初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

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第七章

146.咲の元へ駆けつけた人物

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  愛里紗は想定外の事態に動揺が隠せない。
  だが、次第に頭は少しずつ働き始めて、咲の身体を押した手をすくうように見つめるとガタガタと震え始めた。



  私の手が……、咲の身体を押したの?

  私が……。
  この手で咲を……。



「さ……き…………」



  顔面蒼白のまま無意識に呟いた。
  だが、階段上から呼んでも咲は反応を示さない。
  向こう側を向いて倒れたまま。


  5秒間……。
  それは、足に根が生えていた時間。

  信じられない気持ちと受け入れ難い現実が交錯している。
  一刻でも早く安否確認しなきゃいけないのに、何故か身体が動かない。



  ーーだが、次の瞬間。
  大きな人影と風が愛里紗の隣を過ぎった。



「駒井っ……」



  彼は騒々しく足音を立てて手すりにつかまりながら階段を一段飛ばしで駆け下りると、倒れている咲の元へまっしぐらに向かった。

  動揺して何も出来ずに佇んでいる私よりも先に駆けつけた人物。


  その人は、去年私達と同じクラスで。
  咲に彼氏がいる事も知らずに1年以上もアピールを続けていて。
  借りたノートや教科書の返却時にはいつもイチゴ味の飴をお礼に添えて。
  期末テスト前に咲のノートを返し忘れちゃうくらいおっちょこちょいで。
  ビックリするくらい恋愛下手で、ひたすら咲だけを想い続けている、あの木村だった。



  木村は女子トイレ付近で二人の異変に気付いて、遠目から様子を見ていた。
  しかし、咲が階段から転落した瞬間、足が自然と咲の身体を追っていた。



  木村は咲の元へ着くと、ストンとひざまずいて耳元に顔を寄せて呼びかけた。



「こっ駒井。おいっ、意識はあるか?  おいっ……おいっ……」



  だが、咲は反応しない。
  徐々に木村は青ざめていく。

  一方の愛里紗は、現況を目に映しつつもショックのあまり無力に佇んでいた。
  木村はそんな様子に気付いた途端、キッと睨みつけて怒声をあげる。



「江東!  何ボーッと突っ立ってんだよ。早く先生呼んで来いよ。駒井を助ける気あるのかよ!  お前は親友だろ」



  木村の悲痛の叫びで目が覚めると、根付いていた足を振り切って一目散に職員室へ向かった。


  走って、
  走って、
  全力で走りまくった。

  袖で涙を拭いながらがむしゃらに階段を後にしたのは覚えているけど、それからどうやって先生を呼びに行ったのか覚えていない。

  もし、木村が現れてくれなかったら、私はどうしていたんだろう……。



  ーー全部私のせいだ。
  咲の話に耳を貸さなかったから。
  無視し続けていたから。
  気持ちを踏みにじっていたから。

  私がつまらない意地さえ張らなければ、咲は階段から転落しなかった。



  愛里紗は次々と押し寄せてくる後悔と罪悪感に塗り固められていく。



  ーーそれから暫くして、咲は救急隊員の手でストレッチャーに乗せられて救急車に運ばれていく。
  愛里紗と木村は、言葉を失わせたままその様子を遠目から眺めていた。


  愛里紗は安否が気になるあまり搬送先の病院まで付き添おうと思って一歩踏み出すが、木村は手首を引き寄せた。



「何やってんだよ。江東が一緒に救急車に乗り込んでもしょうがないだろ。ここは担任に任せよう」

「私が悪いの……。私が咲の手を振り払って押したの。私がっ…………。だから、お願い。一緒に病院へ行かせて」


「落ち着けよ。自分を責めても何も生まれない。それに、駒井が転落したのは江東のせいじゃない」

「そんなの、嘘……。私がこの手で咲を押したの。代わりに私が落ちれば良かった。咲に散々酷い事を言ったから、私にバチが当たれば良かったんだよ」


「しっかりしろ!  駒井ならそうは思わないはずだ」

「万が一、咲に何か遭ったら……。意識が戻らなかったら……、死んじゃったら……。私、どうしたらいいかわかんないよ。咲の事を世界で一番好きなのは、この私なんだからぁ……」



  愛里紗は感情的に涙を流しながら、木村の手を振り解こうとしてもがく。
  すると、木村は気持ちを落ち着かせる為に、事故状況を伝え始めた。

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