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第三章

62.誕生日プレゼント

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  ケーキを食べ終えてから、理玖から『教えて欲しい問題があるから』と言われて二階の部屋へ向かった。
  何度見てもド派手なインテリアに目が眩む。

  部屋の中に入り、センターテーブルの横にゆっくり腰を下ろすと、理玖は机脇に置いてあるボックスを開けて何かを取り出し、その何かを受け取れと言わんばかりに目の前に差し出した。



「はい、これ……」

「えっ!  これってもしかして誕生日プレゼント?」


「……ま、期待させるようなもんじゃないけど」



  理玖はプレゼントを手渡すと照れ臭そうに頭をポリポリと掻く。
  愛里紗は予想外のプレゼントが嬉しくて目頭を熱くさせた。



「うそぉ……。さっきは用意してないって……。でも、嬉しい」

「お前の誕生日忘れてないから」


「ありがとう!  箱を開けてもいい?」


「いいよ」

「やったぁ!」



  ワクワクしながらプレゼントのリボンを丁寧に解き、茶色い箱の蓋を開けた。
  すると、中から出てきたのはシルバーのハート型のネックレス。
  ハート飾りの真ん中にはピンクの宝石のような石が一粒。



  愛里紗はネックレスの可愛さに心奪われると、ネックレスを箱から取り出して手のひらに乗せる。



「超かわいい!  理玖って昔からセンスがいいね!」



  愛里紗はネックレスを何度も首元に当ててご機嫌な様子を見せていると、理玖は横から口を挟んだ。



「ねぇ。愛里紗って、いま付き合ってる奴いるの?」

「ううん、いないよ~」



  愛里紗はネックレスに気を奪われているせいか、何も考えずに返事をした。



「プレゼント、そんなに気に入ったの?」

「うん、もちろん!」



  すると、理玖は身体を前のめりにして愛里紗の10センチ手前まで顔を接近させてこう言った。



「じゃあ、プレゼントのお礼はキスでいいよ」

「えっ……」



  理玖はそう言うと、唇をゆっくり接近させていく。

  触れる気配。
  届く息。
  むず痒い唇の感触。
  僅かに乱れる平常心。

  突然降りかかったアクシデントに理性が追い付かない。



  うそっ!
  ネックレスのお礼がキキキ……キス?!
  どうしよう。
  これは夢じゃない。

  勿論キスをするつもりはないけど、唇にはリアルに生温かい息がかかってくるし、身体が揺れ動くくらい心臓がバクバクしてる。



  愛里紗は小刻みに身体を震わせながら反射的に顔をクイッと反らすと、理玖はフッと笑った。



「……冗談だよ、バーカ」



  そう言って身体を離すと、身構えてる愛里紗にケタケタと笑った。



  えっ……、冗談?
  一瞬本気でキスをしてくるかと思った。
  でも、目はマジだったような……。



「もー、やめてよ!」



  愛里紗は安堵するあまり、ホッペを膨らませながら理玖をグーで軽く叩いた。
  理玖はムキになる姿を見て、降参ポーズを取って笑う。



  でも、理玖が唇を近付けた瞬間、忘れていたあの時の事を思い出した。

  あれは、中学校の卒業式後。
  私達は屋上手前の階段でファーストキスをした。

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