もー、お母さんったら!  そこまでおちょこちょいじゃないって!」



  今日は木曜日で学校だけど、金曜日の明日は創立記念日で休み。
  三連休という事で、学校帰りに久しぶりに咲の家へ泊まりに行く事に。

  ご両親の件があって非常に行きにくいけど、『愛里紗が来る時はケンカしないと思う』と言って、躊躇う背中を押してくれた。



  咲の家は遠い。
  お互いの家の中間に学校がある感じ。
  うちから咲の家まで行くには、電車を三回乗り継いでからバスに乗り換える。
  電車やバスを上手く乗り継げたとしても、片道2時間以上はかかる。


  毎回大変な思いをしながらも彼女は泊まりに来てくれる。
  それほど自宅に居たくないのかなぁ、なんて気を揉んでしまうほど。



  自宅とは逆方向の電車に乗って、途中で電車を二回乗り継ぎ、電車を降りて市営バスに乗り替えてバスに揺られる事10分。
  バスを降りてから閑静な住宅街を歩く事5分。

  長い長い道のりを経て、ようやく咲の家に到着。
  今日はおよそ半年ぶりにお邪魔する事に。



  咲は四人家族。
  リビングの広さが30畳近くもある5LDK。
  地下にはシアタールームがあり、彼女の部屋は10畳ほどあって広い。

  一般家庭のお子様代表として訪れた私が、建物の隅から隅へと見回してしまうほど立派な豪邸だ。



  咲は勉強が出来る上にカワイイ。
  家は裕福だし、モデル並みのイケメン彼氏がいる。
  親の不仲以外、何一つ不自由はしてなさそう。

  はぁ、羨ましい……。



  80足ほどの靴を広げてもまだ余裕のある広い玄関に上がると、半年前に玄関ですれ違ったのが最後の兄の存在を思い出した。



「咲のお兄ちゃんは元気?」

「うん。……実は4月から一人暮らし始めたから、もう一緒に暮らしてないんだ」



  と、少し寂しげな表情。

  咲には年の離れた社会人の兄が一人。
  妹がかわいくて仕方がないシスコンタイプな感じの人。


  父親は白髪混じりのオシャレな短髪で、髭を生やしている。
  母親は元モデルのようで、目鼻立ちがはっきりしていて美人。

  だけど、美形な両親とは似ても似つかぬ兄だった。



  咲の部屋はふんわりと可愛らしいイメージから猫足家具やかわいい雑貨など置いてありそうだけど、実際は意外にもシンプル。

  部屋の右側に設置されているベージュ調のセミダブルベッドの上には、かわいいクマのぬいぐるみが二つ置いてある程度。
  インテリアに強いこだわりはなさそうな感じ。

  左壁に設置されている大きな本棚には、難しそうな本や参考書や志望校の問題集などが並んでいる。



「いま飲み物持ってくるから私服に着替えて待ってて。すぐに戻るから」

「あ、うん。ありがと」



  咲はそう伝えて、制服のまま二階の階段を駆け下りて行く。
  私は言われた通り、普段着に着替えてから脱いだ制服を畳み、部屋の隅に置いている手提げの中にしまった。

  ーーすると、その時。


  ゴツッ……


「痛っ……」



  制服をしまっている最中、隣の本棚に腕がぶつかり鈍い痛みが走った。
  腕をさすりながら本棚に目線を移すと……。
  中段には恐らく生後からの写真と思われる大きなアルバムと、幼稚園、小学校、中学校の卒業アルバムが並んでいた。

  しかし、大量のアルバムを目した途端、ある事が思い浮かんだ。

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