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第七章
144.受け止めた気持ち
しおりを挟む「ムキになっちゃってバカじゃない? バイバーイ」
ドンッ……
「キモっ……。やってらんねぇ」
ドンッ……
「青春じゃん。あー、ごっつぁんでしたぁ」
ドンッ……
理解をしてもらえるどころか、最後の反論ができぬまま三人の足音が消えていった。
愛里紗はその場に一人取り残されて、煮えきらない気持ちと戦いながらスカートをギュッと握りしめて涙を滴らせていると……。
「愛里紗……」
背後の廊下側からスっと姿を現した咲はか細い声で名を呼んだ。
咲は廊下を歩いていた際、偶然トイレから三人組と愛里紗のやり取りが聞こえてきたので、足を止めて見届けていた。
三人組にぶつけていた愛里紗の気持ちは、咲の耳と心でしっかり受け止められている。
今までは謝罪の言葉を重ねても、まともに取り合ってもらえなかった。
『ごめん』
『私が悪かった』
『反省してる』
この三セットが口癖みたいになっても、誠意を示す為に背中を追い続けた。
愛里紗は特別な人。
辛い状況下で親身に支えてくれたのは世界でたった一人。
愛里紗しかいないから、仲直りが出来るように何度も伝え続けた。
でも、与えてしまった傷の深さは想像以上。
最近はもう許してもらえないんじゃないかと思って、諦めかかっていた矢先の出来事だった。
一方、無意識に本音が溢れて不意打ちを食らった愛里紗はハッとした目で振り返る。
咲を許した訳じゃない。
許すも許さないも、咲がしてきた事は常識の範囲を超えている。
だけど、彼女達の悪口を耳にしたら居ても立っても居られなくなっていた。
愛里紗は心を覗き見されたような気分になると、咲を横切って逃げるようにトイレから出て行った。
『今なら仲直り出来るかもしれない』
咲は愛里紗が一瞬だけ覗かせた小さなチャンスに賭ける事に。
早足で後を追い、愛里紗から離れぬように距離を縮めた。
「愛里紗」
「来ないで」
「ねぇ、いま彼女達から私を守ってくれたんだよね」
「……」
「『咲の悪口を言っていいのは親友の私だけ』だって。『咲の事を私が一番よく知ってるから』って。『傷付けるなんて許せない』って」
「……」
「それは今日だけじゃない。以前も私の見てないところで同じように守ってくれた」
「……」
「愛里紗、ごめん……」
「絶対許さないから…」
「どうしても仲直りしたい」
「自分がした事を忘れたの?」
「愛里紗の気持ちを考えずに、どうして酷い事をしたんだろうって反省してる」
「もうやめてよっ!」
咲は横に追いつくが、愛里紗は歯を食いしばりながらサッと顔を背ける。
だが、咲は目の前に周って、ガバッと両手を大きく広げて行く手を阻んだ。
「待って! 私の話を最後まで聞いて」
しかし、愛里紗は瞳に涙を潤ませながら一向に諦めようとしない咲を睨みつけた。
「話なんてもうないから」
キッパリと冷淡に遇らうと、咲の手をパシッと払い退けて先を進んだ。
咲は、今回ばかりは諦められない。
普段なら冷たい態度であしらわれた瞬間、いま以上嫌われないように諦めをつけていたが、今日は違う。
愛里紗の心情を知ったからこそ、諦める気持ちを捨てた。
引き止めた手を振り払われても、涙をぬぐいながら後を追いかけている。
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