The Knights of Ronud ~現代聖剣奇譚~

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第一章 契約

索敵

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 ヒルダは相手の存在を認識することはできたが、それはあくまで概要としての認識であった、今彼女が対峙している敵は高速で動き回っているわけでもないが、正体が掴めなかった、暗闇のなかで更に闇に覆われるかのようなその存在は気配の感知を含めて完全に不可能であった。
 武器の形状、体格、リーチ、何もかもが確認できず、ただ一瞬にして味方ごと仲間4名を一太刀で斬り捨てた点から剣などの武器である可能性は極めて高いと思われたが、それすら憶測の領域を出るものではなかった。
 もうすぐ夜が明ければ事態は若干好転するかもしれない、そうなれば機を見て撤退する方向を探れるかもしれない、なんとか生き延びるとこが出来れば勝機も見えてくるはず。
 そんな事を考える彼女であったが、今度は霧まで不自然に発生してくるのが感じられた。その瞬間彼女は完全な敗北と死を悟った。敵を一人だと考えていたが、目の前の正体不明のもう一人に加え、まだどこかに隠れ潜んでいた敵が一人おり、霧を発生させるなど変わった能力を発揮している、実質的に二対三となり彼女達にとって確実な敗北をもたらすものでしかなかった。

 しかし異変はすぐに感じられた、目の前の敵から意識を逸らす事などできず絶えず全神経を集中させていたが、その動きが自分をターゲットにした動きから別の何かにシフトしたように感じ取れたのだった。目の前の自分を差し置いて他の何かに気を取られる相手にプライドが傷つくといった事はなかったが、相手が何に気を取られたのかが非常に気にかかる所であった。
 ジークを先に倒そうとするのであれば、仕留めようとするその隙を突き逆に仕留める事も可能であろうが、何があるのか気配すら読めない暗黒の中に打ち込むのはかなり覚悟が必要であった。覚悟だけで済めばいいが、自分が討ち取られることはすなわち大和の死に繋がり、いよいよジークのみの三対一の構図になればそこからの逆転劇はさすがに期待できるものではなくなる。

 そんな事を考える彼女の思惑をよそに敵は猛スピードで自分へと突進してきた、受け止める事は困難であるとの判断から大きく横に跳ぶが、移動する刹那自分の判断ミスを悟り、しまったと思ったがどうにもならないタイミングであった、その失敗を悟ったがどうしようもない事も同時に悟り唇を噛み締めるしか方法がなくなっていた。

 敵の狙いは自分ではなく、先ほど狙われて斬られないように蹴飛ばした大和であったのだ、彼女の後ろで倒れていた大和が立ち上がっており、その立ち上がった大和に狙いを定めての突進であったから、受け止めるのが無理であるなら大和を抱えるなどして一緒に逃げるべきであったのだろうが、さすがにギリギリの状況下ではそこまで考えが及ばなくなっていた。
 すでに死んだと諦めて次の動作に頭を働かせ始めたヒルダであったが、その後の展開は予想を裏切るものであった。

 一際濃い暗闇に包まれたような空間はその位置からほとんど動くことがなくなっていた。大和を殺した後ヒルダに向かうか、それともジークにむかうかそのどちらの行動をとると思われただけに、停滞するというのは想定外であった。
 中で素人に近い大和が戦っているのだろうか?そんな考えもヒルダの中でわいてきたが、ありえないと思わざるを得なかった、剣の力を完全には引き出せず、身体能力の強化もままならぬ状態では高速で動き回る敵に対応することは絶対に不可能であるはずなのだから。しかし中から金属のぶつかり合う音も聞こえずなにが起きているのかはまったく想像もつかない状態であった。
 そんな停滞状態に気を取られていたのも一瞬で第三の敵にも注意を払ったが、そんな気配は一向に感じ取る事ができず、ジークは相変わらず鍔迫り合いによる膠着状態であり、どうしたものか判断に迷いが生じていた。

 ジークにしても鍔迫り合いで視界がクリアになる夜明けを待つ考えであったが、どうしたものかと考えが纏まらなくなっていた。
 弾き飛ばすつもりなら力では圧倒できる手ごたえは感じていた、しかし弾き飛ばしてしまうと闇夜に紛れまた取り逃がす可能性も出て来てしまう、そうなると厄介この上ない、ならば押す事も引く事もできないような膠着状態をあえて作り出し、状況の変化を以って一気に攻勢をかけるつもりだったが、ヒルダと第二の敵の戦闘状況がまったく読めなくなり、しかも大和との戦闘が開始されているそぶりすらあった。
 ブラッドソードを持つ敵の最大の特徴である超回復がある以上、攻勢に出て一回致命傷を与えても再生するからこそ、この剣は厄介で仕方なかった。

 大和は非常に落ち着いて敵の武器による攻撃を躱し続けていた。二度にわたって援護攻撃を潰されて以降攻撃を諦め防衛と探索に専念する方針にシフトチェンジを行う事にした、しかし剣をそのように使う方法は未だ習得していなかったが、大気中の水分を凝縮させて水の刃を作り援護を行う要領で何重にもわたる薄い水の壁を作り四方に張り巡らせ、さらにそれを広範囲に広げて行くイメージで展開させた。
 結果として、その張り巡らせた水の壁はそこに何が存在するのか、その存在がどのような個体であるのか、その存在の動きに至るまで彼に認識させる事が出来るようになっていた。
 張り巡らせた薄い壁、ヒルダが霧と誤認した物の正体は彼が作り出した彼のレーダーであり、それによって戦場の動き全てを認識するに至っていた、もちろん短所もあり、未だコントロールが未熟な彼にとってそれでほぼ手一杯になるため、援護攻撃にまでまるで手が回らない状況になってしまっていた。そして自分向かって攻撃を仕掛けて来る相手にしても、その動きの軌道からギリギリで躱すのが精いっぱいであり、反撃などはまったくできない状況であった。しかし、それでさえ不意打ちとはいえ一瞬で四名を斬り捨てた敵を相手にして大善戦と言えた。

「何故当たらない!」

 その叫びにその戦場にいる全ての者が注目した、完全に女性の声であり、しかも日本語だった。今暗闇なかのさらに認識もできない暗黒の中で大和に斬りつけ躱かわされて続けている人物こそ桜子であることはこの時点でほぼ確定したと言ってよかった。

「桜子さんですか?その鎌を捨てて投降しませんか?」

 その声に攻撃がピタリとんだ、彼女の周囲を覆うような暗黒が認識を阻害させ手に持つ武器がどのような形状のものかヒルダもジークも確認できずにいたが、大和はそれが鎌状の武器である事を認識できていた。薄い水の壁を通過する際にまるで3Dスキャナを通すように形状把握を行う事が可能であり、彼女の持つ大鎌の形状を完全に把握できていた、それによるリーチの把握ができていなければ間違いなく殺されていたであろうから。
 彼女にしても、自分をとりまく暗黒が目視以外の認識も阻害させる事をしっかりと把握していた、それ故に不意打ちを成功させられる事が出来、武器の形状を知られないことによる優位性を維持し続ける事が出来ていた事実も知っていた。それなのに何故この人物はそれを把握できたのであろうか?しかも日本語を喋っている、その事実が混乱に拍車をかけた。

 そんな膠着状態の中一人フリーな状態となっていたヒルダはこの状態を最も有効に活用するのはどうすべきであろうかと思いを巡らすと、ジークの援護へと向かった。
 完全な膠着状態を演出し続ける彼の手助けを行いその戦いにケリをつけられれば三対一の状況に持っていける、そんな判断からであった。
 その判断に至ったのは暗黒に包まれた中で戦闘を行っているであろう、大和の声が聞こえ生存が確認できたことがかなり大きかったのだが。 

 全力での加速から振り抜かれた彼女の剣撃は敵の前腕部を二本とも見事に両断した、その切断された両腕が斬られた直後から融合再生を行うのは確認済みであったので、同時に胸部に強烈な蹴りを放った。
 剣を握ったまま両腕は地に落ち男はよろめくように後退を余儀なくされたが、一歩下がるかどうかの刹那跳び上がったジークの上方からの唐竹割りを頭頂部に受けそのまま真っ二つにされると綺麗に左右に分かれるように倒れた。
 さしもの無敵のヴァンパイアもどきといえど、剣が本体から離れた状況下では驚異の再生能力を発揮する事もできず、それでも残存した剣の力により傷の再生は行われ出していたが、すぐに限界を迎え動かなくなっていった。

 これで後は当初のターゲットである桜子だけとなったが、暗黒の中での説得は続いている様子であった、しかしジークとヒルダは知っていた、鎌のような形状の武器、暗黒を纏うような性能、そこから導き出される解答は『デスサイズ』、魂を刈り取り纏う武器で、ブラッドソードが血を吸い糧とするなら、まさに魂を糧とする武器であり、投降という選択肢が用意できない武器であるということを。

「さて、どうけりをつけるか」

 ジークの呟きは少し悲しそうな響きを含んでいた、その悲しみが亡くなった戦友に向けられたものか、無駄な説得を続けている大和に向けられたものか、どのような経緯かは想像するしかないがそんな武器と契約してしまった桜子に向けられたものかは誰にも分からなかった。
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