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第八章
172.真相
しおりを挟む「馬が合わないって、そーゆー意味じゃない。どうして俺がいま馬の話をしなきゃいけないんだ。俺は遥々時間をかけて無駄話をしに来た訳じゃない」
「あんたが先に言ったんだろ。人が真面目な話してんのに……。俺、競馬に興味ねぇし」
「知るか。お前は想像以上に面倒臭い性格だな」
「あんたが馬って言うから話が面倒臭くなったんだろ?」
「……っ! 話を面倒臭くしてるのはどっちだ。俺がいきなり場違いな話する訳ねーだろ」
「馬違いだなんて、あんた相当馬にこだわりるんだな。意外とシツコイ性格なんだな」
「…………はぁ」
どうしてだろう。
こいつとは何もかもが噛み合わない。
手の施しようがない返答にため息しか出てこない。
「話は逸れたけど、もしかしてあんた愛里紗の親友の咲ちゃんと付き合ってなかった?」
理玖は真相が知りたくて再び聞いた。
すると、翔は疑問の目に変わる。
「……どうしてそれを?」
「いいから、答えろ」
「咲ちゃんとは先日まで付き合ってたけど。……もう別れた」
翔は後ぐされのある交際に気まずそうに目線を逸らした。
だが、理玖は別れたというキーワードで目の前が真っ暗に……。
ーー事態は想像以上に深刻だった。
愛里紗が長年想いを寄せていた相手が、いま正面にいる《今井》と知り、その《今井》は咲ちゃんと交際していて既に別れたというのだから……。
理玖は翔の言動でパズルのピースをはめ合わせていくかのように真相が繋ぎ合わさった瞬間、学校を調べてまで会いに来た理由に辿り着いた。
だから、払い除けるかのように鋭い牙を剥く。
「咲ちゃんと何があったのかは知らないけど、別れたから愛里紗に近付こうとしてる訳?」
「それは違う。俺は愛里紗を忘れた日なんてない。街を離れてから愛里紗からの連絡を待ってた。長年連絡が来なかったから、気持ちを切り替えようと思って咲ちゃんと付き合った。……でも、やっぱり違うなって思って」
「ホントは愛里紗と再会したから別れたんじゃねぇの?」
「それは違う。愛里紗が現れても現れなくても彼女とは別れていた」
「悪いけど、お前の言い分を素直に受け取れない。俺に会いに来たって事は、愛里紗を奪おうとしている魂胆なんだろ」
「……じゃあ、お前はどうなんだ? 他の女に気を持たせるような言い方ばかりして。あいつが知ったら悲しむだろ。泣かせる真似だけは許せない」
理玖は身勝手な見解に腹が立って翔の胸ぐらを掴み上げると、凍りつく目つきで睨みつけた。
「自分を正当化してんじゃねぇよ。愛里紗を悲しませたのはお前だろ? 見えない鎖で心を締めつけていた事に気付いてないの? それとも気付いてないフリを?」
「……一体、何の話だ」
「俺があんたを知らないように、あんたも俺を知らないだろ? どんな根拠があって責め立てるんだよ」
胸ぐらを掴んでいる指先と、気迫に満ちた瞳。
理玖は現実に目が向かない翔の心に、氷の矢で突き刺すよう冷たく言った。
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