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第七章
147.フラッシュバック
しおりを挟む「お前は手元しか見てないかもしれないけど、俺はこの目で一部始終見ていた。確かに、お前は駒井の手を振り払ったけど、駒井は階段手前ですでに足をひねって体勢を崩してた。だからお前のせいじゃない」
「嘘っ! そんなの信じられない」
「しっかりしろ。あれは不慮の事故だから自分を責めるな。あの時はお前が何をしなくても駒井は階段から転落してたんだ」
木村はパニック状態で自らを責め狂う愛里紗に言い聞かせるが、愛里紗は素直に聞き入れられない。
ただ、自己嫌悪に陥るだけ……。
それから間もなく第一発見者の木村は学年主任に呼ばれて、事故状況の説明をする為に応接室へ。
私は興奮で過呼吸になっていたせいか、養護教諭に連れられて保健室に到着した後は、呼吸を整える為の紙袋が渡された。
……でも、使わなかった。
気が滅入っていてそれどころじゃない。
今はそんな小さな配慮ですら煩わしく思っていた。
ーー咲が病院へ搬送されてから、どれくらい時間が経ったのかわからない。
私は保健室に身を残したままベッドにお尻を根付かせていた。
時間と共に気分は落ち着いてきたけど、頭の中は咲の事で目一杯に。
すると、事故報告を終えたばかりの木村は、保健室の扉を開けて顔を覗かせた。
「江東。……大丈夫?」
「……ん」
デスクで作業をしていた養護教諭は木村の入室に気付くと、手元の書類から目を外して言った。
「江東さん……。後で家に連絡するからもう帰りなさい」
だが、愛里紗は木村の顔を見た途端、転落シーンがフラッシュバックしてしまったかのように再び取り乱した。
「咲はっ……、咲は何処の病院に搬送されたの? いま先生から話を聞いて来たんでしょ。ねぇ、早く教えて。一刻でも早く病院に向かわなきゃ」
「落ち着けよ。駒井ならまだ検査中だろ?」
「私、行かなきゃいけないの。咲が心配で気が気じゃない。検査が終わった後でもいいから咲に謝りたいの。ねぇ、お願い……。居場所を教えてよ」
「搬送されたばかりなのにすぐ面会出来る訳ないだろ。今日一日は安静しなきゃ無理だろ。せめて明日にしろって!」
「ううん、今日じゃなきゃダメ。たとえ意識が回復していなかったとしても、『ごめん』のひとことを伝えなきゃ。咲に酷い事を言ったから、謝るまで気が治らないの……」
「江東……」
「……参ったわね」
一心不乱に木村に詰め寄る愛里紗を見た養護教諭は、深いため息をついて降参したように搬送先の病院を教えた。
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