初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

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第六章

126.一方的な見解

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『悩んでいた時、いつも隣にいてくれてありがとう。お前は俺の救世主。あの時は不幸の連続だったけど、お前がそばにいてくれたお陰で心強かったよ。』

「ううん……。私も幸せだった。辛い事があっても谷崎くんに守ってもらえたから」


『両親がケンカする声は無くなったけど、お前と会えなくなったから辛い。相変わらず家では一人きり。時間をつぶすような神社もない。お前がにぎってくれたおにぎりだって、もう食べられないかと思うと残念だよ。』

「……谷崎くん。私もずっと辛かったよ。毎日悲しくて涙が止まらなかった」



『戻りたい。また、あの頃に。』

「……うん、そうだね」



『会いたい。お前に……。』

「…………谷崎くん」



『離れていても愛里紗が好きだよ。これからもずっと想ってる。絶対忘れない。約束する。いつか会いに行くから待ってて。』

「…………っ」


『今井(谷崎) 翔より』



  彼は私との約束を守っていて。
  長らく待ち続けていた手紙は既に家に届けられていた。

  ただ……。
  その手紙が私の手元に届かなかっただけ。

  毎日ポストを覗いても見つからなかった手紙が、どうして物置の隅に。
  どうして束になって菓子缶の中に入っていたんだろう。



「谷崎くん…………っ」



  愛里紗は読み終えた手紙を握りしめると、肩を震わせながら泣き崩れた。


  一通目の手紙を膝に置いて、二番目に古い消印の手紙を手に取って封を開けようとしていた、次の瞬間……。
  物置の向こうから母親がバタバタと大きな足音を立てて、地べたに座る愛里紗の背後へやって来た。


  顔面蒼白の母親の視界には、左腕で滴る涙をぬぐいながら翔からの手紙を持っている娘の姿が。
  既に遅しと気付くと、背後からため息混じりにポツリと呟く。



「愛里紗……」



  物置からの戻りが遅い私を呼ぶだけなら、わざわざ走って来ない。
  母はわざわざここに出向くだけの理由があった。


  返事が無くても送り続けていてくれた谷崎くんからの手紙を私に渡すどころか、菓子缶に入れて物置の隅にしまい込んだのはお母さんだよね。
  出張で家を空けがちのお父さんじゃないはず。

  しかも、私が気軽に入れないように物置に鍵をかけた上に、鍵を持ち歩くほど警戒していた。
  私がこの手紙を首を長くして待ってた事を知ってたのに……。



  お母さんは味方じゃなかったの?

  谷崎くんとの恋を応援してくれていたのに。
  時には親友のように恋愛相談にも乗ってくれたし、バレンタインの時はチョコ作りを手伝ってくれたし、誕生日プレゼントの手袋だって隣で一緒に選んでくれたのに。


  前々から私を裏切っていたのは咲だけじゃなかったんだ……。



  愛里紗の想像力は一気にエスカレート。
  モヤモヤした気持ちは、あっと言う間に怒りへと様変わりする。



「お母さん……。どうして谷崎くんからの手紙を物置に隠したの?」



  母親は、翔からの手紙を手にしたまま詰め寄る愛里紗に降参したかのように目を逸らす。



「ごめんね……。悲しませるつもりはなかったんだけど、谷崎くんが引っ越してからご飯をロクに食べずに部屋に引きこもってたでしょ。その手紙が届いたらまた落ち込んじゃうのかと思って」

「心配してくれる気持ちはわかるけど、隠さなくてもいいんじゃない?」


「隠したのは悪かったと思ってるけど、早く谷崎くんを諦めて元気を取り戻して欲しかったの」



  身体を心配してくれる母の考えとは裏腹に、一方的な見解と独断を押し付けられた事が無性に腹が立った。

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