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第七章
145.後悔
しおりを挟む「今日はどうしても話がしたいの。親友は愛里紗じゃなきゃダメ。私の事を心から想ってくれる友達は愛里紗しかいないの。だから、一日でも早く仲直りしたい……」
「……」
咲は必死に喰らいつくが、愛里紗は聞き入れようとせずに無言で足を進める。
「待って……」
階段にさしかかると、咲は再び愛里紗の肘を掴んで足を引き止めた。
「愛里紗と話せない間、ずっと後悔してた。確かに私が愛里紗の立場でも許さなかったと思う。好きだった人を意図的に遠ざけられたら誰でも嫌な気持ちになると思う。……でもね、簡単に諦められないくらい大切な恋だった。その気持ちだけはわかって欲しい」
謝罪言葉を繰り返す咲の頬は涙でびしょ濡れだが、愛里紗は彼氏の話を幸せそうに語っていたあの頃の笑顔を思い出すと、惨めな気持ちばかりが募っていく。
「簡単に許せると思ってる? 一番の親友に裏切られたんだよ。アルバムを見せた時に『偶然だね』って。『この人がいま好きな人なんだよ』って、最初から素直に明かしてくれればここまで問題にはならなかった」
「私だって後悔した。でも、一度エンジンがかかったら止まらなくなったの。どうしても手に入れたい。他の人には取られたくないと思うのが恋でしょ。私は真剣に恋して、ぶつかって、フラれて、またぶつかって。この繰り返しがどれだけ辛い事だったか……」
「じゃあ、家庭の事情で無理やり引き離された私は可哀想じゃないとでも言うの?」
「そんな事言ってない。ただ、自分の想いを守る事で精一杯だっただけ」
「そんなの自分勝手だよ。私にとってはあの時の恋愛は人生そのものだった。一生分の甘酸っぱい恋に散々苦しんだ。谷崎くんが忘れられなくて、毎日声が枯れるくらい泣いたし、お別れがトラウマになって何度も悪夢にうなされた。……そんな事情も知らないクセに軽々しくあしらわないでよ」
「そんなつもりじゃなかった。初めて愛里紗の気持ちを聞いた日は、翔くんが取られそうな気がして怖かった。でも、愛里紗の恋は過去のものだと割り切る自分もいて。どうしたらいいかわからなくて……」
「勝手過ぎるよ……。もう、話し合う価値なんてない。……ついて来ないで」
「愛里紗……」
「もう二度と話しかけないで! 私を見かけても無視してよ」
「嫌だよ。以前の関係に戻りたいし、仲直りしたい。私には愛里紗しかいないの」
「もう、嫌。都合の良い事を言い並べられても、咲なんて大嫌いなんだからぁ!」
と、気が狂ったように怒声を浴びせながら咲の手を勢いよく振りほどいた瞬間……。
咲は階段から足を踏み外してしまい、まるでスローモーションのように下の踊り場に向かって弾むように身体を宙に浮かせて……。
バサッ……バサバサ……バサバサ……
バサッ……
回転しながら踊り場の地面に叩きつけられた。
……一瞬、何が起きたかわからなかった。
踊り場で横たわる咲は意識を失ってしまったのか、ピクリとも動かない。
その姿は、まるで等身大の人形のよう。
先程まで激しく言い争っていたのが嘘のように……。
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