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第九章
208.最後の代償
しおりを挟むううん、それは嘘……。
嫌いなところなんて一つもない。
全部全部大好きだよ。
あまりにも長い時間待っていたから、悔しくなって嘘をついてみただけ。
だけど、私達の恋は許されない。
あと一歩勇気が必要だった時に友達に背中を押してもらったり、恋が実った時に一緒に喜んでもらったり、友達や家族に歓迎されていたのは、今や過去の話。
恋の終着点は、先行きが不透明なほど障害物だらけだった。
お互いの気持ちが伝わって両想いだと確信しても、感情一つで決められない今がある。
それを創り出したのは紛れもなく自分自身。
だから、夢心地の時間はもうおしまいにしないと……。
私は翔くんの胸に手を押し当てて繋がっている唇を離した。
顎からポタポタ滴る涙で、ぐしゃぐしゃになっている顔を上げられない。
鼻をすするのに精一杯で過呼吸に近いほど息苦しい。
「ごめんなさい……」
「愛里紗……」
「翔くんの気持ちは凄く嬉しい。5年前の約束通り会いに来てくれたという事は、毎日神様にお祈りしていたから、今になってようやく願いが通じてくれたのかな」
「ごめんっ、すぐに会いに行けなくて……」
「ううん、会えないのも運命だった。離れ離れになってから新しい生活が始まって、出会いがあって、情が生まれた。この5年間に多くの人に支えてもらったの。だから、今はその時になかった大切なものがある。それを、自分の手で守っていきたいの。……だから、気持ちに応える事が出来ない。ごめんなさい」
溢れ出る涙と荒い息遣いで窒息しそうだった。
本当は想いが繋がる瞬間をどれだけ心待ちにしていたか。
お互いこんなに想い合ってるのに、今は手が届かない。
翔くん、ごめんね……。
大切な人の気持ちを犠牲にしてまで一緒になれない。
再会するまでずいぶん遠回りしてきたけど、会いに来てくれて嬉しかったよ。
身体中が翔くんを愛してるって言ってるのに、素直に伝えられないのはこんなに辛い事なんだね。
再会するまで知らなかったよ。
私達の運命はここまで。
お互い離れている間に違う人生を歩み始めていたんだよ。
だから気持ちが繋がっていても、もう一緒にはなれないんだよ……。
涙を隠すように手で顔を覆っていた愛里紗は、急激なショックを受けてその場にストンと座り込んだ。
「愛里紗っ!」
翔はすかさず両肩を手で支えて再びその場に立たせる。
「……っ、大丈夫」
「わかった。わかったから、もう泣かないで」
愛里紗の気持ちが痛いほどビシビシ伝わった翔は、切ない眼差しで髪を優しく撫でた。
すると、愛里紗は緊張の糸が解けてしまったかのように声を漏らして泣き崩れた。
恋の香りを忘れてしまった私は、大好きな彼と5年越しに気持ちが繫がった瞬間、最後の代償を払った。
でも、これでいい。
なんだかんだ理由をつけても、別れる運命には代わりなかったから。
こうして、私達は二度目の別れを迎えて再び別々の道を歩む事になった。
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