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第五章
100.悪夢
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「理玖! ……やめて!」
ーーある日の朝、叫び声と共に心臓をバクバクさせながらガバッとベッドから勢いよく飛び起きると……。
そこには、いつもと何一つ変わらない風景が待ち受けていた。
そう……。
ここは、小学六年生から5年半以上に渡って毎日生活している自宅の部屋のベッドの上。
一瞬、脳裏を駆け巡ったあるシーンが夢か現実か区別がつかなくなり、現実に引き戻されるように目が覚めた。
激しく波打つ胸の鼓動は収まりを見せずに動揺している心を苦しめている。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
興奮が収まらずに呼吸が乱れる。
胸の中央に右拳を当てて、軽く俯きながら心を落ち着かせるように自己暗示をかけた。
夢だった……。
しかも、物凄く後味の悪い夢。
あまりにもリアルだったから、脳が現実と勘違いして目覚める直前まで胸が苦しかった。
うなされて目が覚めた私が今さっきまで見ていたその後味の悪い夢とは、恋人になったばかりの理玖との楽しい恋愛とは程遠い、胸をえぐられるような切なくて悲しい夢。
悲しみの表情を浮かべている理玖と。
誰かに罵声を浴びせながら馬乗りになって、胸ぐらを掴み上げて右拳を振り上げ、今にも殴りかかりそうになっている理玖。
今はあまりよく思い出せないけど、普段からは想像もつかないような表情だったのは覚えている。
彼は目の前で怒ったり暴力を振るった事がないから、絶対にあり得ないけど。
それに、モヤがかかっていたからよく見えなかったけど、理玖に殴られそうになっていたあの人は一体……。
理玖と付き合い始めてから右上がりになっていた気分が叩き落とされるほど嫌な夢だった。
まだ付き合い始めたばかりなのに、初っ端からこんな後味の悪い夢を見るなんて幸先悪い。
時間と共に乱れた呼吸は落ち着いてきたけど、ショックが大きかったせいかなかなかベッドから離れる事が出来なかった。
ま、夢だし……。
理玖があんなに怒るなんて有り得ないから嫌な夢は早く忘れよっと。
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