201 / 226
第九章
199.罰当たりな嘘
しおりを挟む✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
「理玖、ごめん。今日は体調不良で塾を休むから、帰りのお迎えは要らないよ 」
『えっ! 大丈夫? 風邪でも引いた?』
「大したことはないんだけど……。今日はごめん、またね」
そう言って、身を心配してくれる理玖との電話を切った。
本当は体調なんて悪くない。
心の中のしこりが渦巻いていたから、罪のない理玖に罰当たりな嘘をついた。
罪悪感によって震える指先で通話終了ボタンを押す自分が情けない。
理玖と会えばいつも通りに楽しいし幸せなのに、最近会う直前までは別の事を考えている。
バレンタイン前日に『好きだ』と伝えてきた翔くんが頭から離れない。
私には翔くんとの未来なんて無縁なのに、理玖との現在を台無しにしている。
三角関係がもつれてしまったあの日。
理玖とケンカ後にその場に取り残された翔くんの切ない表情が、目に焼き付いて離れようとしない。
あれから3週間近く経とうとしてるのに、何度も同じシーンが頭の中に鮮明に蘇ってくる。
理玖と楽しく過ごしていても、一度その事が頭に過ぎると翔くんの事で目一杯に……。
たまにしか開かなかった思い出の宝箱は、あの日を境に開く機会が増えた。
長年大事にしまっていたイルカのストラップを手に取って思い浸る日々が続く。
このままじゃいけないと思って、何度もしつこく自分に言い聞かせているのに……。
一度暴走を始めた恋心は急ブレーキが利かない。
今は恋人の定休日を設けてしまうくらい恋の病は深刻だ。
理玖との恋路を選んだはずが、一度激しく地盤が緩んでしまったせいか、たまにオカシクなる。
軌道修正をしようと思いつつも、いつしか理玖と会わない理由を探し始めている自分に気付いて無性に腹が立った。
でも、恋心に気付いたあの時からまだ日は浅いから、少し経てば落ち着くのではないかとも思ってる。
何故なら、翔くんとレストランで数年ぶりに再会した後と、神社に翔くんが現れた日の後に気持ちが一旦治っていたから。
以前と同じように理玖と上手く関係を続けていけば、いつか忘れられるかもしれない。
これから先顔を合わせなければ、もう二度と心が狂わされる事はないだろう。
ごめんね、理玖。
今は気持ちが不安定だけど、これからも彼女でいたいと思ってる。
そう遠くないいつか、必ず気持ちにケリをつけるから。
もうこれ以上辛い想いをさせないように努力するから。
だから、たった一度だけでいいから。
ほんの少しだけでいいから。
一人で立ち止まる時間をちょうだい。
0
あなたにおすすめの小説
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる