初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
150 / 226
第七章

148.2時50分

しおりを挟む


  養護教諭から病院の所在地が書いてあるメモを受け取ると、木村と二人で搬送先の病院にバスで向かった。

  木村には迷惑をかけっぱなしで悪いと思って病院の付き添いを断った。
  でも、首を横に振る彼も同様、咲が心配でたまらない。


  バスに乗り込んでから中央扉の後ろの二人席に座った。
  木村は通路を挟んだ反対側の一人席へ。


  窓に映すお互いの目線はそれぞれ別方向へ向いている。
  バス全体を時計に見立てたら、木村は2時の時針、私は50分の分針方向へ。

  私達はそれぞれ別方向を向いているけど、心の中は12時ジャストの方向に向けて、同じく咲の容態を心配をしている。
  流れ行く景色を眺めながら、お互い無言のまま物思いにふけっていた。



  ーー病院前のバス停に到着。
  愛里紗はバスを飛び降りてから全速力で病院に走った。
  木村は降車していきなり走り出した背中を見ると、焦るように後を追う。


  愛里紗は気焦りしているせいか、開き途中の自動ドアに身をねじ込ませるかのように通り抜けて院内へと入る。
  ハァハァと息を切らしながら受付に着くと、カウンターに身を乗り出しながら事務員に問い尋ねた。



「あのっ……。先ほど救急でこちらの病院に搬送された駒井 咲ですが、容態はどうなんですか?  病室はどちらですか?  お願いします。教えて下さい」

「おい、落ち着けよ。まだ検査中だろ」

「あ、はい……。お名前は駒井 咲様でお間違いないでしょうか」


「はいっ!」

「只今お調べしますので少々お待ちください」



  アツくなっている愛里紗とは対照的に、受付事務員は事務的な対応で手元の資料に一度目を通した後、手元のパソコンで名前を検索する。
  愛里紗にはそんな僅かな時間ですら落ち着かないが、木村は隣で冷静に見守っている。

  ところが、パソコンを手を止めた受付事務員は、ドキドキしながら結果を待つ二人へ冷静な目を向けた。



「本日救急搬送された方のデータを全てお調べしてみたのですが、駒井 咲さんという方は本日こちらに搬送されておりません」



  てっきり現在の居場所を教えてもらえるはずが、想定外の返答に我が耳を疑った。

  養護教諭から渡されたメモには、確かにこの病院名が書いてある。
  だから、咲はこの病院にいる事には間違いないのに。

  信じ難い気持ちに包まれながらもう一度確認した。



「学校からこちらに搬送されたと聞いたんですけど」

「申し訳ございません。全てのデータに目を通しましたが、駒井様のお名前は登録されておりません」

「嘘だろ……」


「何か手違いがあるかもしれないから、もう一度よく調べて下さい」

「おい、江東……」

「何度も申し上げますが、本日搬送された患者様の中に駒井様というお名前は確認出来ません。ご自身の方でもう一度搬送先の病院をご確認されてはいかがでしょうか?」


「何言ってるの?  先生が書いてくれたメモを頼りにここまで来たんだから間違ってない!咲は絶対この病院にいるはず……」

「おいっ……江東。落ち着けよ」

「申し訳ございません」



  受付事務員の事務的で一点張りな対応を目の当たりにした瞬間、3時間前まで言い争っていたはずの咲は行方不明に……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

秋色のおくりもの

藤谷 郁
恋愛
私が恋した透さんは、ご近所のお兄さん。ある日、彼に見合い話が持ち上がって―― ※エブリスタさまにも投稿します

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...