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第三章
54.忘れた財布
しおりを挟む一学期の期末テストが終わった。
中間テスト以降、勉強したお陰で成績は少しだけ右上がりに。
家で母に成績表を見せて何度も交渉してみたけど、既に予約してしまった夏期講習を取りやめてはくれなかった。
残念……。
やっぱり成績が少し上がっただけじゃダメなのね。
夏休みを目前に控えたある日。
咲と一緒に駅の改札前でカバンに入れているはずの交通系ICカードを取り出そうと思ってカバンの中に手探りで財布を探していると……。
ないっ。
カバンの中にしまったはずの財布が入っていない。
一瞬紛失したと思って焦ったけど、最後に触れた瞬間を思い出した。
あ、そうだ。
財布は教室の机の中だ。
ノートで指を切って出血したから財布の中に入れておいた絆創膏を取り出した後、日直で先生に呼ばれて焦って机の中にしまったんだ。
教室まで取りに戻らなきゃ。
「咲、教室に財布を忘れちゃったから一旦学校に戻るね。悪いけどここでバイバイになっちゃう」
「一緒に学校まで戻ろうか?」
「ううん、大丈夫! また明日ね。バイバイ」
愛里紗は改札を通る咲に手を振って、辿って来た道を戻って行った。
学校の教室に到着して机の中を覗き込むと、奥に財布が入っていた。
安心してホッと胸を撫で下ろす。
机から財布を取り出してカバンにしまい、ひと気のない教室を出ると……。
隣の一組から教室に残っている生徒のヒソヒソ話が声が聞こえてきた。
通り際に、何気なくチラッと教室内を覗くと、一組には女子三人組が窓際で固まって話している。
二人は窓に背中を向けて一人は机に座っている。
彼女達はワイシャツの第二ボタンまで開けて、ゆる巻きのリボンタイにアイラインキツめの眉薄め。
世間一般で言われているギャルだ。
素通りするはずが、そのうちの一人のひと言が私の足を止めた。
「木村さぁ、駒井に夢中過ぎじゃない? 視界に入って来て目障りなんだけど」
窓際に立つ一人が、手鏡を片手に指で髪を直しながら、関心なさげに咲の噂話を始めた。
駒井という名字は私達の学年に咲しかいない。
しかも、もう一人は木村って……。
彼女達の会話は、明らかに咲と木村を指し示している。
そう思った途端、反射的にサッと扉の裏に身を隠した。
もしかしたら陰口かもしれないと思って聞き耳を立てた。
立ち聞きするなんて本当はいけない。
でも、噂の大元が親友となれば話は別に。
愛里紗は三人に警戒しながらも、聞き耳に集中させる為にまぶたを閉じた。
「あの二人ウザ過ぎて直視出来ないんだけどぉ」
「きゃはははは! わっかるぅ」
「駒井のぶりっ子加減さー、どうにかならないの?」
「木村も騙されてる一員じゃない? いい加減目を覚ませっつーの」
「ねぇ、駒井って中学からあんな感じ?」
「確かに中学の時も男に色目使ってた。『〇〇くぅ~ん』……なんつって甘い声出てた」
「うっわっ! あんなのがいいなんて木村も趣味悪いね~」
愛里紗は三人の行き過ぎた言動を目の当たりにすると、立ちくらみがするほどの衝撃を受けた。
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