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第八章
174.覇気のない表情
しおりを挟むーー塾の教室から見る窓の向こう側の景色は、フワフワと花びらが舞うように柔らかい小雪がチラついていた。
塾を終えると、荷物を手早く片付けて寒空の下で帰りを待つ理玖の元へ小走りで向かった。
今日もいつも通り。
理玖は吐いた息を白く曇らせながら塾の出入り口で私を待っている。
自動ドアから出ると、彼はニコリと微笑むけど今日はいつもと違って笑顔が薄い。
「理玖! お待たせ。雪が降ってきちゃったね。外で待ってたから寒かったでしょ」
「そんなに長く待ってないよ。さぁ、行くか」
私が目の前に立つと、理玖は花壇からヒョイと腰を上げて手を握りしめてきた。
長く待ってないと言いつつも、赤く染まった頬と鼻先と耳は嘘をつけない。
冷たく凍りつきそうな手は力強いけど、理玖の表情は冴えない。
この時点で元気のないのは一目瞭然だった。
だから、聞いた。
「どうしたの? 元気ないみたいだけど今日何かあったの?」
「……ううん」
彼は首を横に振って無理に微笑む。
重なり合っている指先は少しずつ温まりつつも、時たま圧が加わったり弱まったり。
まるで今の心境を表すかのように力加減が不安定に……。
本当にどうしたのかな。
普段なら街灯に負けないくらい明るい声で夜道を飾っているのに。
私が聞きたいのは、吐息混じりの返事じゃない。
今日だってお日様のような笑顔が見たいのに……。
愛里紗は心配のあまり手を強く握りしめて、脇道に逸れて公園へ引っ張り歩いた。
小雪が舞い散る夜空。
気温は徐々に下がって、まるで冷凍庫に閉じ込められてしまったかのように身体の芯まで冷えきっている。
愛里紗は理玖の正面に立つと、首に巻いている大判のマフラーを解いて理玖の首に一周巻きつけた。
「私が来るのを待ってる間、寒かったよね。身体冷えてたから使って」
「俺なら大丈夫。愛里紗の方が寒……」
「私ならいいの。それより、悩みでもあるの? 良ければ話を聞くから遠慮なく話して」
「……」
「……ん?」
首を傾けて返事を催促しても、彼は視線を落としたまま寂しそうに口元だけ笑う。
理玖がこんなに塞ぎ込んでるのは、知り合ってから初めての事。
最近はどんなに疲れていても、理玖の笑顔一つで癒されるように。
それは、私だけじゃない。
友達だったり、母だったり。
優して明るくて男女関係なく人を笑顔にさせてくれる理玖がみんな大好きだった。
そういう一面を知ってるからこそ、今度は自分が元気づける番だと思うように。
すると、理玖は固く閉ざしていた口をようやく開いた。
「愛里紗……」
「うん。何でも聞くから」
少し話しづらそうだったから、少しでも不安を取り除く為に髪を撫でた。
すると、理玖は重苦しい口を開く。
「俺の傍から絶対離れるな」
「えっ……」
「頼むから……。俺、愛里紗が居なくなったら死んじゃう……」
街灯は私達二人を灯しているけど、彼の顔は影になっているからいまどんな表情をしているのかわからない。
理玖は普段から自信に満ち溢れてるのに、今は何故か弱気に。
しかし次の瞬間、前髪の隙間からキラリと何かが光った。
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