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第七章
155.俺に会いに来た理由
しおりを挟むそれから二人は駅前のカフェに場所を移した。
注文したコーヒーが届けられると、父親は湯気が上がる白いコーヒーカップの取っ手を握りしめた。
だが、手が僅かに震えている。
「ずっとお前達を探してた。まさか街から姿を消すとは思いもしなかった」
「俺もこんな遠方に引越すなんて予想外だった。引っ越してもせいぜい近所だろうって。母さんから街を離れると聞いたのは引っ越し前日だったし」
「そうだったんだね。お前を見つけるまでにかなり時間がかかったよ」
父親は翔を探していた歳月を思い返すと、肩の力が抜けたように深いため息をついた。
母さんと喧嘩していた頃の父さんは怖くて嫌いだったけど、長年培ってきた絆は簡単に解けるものではない。
頑なに突っ撥ねても、やっぱり会いに来てくれた事が嬉しかった。
だから、聞いた。
「どうして俺に会いに来たの?」
すると、父さんは緊張の面持ちで口を開いた。
「子供が大きくなったから会いに来た」
「子供って?」
「……母さんから聞いてなかったんだね。実は、お前に腹違いの妹がいるんだ」
「えっ……」
「もうすぐで5歳になる。可愛い年頃でね。父さんは相手の女性との間に新しい命が授かったから母さんと離婚したんだ」
「そーゆー事だったのか」
離婚の真相を聞いた瞬間、ショックを受けた。
父さんは命の誕生と共に別の人と新しい家族として生活を続けているのだから。
「あの頃は大切なものを見失なっていた。相手との間に赤ちゃんが授かったと知った時は、真っ先に母さんとお前の顔が思い浮かんで後悔したよ」
「……」
「でも、思い出したんだ。お前が授かった時の事を。母さんから嬉しそうにお腹のエコー写真を見せられた時、子供が授かったという実感が湧かなかった。日に日に大きくなっていくお腹。そして、お腹で力強く動き回るお前を見ているうちに父親としての実感が湧いていった」
「父さん……」
「生まれたての頃は毎日寝てばかり。あどけなくて、頼りなくて、守ってやりたくて。日を追うごとに一生懸命笑って、おもちゃのような小さな手で指を握りしめてきたり、寝返りを打ったり、ハイハイしたり、時には転びそうになりながら歩いたり。次第に身の回りの事が一人で出来るようになって、毎日成長していく様子を見て幸せを感じていた。
ある日会社に行こうとすると、まだ歩きたてのお前は行かないでくれと訴えるように、スーツを掴んだままワーッと泣いた。あんなに小さくても、父さんはお前の大切な人なんだと痛感した。そんな成長を見守ってきたからこそ、新しい命を大切にしようと思った」
父親はそう言うと、伏せ目のまま両手でコーヒーカップを握りしめた。
父さんは言いようが無いくらい身勝手だし、到底納得がいくような話じゃないし、無性に腹が立つし、汚ないなって思うけど……。
精一杯子育てをしてくれた記憶が並行すると、もどかしい気持ちになった。
「残念ながら、新しい命を一から一人で育てていくのは難しい。お前ならしっかりしてるし、母さんを任せられると思ったから離婚を決意した」
「何だよそれ……」
「当時の事を未だに後悔してる。過ちに気付いた時にはもう取り返しがつかなかった。子供が間違いを犯すように、大人でも間違いを犯してしまうんだ。幸せは目に見えるものじゃないからね……」
気分は最悪だ。
父さんが道を外さなければ、幸せな家庭が壊れる事はなかったのに……。
俺は悔しさがこみ上げるあまり、テーブル下の握り拳が揺れた。
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