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第一章 契約
離職率
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だいたい疑問に思っている事は聞けたが、判断はつきかねていた。まずリスクがどのくらいなのかを判断できる物差しを持っていないのが大きかった、無抵抗な人間一人を殺して1億円なら精神的な負担や、自分の中の倫理観との葛藤などを除外して考えればかなり高額といえるであろう、ただし、軍隊でも手が出せない相手と戦って1億円ではまさに命がいくつあっても足りないとしか言いようがない気がする。もちろん補足説明として難易度によって金額は上下するとの事であったが、仮に100億円貰えてもそこまで行くと逆に金の使い道がまるで見えてこなかった。
決定は好きな時期にすればいいとの事で即答は避けたが、このままではズルズルと保留状態が続きそうだと、自分の性格を含めてそんな事を考えてしまっていた。
「エクスカリバー抜けなかったんですってね」
その日の夕方ヒルダが声を掛けてきた、情報が早いというか、機密でもなんでもなく雑談レベルの話なのであろう。彼女の声には『まぁ当然か』というようなニュアンスが感じられた、宝くじが当たらなかった、そんな雰囲気であった。「私も抜けなかったしね」と付け加える。
夕食を誘われて一緒に行く事となったのだが、思い返せば食事などの時、彼女はすべてカードで払ってくれていた、記憶と目に間違いがなければカードの色は黒かった気がした。超高給取りだった事が判明すればすべて辻褄があう。
本部から少し歩くと中華街があり、中華料理の店が何件も軒を連ねていた、香港が長らく植民地であった影響で移民も多く、中華街で提供される料理の質はかなり高いように思われた。
「聞いたけど、僕の抹殺任務で500万ポンドも稼いでたんだってね」
店内に入り注文すると、食事が来るまでの間、半分は冗談で笑いながら言ってみたが、彼女の真面目な顔で予期せぬ事を言ってきた。
「それは違うわ、仲間に引き入れられたんで1500万ポンドが報酬になったわ」
『3億円かよ!』本気で金銭感覚が分らなくなってきた。ディーノよりは聞きやすいので実情を訊ねてみたらあっさりと色々と教えてくれた。
周囲の安全確保の観点から信頼できない人間にはそもそも仕事が割り振られない、大々的に人員募集を掛けるわけでもないため先細り傾向にある、大金を稼ぐ目的でやっているなら絶対にわりに合わない、等と言っていた。
「ヒルダさんは何故この仕事を?」
「両親がこの業界の人間で自然とこの業界に入ってた、それだけね、魔法とか神秘が物語の中の話じゃなく私にとっては現実だったのよ」
嫌な現実なのか夢のある現実なのか微妙なところである、この業界がブラックなのかホワイトなのかも非常に分かりずらい気がした。
「そういえば、いつも剣を持たせてもらってるのはかなり信頼されてるからなんですか?自分のは本部預かりで正規のメンバーになっても基本本部預かりって聞いたんですが」
「それは違うわね、私のは所謂レプリカ品なのよ、仮にロストしてもそれほど痛くないって事で持ち出しに制限がないの、例えばエクスカリバーを持ってフラフラしてるところを襲撃され奪われたら大変でしょ、そういう事なのよ」
「前笑ってたけど襲撃される可能性あるんじゃない」
「あくまで可能性よ、現金輸送車が襲われる可能性はもちろんあるけど、それなりに警護するでしょ?普段日頃から大量の現金を持ち歩くってナンセンスだと思わない?そんな感じよ」
違いが分る気もしたが、いよいよ現実的であると感じてしまった。
「殉職率とかどんな感じなの?」
その質問に、少し考えるようにし始めた、一分ほど考えたようであったが、その時間がかなり怖かった、即答できないという事は少なくとも相当数亡くなっており、数を数えるのに時間がかかったのだろうと判断したからだった。
「私は両親の影響で10歳くらいからこの業界について知ってたわ、もちろん誰にも言わなかったけどね、言っても信じてもらえないのは分かってたから。そこから今までだいたい5件くらい事件が発生して未帰還は7名ね」
事件数より死者が多いのは一件を複数で担当するのだろうと予想はついた、けっこうな死亡率である事が予想され、金銭目的では割に合わないという事が半ば理解できた気がしたが、彼女の言っている内容は少し違っていた。
「あっさり死ねれば幸せなんだけどね」
『え?』死ぬより辛いなんて言葉はあるが、それってどういう意味なのか理解できなかった。怪訝そうな顔をしていると、彼女は続けた。
「昔の拷問で死なないように痛めつけるみたいなのは知ってる?仮に痛覚が残った状態で死ねなくなったらどうかしら?鋸で切り刻み続けられてもその痛覚が生きた状態で存在し続けたい?私はイヤね」
自分だって絶対にイヤだ、実際にどんな事が起きたのか聞きたいような聞きたくないような気がしたが、やはり怖くて聞けなかった。たしかに割が合わず先細って行くのも理解できた、実際にこの世界に生まれても、普通の世界で暮らす事を選ぶ人間は多数いるという、知っているからこそ係りを断とうという事なのだろう。今の話でそれが半ばほどではあるが理解できた気がした。
決定は好きな時期にすればいいとの事で即答は避けたが、このままではズルズルと保留状態が続きそうだと、自分の性格を含めてそんな事を考えてしまっていた。
「エクスカリバー抜けなかったんですってね」
その日の夕方ヒルダが声を掛けてきた、情報が早いというか、機密でもなんでもなく雑談レベルの話なのであろう。彼女の声には『まぁ当然か』というようなニュアンスが感じられた、宝くじが当たらなかった、そんな雰囲気であった。「私も抜けなかったしね」と付け加える。
夕食を誘われて一緒に行く事となったのだが、思い返せば食事などの時、彼女はすべてカードで払ってくれていた、記憶と目に間違いがなければカードの色は黒かった気がした。超高給取りだった事が判明すればすべて辻褄があう。
本部から少し歩くと中華街があり、中華料理の店が何件も軒を連ねていた、香港が長らく植民地であった影響で移民も多く、中華街で提供される料理の質はかなり高いように思われた。
「聞いたけど、僕の抹殺任務で500万ポンドも稼いでたんだってね」
店内に入り注文すると、食事が来るまでの間、半分は冗談で笑いながら言ってみたが、彼女の真面目な顔で予期せぬ事を言ってきた。
「それは違うわ、仲間に引き入れられたんで1500万ポンドが報酬になったわ」
『3億円かよ!』本気で金銭感覚が分らなくなってきた。ディーノよりは聞きやすいので実情を訊ねてみたらあっさりと色々と教えてくれた。
周囲の安全確保の観点から信頼できない人間にはそもそも仕事が割り振られない、大々的に人員募集を掛けるわけでもないため先細り傾向にある、大金を稼ぐ目的でやっているなら絶対にわりに合わない、等と言っていた。
「ヒルダさんは何故この仕事を?」
「両親がこの業界の人間で自然とこの業界に入ってた、それだけね、魔法とか神秘が物語の中の話じゃなく私にとっては現実だったのよ」
嫌な現実なのか夢のある現実なのか微妙なところである、この業界がブラックなのかホワイトなのかも非常に分かりずらい気がした。
「そういえば、いつも剣を持たせてもらってるのはかなり信頼されてるからなんですか?自分のは本部預かりで正規のメンバーになっても基本本部預かりって聞いたんですが」
「それは違うわね、私のは所謂レプリカ品なのよ、仮にロストしてもそれほど痛くないって事で持ち出しに制限がないの、例えばエクスカリバーを持ってフラフラしてるところを襲撃され奪われたら大変でしょ、そういう事なのよ」
「前笑ってたけど襲撃される可能性あるんじゃない」
「あくまで可能性よ、現金輸送車が襲われる可能性はもちろんあるけど、それなりに警護するでしょ?普段日頃から大量の現金を持ち歩くってナンセンスだと思わない?そんな感じよ」
違いが分る気もしたが、いよいよ現実的であると感じてしまった。
「殉職率とかどんな感じなの?」
その質問に、少し考えるようにし始めた、一分ほど考えたようであったが、その時間がかなり怖かった、即答できないという事は少なくとも相当数亡くなっており、数を数えるのに時間がかかったのだろうと判断したからだった。
「私は両親の影響で10歳くらいからこの業界について知ってたわ、もちろん誰にも言わなかったけどね、言っても信じてもらえないのは分かってたから。そこから今までだいたい5件くらい事件が発生して未帰還は7名ね」
事件数より死者が多いのは一件を複数で担当するのだろうと予想はついた、けっこうな死亡率である事が予想され、金銭目的では割に合わないという事が半ば理解できた気がしたが、彼女の言っている内容は少し違っていた。
「あっさり死ねれば幸せなんだけどね」
『え?』死ぬより辛いなんて言葉はあるが、それってどういう意味なのか理解できなかった。怪訝そうな顔をしていると、彼女は続けた。
「昔の拷問で死なないように痛めつけるみたいなのは知ってる?仮に痛覚が残った状態で死ねなくなったらどうかしら?鋸で切り刻み続けられてもその痛覚が生きた状態で存在し続けたい?私はイヤね」
自分だって絶対にイヤだ、実際にどんな事が起きたのか聞きたいような聞きたくないような気がしたが、やはり怖くて聞けなかった。たしかに割が合わず先細って行くのも理解できた、実際にこの世界に生まれても、普通の世界で暮らす事を選ぶ人間は多数いるという、知っているからこそ係りを断とうという事なのだろう。今の話でそれが半ばほどではあるが理解できた気がした。
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