148 / 226
第七章
146.咲の元へ駆けつけた人物
しおりを挟む愛里紗は想定外の事態に動揺が隠せない。
だが、次第に頭は少しずつ働き始めて、咲の身体を押した手をすくうように見つめるとガタガタと震え始めた。
私の手が……、咲の身体を押したの?
私が……。
この手で咲を……。
「さ……き…………」
顔面蒼白のまま無意識に呟いた。
だが、階段上から呼んでも咲は反応を示さない。
向こう側を向いて倒れたまま。
5秒間……。
それは、足に根が生えていた時間。
信じられない気持ちと受け入れ難い現実が交錯している。
一刻でも早く安否確認しなきゃいけないのに、何故か身体が動かない。
ーーだが、次の瞬間。
大きな人影と風が愛里紗の隣を過ぎった。
「駒井っ……」
彼は騒々しく足音を立てて手すりにつかまりながら階段を一段飛ばしで駆け下りると、倒れている咲の元へまっしぐらに向かった。
動揺して何も出来ずに佇んでいる私よりも先に駆けつけた人物。
その人は、去年私達と同じクラスで。
咲に彼氏がいる事も知らずに1年以上もアピールを続けていて。
借りたノートや教科書の返却時にはいつもイチゴ味の飴をお礼に添えて。
期末テスト前に咲のノートを返し忘れちゃうくらいおっちょこちょいで。
ビックリするくらい恋愛下手で、ひたすら咲だけを想い続けている、あの木村だった。
木村は女子トイレ付近で二人の異変に気付いて、遠目から様子を見ていた。
しかし、咲が階段から転落した瞬間、足が自然と咲の身体を追っていた。
木村は咲の元へ着くと、ストンとひざまずいて耳元に顔を寄せて呼びかけた。
「こっ駒井。おいっ、意識はあるか? おいっ……おいっ……」
だが、咲は反応しない。
徐々に木村は青ざめていく。
一方の愛里紗は、現況を目に映しつつもショックのあまり無力に佇んでいた。
木村はそんな様子に気付いた途端、キッと睨みつけて怒声をあげる。
「江東! 何ボーッと突っ立ってんだよ。早く先生呼んで来いよ。駒井を助ける気あるのかよ! お前は親友だろ」
木村の悲痛の叫びで目が覚めると、根付いていた足を振り切って一目散に職員室へ向かった。
走って、
走って、
全力で走りまくった。
袖で涙を拭いながらがむしゃらに階段を後にしたのは覚えているけど、それからどうやって先生を呼びに行ったのか覚えていない。
もし、木村が現れてくれなかったら、私はどうしていたんだろう……。
ーー全部私のせいだ。
咲の話に耳を貸さなかったから。
無視し続けていたから。
気持ちを踏みにじっていたから。
私がつまらない意地さえ張らなければ、咲は階段から転落しなかった。
愛里紗は次々と押し寄せてくる後悔と罪悪感に塗り固められていく。
ーーそれから暫くして、咲は救急隊員の手でストレッチャーに乗せられて救急車に運ばれていく。
愛里紗と木村は、言葉を失わせたままその様子を遠目から眺めていた。
愛里紗は安否が気になるあまり搬送先の病院まで付き添おうと思って一歩踏み出すが、木村は手首を引き寄せた。
「何やってんだよ。江東が一緒に救急車に乗り込んでもしょうがないだろ。ここは担任に任せよう」
「私が悪いの……。私が咲の手を振り払って押したの。私がっ…………。だから、お願い。一緒に病院へ行かせて」
「落ち着けよ。自分を責めても何も生まれない。それに、駒井が転落したのは江東のせいじゃない」
「そんなの、嘘……。私がこの手で咲を押したの。代わりに私が落ちれば良かった。咲に散々酷い事を言ったから、私にバチが当たれば良かったんだよ」
「しっかりしろ! 駒井ならそうは思わないはずだ」
「万が一、咲に何か遭ったら……。意識が戻らなかったら……、死んじゃったら……。私、どうしたらいいかわかんないよ。咲の事を世界で一番好きなのは、この私なんだからぁ……」
愛里紗は感情的に涙を流しながら、木村の手を振り解こうとしてもがく。
すると、木村は気持ちを落ち着かせる為に、事故状況を伝え始めた。
0
あなたにおすすめの小説
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる