初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
151 / 226
第七章

149.咲の母親

しおりを挟む


  木村はガックリと肩を落としている愛里紗の腕を引いて、受付正面の椅子に座らせた。
  愛里紗は木村が二つ隣の椅子に座る音を聞き取った後、床をぼんやり見つめたままボソッと言う。



「咲がここに居る証拠のメモもあるのにね」

「もし、ここに搬送されてるなら、そのうち家族が来るかもな。もしかしたら、手違いで名前が反映されていないだけかもしれないし」


「木村」

「ん……?」


「咲……、見つかるかな」

「お前が信じてやれば見つかるかもな。……ほら、スマホ貸して」


「どうして?」

「もう15時過ぎたし、これから長丁場になるかもしれないから、代わりにお前んちに電話しとくよ。駒井に会うまで待つんだろ?  お前は駒井の家族と入れ違いにならないようにここで待ってて」


「……木村って、いい奴」



  愛里紗はスマホ画面に自宅の電話帳を映し出して連絡を託した。



「やめろよ。じゃあ、行ってくるから」



  木村は少し照れ臭そうにスマホを握りしめて、病院の自動ドアを出て行った。



  木村は咲の事だけでも目一杯なのに、私まで気にかけてくれる。

  知らなかったよ。
  案外優しいじゃん。
  不器用に咲を追い続けていただけじゃなかったんだね。



  ーー15分後。
  木村は院内に戻ると、背中を丸めて座ってる愛里紗の目の前にスマホとレジ袋を一緒に突き出した。



「昼メシまだだったからコンビニでおにぎり買ってきた。一緒に食おう」

「あはは、昼食の事なんてすっかり忘れてた」


「駒井の親はまだ来てない?」

「うん。会ってない」


「じゃあ、病院の出入り口付近のベンチに座ってメシを食いながら待つとするか」



  日が傾き始めて身震いするほどの冷たい風にさらされながらも、病院前のベンチでおにぎりと温かいお茶を口にしながら、次々と訪れる来院者を一人一人見届けていた。

  暗闇に包まれ始めても、咲の両親は一向に姿を現さない。
  だから、本当にこの病院に搬送されたか確信が持てなくなった。


  外は街灯が灯されたので、再び受付前の椅子に座って待つ事に。
  長時間不安にさらされていたせいか、肉体的にも精神的にも疲れきっていて、いつしか会話も途切れ途切れになった。



『今日はもう帰ろう』

『ううん、あともう少しだけ待つ』



  こんな会話を幾度となく繰り返しながら、静かに腰を下ろしていた。



  ーーしかし、時計の針が17時半を回った頃。
  咲の母親がスマホの操作をしながら病院の奥から姿を現した。

  愛里紗は母親の姿を視界に捉えた瞬間、咲が病院内にいると確信して無言で立ち上がると、吸い込まれるように駆け寄って行く。
  それに気付いた木村は、手荷物を持って後を追った。



「咲のお母さん!  咲はっ……咲は、この病院内にいるんですか?  容態は?」


 
  愛里紗は聞きたい事が沢山あって、息つく間もなく質問攻めに。
  咲の母親は愛里紗達に気付くと、足を止めて憂に満ちたままの表情を向けた。



「おい、落ち着けよ」

「落ち着いてられないよ。咲の容態が気になってしょうがないの」



  若干フライング気味の愛里紗は木村と小競り合いをしていると、母親は言った。



「愛里紗ちゃんと、咲のお友達くん。咲の心配をして来てくれたのね。ありがとう。咲は軽い脳震盪のうしんとうを起こしていたみたい。あとは軽い打撲と捻挫だから、そんなに心配しなくても平気よ」

「でも、私が咲を階段の上から突き落としたから咲はっ……」

「だから、さっきから違うって言ってるだろ!  駒井の転落原因はお前じゃねえって」


「おばさんもね、学校の先生から事情を聞いたの。直接現場を見た訳じゃないけど、お友達くんが言う通り愛里紗ちゃんが咲を突き落としたとは思えないの」

「でっ、でも……」


「だって、愛里紗ちゃんは誰よりも咲を大事にしてくれてる。おばさんにはちゃんと伝わってるの。……だから、自分を責めないでもう帰りなさい。咲なら大丈夫だし、いま眠ってる。また連絡するから」



  咲の母親は心配かけないようにそう言うと、家に帰るように促した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

処理中です...