初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
226 / 226
最終章

224.おまけ

しおりを挟む



  ーー長年の時を経て、晴れて恋人になった私達。
  デートで色んな場所に行くのもいいけど、彼が隣にいれば何処でもいい。

  今は会話一つ一つが新しい思い出として刻まれている。



  今日もいつものように手を繋ぎながら神社を訪れているけど、二人とも疑問に思ってる事があった。
  それは、昔は当たり前のように池の傍のベンチで日向ぼっこしていたおじいさんが、最近めっきり姿を見せない事。



「そう言えば、最近おじいさん全く見なくなったね。元気にしているかな?  もう年だし体調が良くないのかな」

「俺も同じ事を思ってた。ちょっと宮司さんに話を聞いてみるか」



  私達二人は心配しながら本殿に向かった。
  賽銭箱の脇から本殿の中をヒョイと覗き込んで背中を向けて作業している宮司さんに彼は問いかけた。



「あの、すみません」

「あっ、はい」


「昔から毎日のようにここに来ていたおじいさんですが、今どちらにいらっしゃるかわかりますか?」



  心配の眼差しで伺ったけど、宮司さんは表情を曇らせてクイッと首を傾げる。



「おじいさんって?  一体、誰の事でしょうか?」

「普段は池の周りによくいる、白くて長い髭が印象的な茶色い着物を着たあのおじいさんですよ」



  おじいさんは何処にでもいるような人だったから、白い髭以外は特にこれといった印象がない。
  だから上手く説明出来ない。

  しかし、宮司さんは目線を斜めに上げて少し考えた後、何かに辿り着いたかのように頭を軽く頷かせた。



「あー、あー。なるほど」

「おじいさんの居場所を知ってますか?  お元気でいらっしゃいますか?」



  翔くんは反応を見た途端、興奮気味に詰め寄った。
  何故なら、おじいさんは本物の祖父のように慕っていたから行方が気になるのだろう。

  すると、宮司さんは驚くべき事を口にした。



「あなた方は、恋神様にお会いできたんですね。とても運が宜しいみたいで」

「えっ?!  恋神様?」



  私達は予想だにしない答えに仰天して顔を見合わせた。



「えぇ。私は代々から語り継がれて知る程度です。どうやら大概の方はお目見え出来ないとか。たまに見える方がいらっしゃると聞いております」

「代々って……。何言ってるんですか?  だって、あそこはおじいさんちじゃないんですか?  小学生の頃に宿題をする為に何度かお邪魔した事があるんです!」



  ……と、ムキになった私が堂々と指差した先。
  そこは、一般の民家ではなくて《恋神公民館》と看板に書かれている。



「あ、あれ?  うそっ……。よく見ると家じゃない」



  おじいさんちと勘違いしていた分、想定外の事態に呆然とした。
  幼い頃は毎日のように神社に遊びに来ていたのに、おじいさんの家だと思って信じてやまなかった。



「はっはっは。恋神様はたま~に出てきて気になった方の縁結びするみたいですよ。先代からはいたずら好きの神様だと聞いております。私はお会いした事がないので詳しい事は分かりませんが」

「でも、たまにあそこでお茶をご馳走になりましたけど」


「お茶はおじいさんが運んで来ましたか?」

「えっ、いや。中にいたおばさんが……」


「その方はたまたま公民館の中にいらっしゃった近所の人かもしれません」

「あのおじいさんが神様なんて……、嘘だろ」


「プッ……」



  私達は恋神様のイタズラが急に可笑しくなって、お互い顔を見合わせて笑った。

  思い返せば、おじいさんは変な事を言ってた。
  『ワシは年を取らないんじゃ』ってね。
  確かに宮司さんの言う通り、おじいさんが神様だとしたら年をとるはずがない。


  きっと、恋神様は私達を巡り合わせる為に現れたのかもしれない。
  私に頑張るようにアドバイスをくれたあの時が、最後だったんだね。

  また会えると思っていたから、お別れの言葉が言えなかったよ。


  でも、恋神様。
  私達を再び引き合わせてくれてありがとう。
  辛い時にいっぱい力を貸してくれてありがとう。



  そうやって頭の中で神様に願った後、春の暖かい空気がフワッと私達二人を包み込んだ。

  それは、長年恋を見守ってくれた恋神様が、私達二人に送った最後のメッセージだったかもしれない。




                                             【完】

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

処理中です...