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第七章
138.恐怖のジェットコースター
しおりを挟む念の為に再確認でジェットコースターに指をさした。
「あのっ……。まさか……こっこれに……」
「めっちゃ楽しそうだろ。ラッキー! 今ならそんなに並んでないよ」
「あっ、いや……私はいいから。理玖一人で行っておいで」
「はぁ?! 何言ってんの? ジェットコースターはこの遊園地の目ん玉だろ? ほら、こんなところで足を止めてないで早く行かないと、あっという間に混んじゃうだろ」
「目ん玉と言うか、目玉ね。でも、ちょっとこれは……」
ジェットコースターにワクワクして足取りが軽い理玖に対して、冬と言えども恐怖のあまり冷や汗で全身ビッショリになっている私は、引けた腰でゆっくり後ずさりをした。
だが、彼は嫌がる素振りを見せる私などお構いなしに腕を掴んで身体を引き止める。
「まさか、怖いの? 俺がいるから大丈夫」
「絶対無理っっ。乗れない!」
「最後まで手を繋いでるから早く行こう」
「ヤダ、行かないっ! 死んじゃう。助けて!」
叫んで裏返った声はもはや悲鳴。
肝が据わらず情けない。
でも、結局引きずられるように連れて行かれて、青ざめた顔のまま列に並ばされた。
理玖は私のテンションを上げる為にあれこれ駆使しているけど、切羽詰まっていてそれどころではない。
順番が回って来るとゲートが開かれて座席に座り、安全ベルトにロックがかかった瞬間、恐怖のあまり一瞬だけ意識を失って白眼になった。
しかし、ジェットコースターが発車した瞬間、ガタンと大きな振動で再び意識が呼び起こされた。
怖いよー。
神様ー。
私はお化け屋敷よりも、絶叫マシンが苦手なんだよー!
俺が居ても居なくても関係ないし、怖いもんは怖いんだよぉ……。
半目涙になりながら乗っていたジェットコースターはゆっくりと車体を傾けて、頂上へと真っ直ぐ進み始めた。
落下している最中は喉が枯れるくらいギャーギャーと騒ぎまくったけど、隣でしきりに笑っていた理玖の頭は果たして無事だったのだろうか。
異常なくらい笑ってたけど、実は怖かったりして……。
無事にジェットコースターを乗り終えて、頬がこけるくらいゲッソリしながらも達成感はあった。
しかし、残念ながら乗った乗り物はまだ一つだけ。
腕時計をチラ見しても、遊園地に到着してからまだ30分も経っていない。
大袈裟かもしれないけど、今の一瞬でもう一生分の勇気を使っちゃったかもしれない。
なんて思いながら、もつれた足で近くのベンチに腰を下ろそうとしてお尻を向けた瞬間、理玖はムッと眉間にシワを寄せて私の手を引いた。
「ちょっと待った! まだ休まないよ」
「えっ……」
「お前から遊園地に誘われたんだし、昨日からワクワクして眠れなかったんだから、この責任はちゃんと取ってね」
絶叫マシンだけじゃ満足しきれていない理玖は不服そうにそう言うと、手を取って歩き出した。
考えが甘かった……。
理玖を喜ばそうと思って考え抜いた結果、遊園地にしたのに。
身に危険が及ばない平和な動物園や、気持ちの浮き沈みの少ない無難なショッピングにしておけばよかった。
なんて思いつつ、くらくら目眩がしながら、またもや引きずられるように連れて行かれた先は……。
ななな、何と!
またもや超苦手なお化け屋敷。
お化け屋敷を目前にしてショックを受けると、開いた口が塞がらなくなった。
理玖は私がジェットコースターにイヤイヤ乗車してたのを知ってるから、さすがに嫌と言えば空気を察してやめてくれるよね。
理玖はいつも優しいもんね。
そこがいいところだもんね。
一瞬甘い期待を抱いて理玖の足止めをしようと思ったのだが……。
「あのっ、私ちょっとここは……」
「……またかよ。そのセリフはさっき聞いたからもう無しね」
今日はやけに反抗的だ。
理玖はお化け屋敷に入る事を渋ってブーブー文句を言っている私になどお構い無しで、入り口の係員に二人分のチケットを出した。
強制的に入場させられそうになると、手を引き返して最後のあがきを見せた。
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