初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

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第七章

150.受付で名前が見つからなかった理由

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  でも、誰に何を言われても、今日中に謝りたかった。
  じゃなきゃ、一生後悔するような気がする。
  心の小さな歪みが、まさかこんな大事件に発展するとは思いもしなかった。



「いえ、まだ帰りません」

「愛里紗ちゃん……」


「咲が目を覚ますまで傍に居させて下さい。実は、私達ケンカしたんです。咲は何度も謝りに来てくれたのに、私は話すら聞かなかった。しかも、今回の件は私が悪かったんです。今日中にどうしても謝りたいから、面会時間ギリギリまで傍にいさせて下さい。お願いします」



  愛里紗はそう言うと、胸まで深く頭を下げた。
  隣で見ていた木村は想いが届くと、同じく大きく頭を下げた。

  二人方を揃えてのお願いに、母親はフーっとため息をつく。



咲の母親「参ったわ……。それじゃあ、咲をお願いね。私は仕事を途中で抜け出して来たから一旦職場に戻らないといけないの。咲なら315号室の個室にいるわ。仲直りできるといいわね」

愛里紗「おばさん、ありがとうございます!」


咲の母親「愛里紗ちゃんが傍にいてくれると助かるわ。私達の離婚が原因で咲は精神的に参っていたから今回の事故に繋がったのかもしれない。咲に迷惑をかけたのは愛里紗ちゃんじゃなくて、実は私達なの」

愛里紗「えっ、離婚……。知らなかった」


咲の母親「学校では知られたくなくて旧姓を名乗っていたみたいだけど、愛里紗ちゃんにも話していなかったのね」

愛里紗「あ……、はい」

木村「だから、受付で聞いても名前は見つからなかったんだな。ここに搬送された事に違いないのにおかしいなと思ってた」



  咲の母親は言いたい事を伝え終えると、愛里紗達とバトンタッチをするように二人の肩をポンッと叩いた。



  私達二人はおばさんと別れてから315号室の部屋を探した。
  病室扉前に足を止めて扉のすぐ右横にあるプレートで部屋番号を確認。
  その下のネームプレートには、《磯貝 咲》と書かれている。

  見慣れない名字に戸惑って木村とお互い顔を見合わせた。



「『駒井こまい』は『磯貝いそがい』になってたんだな」

「そんな名字知らない……」



  私達は2年近く親友だけど、この瞬間初めて名字が変わっていた事を知った。
  両親が不仲という話を聞いていたから少しでも心が休まるように気を配っていたものの、ケンカしている間に事態が悪化していたなんて……。


  いつ名字が変わったのかな。
  私は親友なのに、自分の事で精一杯だったせいで、苦しみに気付いてあげれなかった。
  父親と離別した上に私ともケンカしていたから、想像以上に辛かったんじゃないかな。

  いつでも話し合える距離にいたのに、心の変化に気付けなかった。



  病室の扉を開けて中に入ると、咲は左奥のベッドに横になっていた。
  私達二人は咲を起こさぬよう、音に配慮しながらベッドの隣に立ち並ぶ。


  スヤスヤと寝息を立てながら眠る咲。
  今は辛い事など忘れてしまったかのように安らかな表情をしている。

  顔を久しぶりに間近で見た。
  期末テストの日にケンカ別れをしてしまったから、こんなに近くで見るのはおよそ1ヶ月ぶり。


  私に謝ろうとしていたのに、ずっと無視され続けていたせいか、頬がすっかりやせ細っていて、頬は血色が悪くて目の下にはクマができている。

  そして、階段から落下した時に出来たと思われる青あざがおでこと顎に。
  切れた唇。
  手首と足首には包帯が巻いてある。


  その姿は、楽しく笑い合っていたあの頃とは別人のよう。
  お人形さんのような可愛い顔にはガーゼを貼られて、幸せからは程遠いところに置いてけぼりに。


  ……全部私のせいだ。
  少なくとも記憶の中の咲はいつも笑顔だった。
  そして、私はその笑顔に助けられていた。

  しかも、それを痛感したのは、残念ながらベッドで眠っている傷だらけの咲を目の当たりにしている今。


  ごめんね……。
  心も身体もいっぱい傷つけちゃったし、少しずつやつれていた事にも気付いてあげれなかった。
  私は親友なのに最低だね。
  辛い時は守ってあげなきゃいけなかったのに……。

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