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第三章
67.縮まる距離
しおりを挟むーー朝、愛里紗がいつも通りの時間に塾に到着すると……。
「ミズキちゃん、サクラちゃん、今日もマジでかわいい! 男が放っておけないタイプだよね」
「クスクス。理玖くんったらホントに冗談上手くない?」
「ねぇねぇ。今日は私の隣に座ってよぉ」
「よぉーし、今日は特別にミズキちゃんの隣に……、あれ? サクラちゃん、リップの色変えた? そのオレンジ系のリップは俺好みかも」
「やだ~。理玖くんったらサクラの事好きなんじゃないの~?」
「えーっ! 私のリップの色は? 私の唇をよく見てぇ」
理玖は今日も可愛い女子二人に囲まれてデレデレと鼻の下を伸ばしている。
…ったく、この男は朝っぱらから。
友達が増えたのはわかるけど、可愛い女の子ばっかじゃん。
一体、塾に何しに来てるかわかんないし。
1ヶ月弱通った夏期講習は今日が最終日。
理玖は夏期講習が始まってから同じ教室内の女子全員に話し掛けたのではないかと思うくらい、毎日取っ替え引っ替えで積極的に話しかけて塾生活を堪能していた。
でも、私の到着に気付くと女子達の輪からあっさりと離れてやって来る。
その姿はしつけの行き届いている犬とそう変わらない。
とてもとても懐いている。
「ウィーっす。今日も愛してる。俺には愛里紗が一番!」
「あー、はいはい。しっしっ」
「愛情たっぷりに挨拶したのにその反応? 冷た~い」
毎日顔を合わせているうちに楽しく冗談を言えるまで関係回復した。
さらりと伝えてくる愛の言葉は信用出来ない以前に理解不能。
まぁ、冗談だって分かってるけど。
理玖はモテるけど誰にでもおちゃらけてるせいか、私達が二人で話していても誰も何も文句は言わない。
どちらかと言うと世渡り上手なタイプかも。
夏期講習の最終日も一緒に帰宅。
一緒に帰ろうとか言う以前に、帰る方向が一緒だからそれが当たり前に。
「いよいよ明後日から学校だね」
「明日から毎日愛里紗に会えなくなるから超寂しい」
「……」
「急に黙るなよ」
よくもまぁ、次から次へと甘ったるい言葉が出てくる事。
『じゃあ、プレゼントのお礼はキスでいいよ』
実はあの日から調子が悪い。
自分でも無意識のうちに唇に目を奪われてしまっている。
一度はキスをした仲。
だから、唇の感触をリアルに思い出してしまう。
「理玖はこのままずっと塾に通うの?」
「とりあえず通い続けて、少しずつ将来の夢を考える」
「ふーん。先々の事をちゃんと考えてるんだ」
「当たり前だろ……ってか、あっあのさぁ」
「なぁに?」
「さっきからマジマジと俺の顔を見てるけど、何かついてる?」
本人からまさかのご指摘を受けた途端、ハッと我に返った。
ヤバ……。
唇を一点に見ていたのがバレちゃったかも。
理玖からサッと目線を外した愛里紗は、熱くなった顔を手で覆って言った。
「だっ……、大丈夫!」
「……?」
動揺していたせいかトンチンカンな返事に。
「まさか、寝ていた時についたよだれの跡が口元についてるとか?」
「ちっ、ちがうよぉ! もー、何でもないってばぁ」
私達が平穏にそういったやり取りをしている最中。
別の場所では今後の運命を揺るがす大事件が起こっていた。
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