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最終章
224.おまけ
しおりを挟むーー長年の時を経て、晴れて恋人になった私達。
デートで色んな場所に行くのもいいけど、彼が隣にいれば何処でもいい。
今は会話一つ一つが新しい思い出として刻まれている。
今日もいつものように手を繋ぎながら神社を訪れているけど、二人とも疑問に思ってる事があった。
それは、昔は当たり前のように池の傍のベンチで日向ぼっこしていたおじいさんが、最近めっきり姿を見せない事。
「そう言えば、最近おじいさん全く見なくなったね。元気にしているかな? もう年だし体調が良くないのかな」
「俺も同じ事を思ってた。ちょっと宮司さんに話を聞いてみるか」
私達二人は心配しながら本殿に向かった。
賽銭箱の脇から本殿の中をヒョイと覗き込んで背中を向けて作業している宮司さんに彼は問いかけた。
「あの、すみません」
「あっ、はい」
「昔から毎日のようにここに来ていたおじいさんですが、今どちらにいらっしゃるかわかりますか?」
心配の眼差しで伺ったけど、宮司さんは表情を曇らせてクイッと首を傾げる。
「おじいさんって? 一体、誰の事でしょうか?」
「普段は池の周りによくいる、白くて長い髭が印象的な茶色い着物を着たあのおじいさんですよ」
おじいさんは何処にでもいるような人だったから、白い髭以外は特にこれといった印象がない。
だから上手く説明出来ない。
しかし、宮司さんは目線を斜めに上げて少し考えた後、何かに辿り着いたかのように頭を軽く頷かせた。
「あー、あー。なるほど」
「おじいさんの居場所を知ってますか? お元気でいらっしゃいますか?」
翔くんは反応を見た途端、興奮気味に詰め寄った。
何故なら、おじいさんは本物の祖父のように慕っていたから行方が気になるのだろう。
すると、宮司さんは驚くべき事を口にした。
「あなた方は、恋神様にお会いできたんですね。とても運が宜しいみたいで」
「えっ?! 恋神様?」
私達は予想だにしない答えに仰天して顔を見合わせた。
「えぇ。私は代々から語り継がれて知る程度です。どうやら大概の方はお目見え出来ないとか。たまに見える方がいらっしゃると聞いております」
「代々って……。何言ってるんですか? だって、あそこはおじいさんちじゃないんですか? 小学生の頃に宿題をする為に何度かお邪魔した事があるんです!」
……と、ムキになった私が堂々と指差した先。
そこは、一般の民家ではなくて《恋神公民館》と看板に書かれている。
「あ、あれ? うそっ……。よく見ると家じゃない」
おじいさんちと勘違いしていた分、想定外の事態に呆然とした。
幼い頃は毎日のように神社に遊びに来ていたのに、おじいさんの家だと思って信じてやまなかった。
「はっはっは。恋神様はたま~に出てきて気になった方の縁結びするみたいですよ。先代からはいたずら好きの神様だと聞いております。私はお会いした事がないので詳しい事は分かりませんが」
「でも、たまにあそこでお茶をご馳走になりましたけど」
「お茶はおじいさんが運んで来ましたか?」
「えっ、いや。中にいたおばさんが……」
「その方はたまたま公民館の中にいらっしゃった近所の人かもしれません」
「あのおじいさんが神様なんて……、嘘だろ」
「プッ……」
私達は恋神様のイタズラが急に可笑しくなって、お互い顔を見合わせて笑った。
思い返せば、おじいさんは変な事を言ってた。
『ワシは年を取らないんじゃ』ってね。
確かに宮司さんの言う通り、おじいさんが神様だとしたら年をとるはずがない。
きっと、恋神様は私達を巡り合わせる為に現れたのかもしれない。
私に頑張るようにアドバイスをくれたあの時が、最後だったんだね。
また会えると思っていたから、お別れの言葉が言えなかったよ。
でも、恋神様。
私達を再び引き合わせてくれてありがとう。
辛い時にいっぱい力を貸してくれてありがとう。
そうやって頭の中で神様に願った後、春の暖かい空気がフワッと私達二人を包み込んだ。
それは、長年恋を見守ってくれた恋神様が、私達二人に送った最後のメッセージだったかもしれない。
【完】
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