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第七章
156.父親の姿と重なった自分
しおりを挟む「……許せねぇよ。俺は父さんを失ってから、生きてんだか死んでんだか分からない人生を送ってきた。大事な時期に気持ちをぶつける相手がいなかったから」
「傍に居てやれなくてごめん。でも、父さん自身も幸せだったと気付いたのは、母さんを失ってから。当時は母さんに嫌われる為にわざとキツく当たった。そうしないと、母さんは別れられなくなるから」
「なんだよ、それ……。勝手すぎる」
「お前達を心から愛してた分、これ以上の苦痛を与えたくなかった。自分勝手だけど、お前達の幸せを願ってた。あの時、母さんを傷付けてしまったから、きっと街から姿を消してしまったんだろうな……」
母さんは父さんを愛していて。
父さんも母さんを愛していた。
悔しい事にそれを知ったのは離婚をしてから5年近く経ったいま。
父さんの浮気は多分一生許せないけど、俺は捨てられたと思い込んでいた分、誤解が解けて少し楽になった。
入店した時は眩しいくらいの夕日が窓際に座っている俺達に降り注いでいた。
俺と父さんの話し合いは思いのほか長丁場に……。
窓から差し込む光は、いつしか店内の照明に勝らなくなった。
父さんの見解や過ちは無性に腹が立ったけど、新しい命を守る理由に理解した。
きっと、高二の今だからこそ父さんの気持ちに行き届いたんだと思う。
父さんは、目が悪くなるし外遊びしなくなるからと言って、スマホ以前に携帯ゲームすら買ってくれなかった。
でも、学校に行くと友達の話題はゲームばかり。
話についていけない事があって、度々辛い思いをしていた。
しかし、週末にはそんな悩みを払拭するくらい外に連れ出して、身体を動かす遊びを教えてくれた。
だからこそ、父さんがいなくなったと同時に失うものが生まれた。
当時は父親の件を誰にも相談出来なかった分、自然と近所の神社で過ごす事が多くなった。
そこには自分を支えてくれるおじいさんがいたから。
別れ言葉さえ交わせなかった俺と約5年越しに向き合う覚悟を決めて会いに来てくれた父さん。
涙を堪えるように飲み続けていたコーヒーは、窓に自分達の姿がクッキリ映し出されるようになった頃には空っぽに。
「迷惑かけたね。辛かったろうに……。多感な時期に傍にいてやれなくて悪かった」
「迷惑かけてんじゃねーよ。俺は父さんが一番の理解者だった。だから、会えなくなってから自分の想いをぶつける相手がいなかった」
「翔……、謝る事さえ遅くなってしまって本当にすまない」
父さんは頭を深々と下げると、瞳に溜め込んでいた涙を滴らせた。
その姿は、先日咲ちゃんとの交際に終止符を打ったあの時の自分のよう。
罪の大きさは人それぞれだけど、俺は父さんと同じく大切に思ってくれた人を傷つけてしまったから。
父さんをしきりに責め続けていたけど、咲ちゃんを傷付けた自分自身も十分に身勝手だと気付かされた。
俺は彼女の気持ちに何一つ応えてあげないまま別れた。
本当は自分と同じくらい深い傷を負っていたのに、彼女はいつも顔色をばかり伺っていて、終いには『好きじゃなくてもいいから』とまで言わせてしまった。
そんな自分は、当然父さんを責める権利などない。
「父さん、もう顔を上げて」
「……翔」
「実は俺も人の事を言えないんだ。尽くしてくれた人の気持ちを大切にしてあげれなかったから」
「その人は彼女?」
「うん、先日まで付き合ってた人。思い返せば何もしてやれなかった。好きでいてくれたのに、父さんのせいで愛し方がわからなかったよ」
俺と母さんを傷付けた罰として少し皮肉交じりに言った。
反省する父親の姿を目にした俺自身も、別れてから何食わぬ顔で過ごしていた愚かさに気付かされた。
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