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第七章
151.1分1秒でも……
しおりを挟む全身傷だらけの咲の姿を見て心を痛めた愛里紗は、咲の手をギュッと強く握りしめてベッドに顔をうずめて呟いた。
「いっぱい傷つけてごめんね。一人で苦しんでいたのに気付かなくてごめん。精一杯謝ってくれたのに耳も貸さなくてごめん……」
ザラついてる包帯を巻いてつめたく冷え切った咲の手を握りしめてるうちに、涙は震えと共に止まらなくなった。
でも、すすり泣いているうちに、咲が普段言っていた何気ない言葉の数々が蘇っていく……。
『愛里紗の事だって負けないくらい大好きだよ。愛里紗の良い所は人一倍お人好しで優しいところ。そんな愛里紗がぜーんぶ、ぜーんぶ大好きなんだもん!』
『愛里紗の事も大好きだって言ったでしょ。忘れちゃったの?』
バカだ、私……。
咲はいつも一番に想ってくれたのに、私は話を最後まで聞こうとしないで逃げてばかり。
『……愛里紗。だーい好き! ずっと親友でいてね。約束だよ!』
何やってたのかな……。
こんなに残酷な目に遭わせるくらい恨んでいたワケじゃないのに。
それだけじゃない。
先日理玖からも言われた。
『久々に再会したら、無理に笑っていた過去のお前はもういなくなってた。多分、咲ちゃんだろうな。お前を変えたのは』
咲の存在は大きかった。
理玖と自然消滅した直後に出会って、若葉に水を与えるように毎日笑顔を与えてくれた。
自分の事なんていつも二の次。
高一の頃から与えてもらったものは計り知れない。
ごめんね……。
目が覚めたら仲直りしたい。
許してもらえなくてもいいから、ちゃんと目を合わせて謝りたいよ。
木村は、心配で泣き崩れている愛里紗を見て配慮する事に。
「じゃあ俺、もう帰るから。駒井と仲直り出来るといいな」
「色々ありがとう。木村のお陰で助かったよ。私一人だけじゃ何も出来なかったから」
「そんな事ないよ。……じゃ、またな」
疲れた顔で病室を去っていく木村に手を振って見送った。
ーーそれから、およそ20分くらい経過。
廊下を行き交う足音の回数も、時間と共に減っていく。
咲は夢の世界から一向に戻って来る気配は無い。
私はベッドに顔をうずめながら咲の目覚めを待った。
今日は謝れないまま面会時間を終えちゃうのかな。
せめて抜け殻になっている身体だけでもいいから謝らないとね。
「咲……。大嫌いなんて嘘だよ。何度も謝ろうとしてくれたのに、話を聞いてあげなくてごめんね。今更言うのは卑怯だけど大好きだよ。嫌いだった日なんて一日もない。嬉しい時も悲しい時も辛い時も、一番近くで分かち合ってくれたのは咲だけだよ。
本当はここ1ヶ月間が何よりも辛かった。失ってみて初めて大切さに気付いたよ。気付くのに時間がかかってごめんなさい。
両親が離婚して辛かったのにね。気付いてあげれなくてごめん。話を聞いてあげれなくてごめんね。1分1秒でも早く謝りたいよ……」
本当は目を見ながら伝えたかった言葉。
でも、それが叶わないから無反応な身体に向かって想いを伝えた。
顔をうずめている布団は溢れ出る涙が徐々に染み込んでいく。
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