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第六章
128.温かく出迎えてくれたノグ
しおりを挟むーー愛里紗はノグの家に到着。
ノグは玄関先で血色が悪いまま泣き腫らした顔で立つ愛里紗に目をギョッとさせた。
「何かあったの? 唇真っ青だよ。……泣いてたの?」
「……ノグ、ごめん。ここしか行き場が見つからなくて」
「いいんだよ。とりあえず家に上がって。一旦落ち着いてから話を聞くから」
ノグは愛里紗を自分の部屋に通した後、キッチンからホットココアを持って来た。
愛里紗はマグカップを受け取りフゥフゥと冷ましながら、つめたく冷え切った身体に少しずつ温もりを浸透させていく。
毛布にくるまり体温の上昇とココアの甘さで気持ちが安定していくと、ノグにここに来るまでの経緯を話した。
「そっか……、でもね。母親も一人の人間だから、一人娘のあんたが苦しんでいて心配だったんだと思う。少しは気持ちを理解してあげないと」
……そう、ノグの言う通り。
本当は自分でも分かってる。
お母さんは単に心配していただけ。
でも、手紙を隠した事がどうしても許せない。
手紙の件は、私だけじゃなくて返事を待ち望んでいる谷崎くんにも迷惑がかかっているから。
「今日はうちに泊まってゆっくり休みな」
こうして、愛里紗はノグの計らいによって家に泊めてもらう事になった。
もう疲れた……。
今日はノグの家でこれ以上何も考えずにゆっくり休もう。
愛里紗は今日一日で精神的に参ってしまったせいで、途中まで覚えていた理玖とのデートをすっぽかした上に、謝罪の連絡を忘れていた。
一晩お世話になったノグの家では、疲れきっていたせいもあってグッスリ眠れた。
涙が枯れるほど泣いて腫れてしまった目は、今朝も引き続き重たく腫れぼったい。
ノグは部屋着のまま家を飛び出てきた私に、タンスから似合いそうな服を用意してくれた。
借りたスカートはちょっとキツい。
でも、心が冷え切っている私には温かく感じた。
朝食後に気分転換を兼ねて近所の公園へ。
冬の香りは鼻の奥をツンと刺激して喉をくすぐるように通過していく。
唇から漏れる吐息は、まるでタバコの煙のように口元にほんわりと留まり、ゆっくり散るように消えてゆく。
頬が凍りつきそうな冷たい朝は、まだ時間が早いせいか公園に子供はいない。
ベンチに腰をかけて歩道の方に目をやると、ランニングをしているおじさん、休日出勤と思われるサラリーマン、犬を散歩してる人々などが休日の街を行き交っていた。
「今日は家に帰れそう?」
「明日は学校だから帰らないとね」
「家に帰ったらおばさんと仲直りしないとね。親とは毎日顔を合わすから、何処かで妥協しないといつか本当に辛くなる日が来るよ」
「うん、わかってる」
冴えない表情を覗かせる愛里紗に、ノグは引き続き気にかけていた。
実は、昨晩ベッドに入る前から考えていた事がある。
気が滅入っていたのは母親の件だけじゃなくて、咲とケンカしてしまった事も含まれていて、この件をノグに話すかどうか迷っていた。
親友は咲だけだから、ケンカをしてから本音を語れる人がいなくなった。
最近、昼食を共にしてる友達はいるけど、本心を語れるような仲じゃない。
本当は毎日が辛くて、ここ最近は自分の殻の中に閉じこもりがちだった。
でも、昨晩母の話を聞いてもらって少し気が晴れたから、2週間前にケンカ別れをした咲についてカミングアウトする事に。
ところが、いざその話を口にしようとすると、怖くて口元が震えてしまい、第一声を伝えるまでに時間がかかった。
ノグに話をしづらかった理由は、同じ学校に通う咲と、小学生時代の級友 谷崎くんの事をよく知ってるから。
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