103 / 226
第五章
101.小さな声
しおりを挟む✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
「えっ! 理玖くんともうキスしたの!?」
「しっ! そんなに大きな声を出したら、周りの人に聞かれちゃうよ……」
愛里紗から衝撃的な事実を伝えられたばかりの咲は、驚きを隠せない。
予想外に高く声を上げられてしまったその一声に慌てて咲の口を手で覆ってキョロキョロと周りを確認する。
ーー今は学校帰りの駅までの道のり。
おとといの学園祭の出来事を報告している最中だった。
「告白を受け入れた瞬間にキスかぁ。理玖くんって本当にステキ……」
咲は私達が上手くいって素直に喜んでいる。
つい先日相談したばかりだし、咲は理玖推しだったからね。
すると、咲は軽く瞼を伏せて俯きざまに小さくボソッと言った。
「いいなぁ、愛里紗は……」
「えっ? なんか言った?」
「あっ、ううん! 何でもない」
声が小さくて聞こえなかったから聞き返してみたけど教えてもらえなかった。
咲は一旦気を取りなおすと、二人の未来を思い描き始めた。
「付き合い始めてすぐにキスをしたから、次の進展が意外に早いかもね」
「え! 次の進展……?」
「そう……だけど……。その反応からすると、もしかして恋の進展の事を考えていなかったの?」
「それは、理玖と付き合うかどうかを結構悩んでいて……。最終的には雰囲気に飲まれたまま付き合う事になったから、さすがにそこまでは……」
「それって、本気で言ってるの?」
「あぁ……えぇっと。……うん、あはは」
少し呆れ気味に驚く咲。
ノーテンキな返事をして誤魔化しちゃったけど、実はそれが正解。
理玖と付き合うまでは良かったけど、咲に言われるまで恋の進展なんて考えていなかった。
すると、咲は恋の進展についてグイグイと詰め寄り始めた。
「愛里紗の中で理玖くんを受け入れる体制になってたから、心の準備が整う前に自然と告白を受け入れちゃったのかもね」
「そうなのかな。正直、まだ自分の気持ちがよく分かんないや。好き……なのかさえ」
「大丈夫だよ。愛里紗のハジメテの相手は理玖くんかもね。なんか、ドキドキしちゃうね」
「やだぁ。……ハジメテって、ちょっと怖いな。まだ全然先のような気がしてたけど……」
「理玖くんは愛里紗を愛してくれているから、きっと怖くないよ」
「……そうかな、怖いな。咲の時はどうだった?」
「えっ………」
「やっぱりハジメテの時は怖かった?」
咲からハジメテどころかキスの話さえ聞いた事は無いけど、彼と交際してからもう半年くらい経ってるし、多分もう経験済みだなと勝手に憶測していた。
だから、今後の参考にしようと思って何気なく探りを入れた。
ところが、先ほどまで興味津々で話していた咲の表情は一変。
俯きざまに目を泳がせてポツリと小さく呟いた。
「……私のは、参考にならないから」
最近、咲は彼氏の話をしなくなった。
交際した当初はひとり身だった私が羨ましいと思うほど、興奮しながら毎日のように自慢話していたのに……。
彼氏と上手くいってないのかな。
ケンカでもしちゃったのかな。
それとも、非常にデリケートな話だから言いたくないだけなのかもしれない。
二人をよく知らないから、空気も読まずにズカズカとデリケートな話を聞いちゃって悪かったかな……。
申し訳なく思った愛里紗は、シュンとした表情で頭を下げた。
「ごめん、変な事を聞いて」
「あっ……ううん」
「デリケートな話だったよね。もう聞かないから」
二人の間に微妙な空気が流れつつも駅に到着。
改札を通り過ぎたところで軽く手を振って別れ、それぞれのホームに向かう階段へ足を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる