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第七章
148.2時50分
しおりを挟む養護教諭から病院の所在地が書いてあるメモを受け取ると、木村と二人で搬送先の病院にバスで向かった。
木村には迷惑をかけっぱなしで悪いと思って病院の付き添いを断った。
でも、首を横に振る彼も同様、咲が心配でたまらない。
バスに乗り込んでから中央扉の後ろの二人席に座った。
木村は通路を挟んだ反対側の一人席へ。
窓に映すお互いの目線はそれぞれ別方向へ向いている。
バス全体を時計に見立てたら、木村は2時の時針、私は50分の分針方向へ。
私達はそれぞれ別方向を向いているけど、心の中は12時ジャストの方向に向けて、同じく咲の容態を心配をしている。
流れ行く景色を眺めながら、お互い無言のまま物思いにふけっていた。
ーー病院前のバス停に到着。
愛里紗はバスを飛び降りてから全速力で病院に走った。
木村は降車していきなり走り出した背中を見ると、焦るように後を追う。
愛里紗は気焦りしているせいか、開き途中の自動ドアに身をねじ込ませるかのように通り抜けて院内へと入る。
ハァハァと息を切らしながら受付に着くと、カウンターに身を乗り出しながら事務員に問い尋ねた。
「あのっ……。先ほど救急でこちらの病院に搬送された駒井 咲ですが、容態はどうなんですか? 病室はどちらですか? お願いします。教えて下さい」
「おい、落ち着けよ。まだ検査中だろ」
「あ、はい……。お名前は駒井 咲様でお間違いないでしょうか」
「はいっ!」
「只今お調べしますので少々お待ちください」
アツくなっている愛里紗とは対照的に、受付事務員は事務的な対応で手元の資料に一度目を通した後、手元のパソコンで名前を検索する。
愛里紗にはそんな僅かな時間ですら落ち着かないが、木村は隣で冷静に見守っている。
ところが、パソコンを手を止めた受付事務員は、ドキドキしながら結果を待つ二人へ冷静な目を向けた。
「本日救急搬送された方のデータを全てお調べしてみたのですが、駒井 咲さんという方は本日こちらに搬送されておりません」
てっきり現在の居場所を教えてもらえるはずが、想定外の返答に我が耳を疑った。
養護教諭から渡されたメモには、確かにこの病院名が書いてある。
だから、咲はこの病院にいる事には間違いないのに。
信じ難い気持ちに包まれながらもう一度確認した。
「学校からこちらに搬送されたと聞いたんですけど」
「申し訳ございません。全てのデータに目を通しましたが、駒井様のお名前は登録されておりません」
「嘘だろ……」
「何か手違いがあるかもしれないから、もう一度よく調べて下さい」
「おい、江東……」
「何度も申し上げますが、本日搬送された患者様の中に駒井様というお名前は確認出来ません。ご自身の方でもう一度搬送先の病院をご確認されてはいかがでしょうか?」
「何言ってるの? 先生が書いてくれたメモを頼りにここまで来たんだから間違ってない!咲は絶対この病院にいるはず……」
「おいっ……江東。落ち着けよ」
「申し訳ございません」
受付事務員の事務的で一点張りな対応を目の当たりにした瞬間、3時間前まで言い争っていたはずの咲は行方不明に……。
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