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第六章
127.親子ゲンカ
しおりを挟む「私はこの手紙をずっと楽しみにしてたんだよ! お母さんは私が毎日ポストを覗き込んでいる姿を見てるから気持ちを知ってたはず」
「そんなに興奮しないで、少しは落ち着いてちょうだい」
「落ち着ける訳ないでしょ。どうしてお母さんの独断で手紙を隠すの? この手紙をどれだけ待ち焦がれていたかなんてお母さんには分からない!」
「全て愛里紗の為を思ってそうしたの。毎日泣き崩れている姿を見届けていたお母さんの気持ちも少しは察してちょうだい」
「そんなの私には分かんない! お母さんの気持ちなんて知りたくもない! お母さんなんて……大っっ嫌い!」
「愛里紗!」
やり場のない怒りと悔しさで、キチガイになりそうだった。
愛里紗は物置から出て行こうと思って立ち上がったが、母は逼迫した表情で腕を引き止める。
「やだ、腕を離して!」
「お母さんとゆっくり話し合おう。谷崎くんの件はもう過去の話。引っ越した時点でお別れするのが正解だったのよ。部活に勉強、中学に進学してからやらなきゃいけない事が山積みだったでしょ」
「過去の話にしたのは一体誰よ……。最初から手紙を受け取っていれば、少なくとも過去にはならなかった。今でも谷崎くんと幸せに過ごしてたかもしれないし、部屋に引きこもるくらい落ち込まなかったはず。母親なのに娘の幸せを奪うなんて信じられないっ!」
愛里紗は堪忍袋の緒が切れて手を勢いよく振り切り、その場から走り出した。
母親は手を伸ばして声で娘を呼び止める。
「愛里紗っ……。愛里紗っ……」
こんなに大きな親子ゲンカはした事は今まで一度もなかった。
私が大切にしているものを一番よく知りつつも、事実を隠して解決しようとしていた事がどうしても許せなかった。
家族として信用している分、心の傷の深さは計り知れない。
ーーこうして私は、部屋着姿でベランダのサンダルを履いたまま、スマホも上着も財布も持たずに家を飛び出した。
ただ、現実から逃げるように母の元から走り去る事しか出来なかった。
一度狂い始めてしまった運命は歯止めが効かない。
ラフなスウェット上下でベランダのサンダルを履いたまま、目の色を変えて家を飛び出してきたけど……。
何も考えられなくなっていたせいか、身体も心も行き場なんてない。
季節は冬。
日中の最高気温は12度。
寒さもだいぶ厳しくなってきた。
身を包む風が身体の芯まで氷固めてしまうのではないかと思うほど寒くて自然と震え上がってしまう。
せめて上着だけでも着てくれば良かった。
二通目の手紙をズボンのポケットにしのばせて町中を彷徨いながら、どこへ行く訳でもなくふらふらと行き着いた先は、自宅から徒歩20分くらいの距離にある大きな公園。
部屋着姿のままだし、だだっ広い公園ならすぐに見つからないと思ったから、暫く滞在する事に。
家を飛び出てから、どれくらい時間が経ったのだろうか……。
曇り空の景色は時間経過と共に移り変わり、
お弁当箱を広げていた親子はいつしか姿を見せなくなった。
時間が進むにつれて、遊びに来る子供の年齢層が高くなる。
遊具で遊ぶ音も一層激しくなり、ベンチにうずくまっている私の耳に伝わってくる。
午前中に家を飛び出したけど、お腹が空いてる事すら忘れて泣き崩れていた。
日が傾いてきたからふと公園の時計を見上げると、時計の針は16時を過ぎている。
でも、時計を見た途端、ふと大事な用事を思い出した。
そうだ……。
お母さんの事ばかりに気を取られていたけど、13時から理玖と約束していた。
もう、約束の時間は3時間も過ぎている。
約束をすっぽかした上に、何も持たぬまま家を飛び出して来たから連絡手段もない。
ここから理玖の家は割と近いけど、散々泣き腫らした目とぐしゃぐしゃになっている気持ちのままじゃ顔が合わせられないよ……。
太陽が沈み行くと共に気温は低下。
寒さはいよいよ限界を迎えて身体の震えが止まらなくなった。
このままじゃ身がもたないから、とりあえずノグの家に向かった。
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