初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
68 / 226
第三章

66.ファーストキス

しおりを挟む


  複雑な気持ちのままここへ来たけど、一つだけ気にかかる事があった。

  それは、理玖の学ラン。
  前ボタンを閉めずにヒラヒラとはためかせていたけど、真っ黒な制服には何かが足りない。
  その何かが気になって横目を向けると……。


  ない!
  縦一列に並んでいるはずの校名の入った金のボタンが、一つ……二つ……三つどころか全部付いてない。

  パッ見は前ボタンを外しているだけかと思ったけど、よく見るとボタンが無いのは前だけじゃなくて、袖口についていたボタンや、カラーに付いていたはずの校章も無くなっている。

  その上、激しく引きちぎられたかのように、ボタン部分の生地が所々ほつれていて、等間隔に糸が尖っている。



「理玖、制服のボタンは何処へ?」

「……あ、これ?」



  理玖は制服のボタンが付いてあった箇所をグイっと引いて首を傾けた。



「うん。どうしたの?」

「あるよ」




  理玖は学ランの左ポケットに手を突っ込むと、予めしまっておいた金ボタンを取り出して手のひらに置いて見せた。

  手元には金ボタン一つだけ。
  年季によって色をくすませながらも、扉の隙間から差し込む光によってキラリと輝いている。



「それだけ?  他のボタンは?」

「他はない」


「どうして?」

「最後のHRが終わって教室を出たら、廊下で待ち構えていた女子達にあっと言う間にボタンが引きちぎられて全部持ってかれた」


「スゴっ……。理玖は人気者だね!」



  さすが理玖。
  爽やか系イケメンで愛嬌があって性格が明るいから、学校の伝説になりそうなほどモテていたもんね。
  ボタンが全部奪われるなんて納得がいくわ。



  理玖はボタンを握りしめて反転させると、微笑みながら愛里紗に拳を向けた。



「これ、制服の第二ボタン。お前に持ってて欲しいから先にとっておいたんだ。……やる」

「あっ、うん。……ありがと」



  制服の第二ボタンが特別なものという事は知ってたけど、理玖がどんな気持ちで手渡そうとしたかまではわからなかった。

  拳の下に右手のひらを受け皿のように差し出してボタンを受け取ろうとすると、理玖はボタンと共に手を包み込んでそのままグイッと引き寄せた。

  ……と、次の瞬間。
  理玖の唇と重なり合った。


  それがあまりにも一瞬だったから、ドキドキとか緊張する間も一切無くて……。
  目を閉じる事も無く、ただ不意に唇だけが重なっていた。

  いつもより彼の香りがより身近に感じる。
  唇が離れた後も、一瞬何が起こったかが分からないレベルに。
  今までキスの予兆はなかったけど、今日はいつになく強引だった。


  唇が重なったのは2~3秒程度。
  頭が真っ白になっていたからよくわからなかったけど、実際は想像以上にあっと言う間だったのかもしれない。


  これが私のファーストキス。
  初めてのキスは思い描いていたような甘い甘いものではなくて、何故かほろ苦い涙の味がした。

  だけど、私達はその日を境に連絡を断って、卒業式の日以降一度も会わなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

処理中です...