The Knights of Ronud ~現代聖剣奇譚~

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第一章 契約

決着

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 回収したブラッドソードは持って来ていたケースに入れ厳重に保管された、厄介な代物であるだけに、また世に出たら余計な被害を生みかねないだけに扱いは厳重なものであった。ヒルダが回収を行っている間、暗黒を監視し続けていたジークだが中から漏れる一方的な説得の声をやはり悲し気な顔で見守るしかできなかった。

「憎まれ役なら私がするわ、教育係を任された以上責任はあると思ってるし」

「いや、今後を考えるなら自分が行こう、刺し違える勢いで行けば一方的に仕留められる」

 二人の思考は完全に最後の詰み筋についての話となっていた。ここから逆転負けの要素は皆無と言っていいように思われた。中の様子までは分からないが、時々説得の声は止むがしばらくするとまた語り掛けが始まるというサイクルが何度となく繰り返されていた。敵の攻撃を読むのにかなりの集中力を要するため、攻撃を仕掛けられている際はさすがに語り掛ける余裕はなくなってしまうためであった。
 もしこのまま外部からの介入がない、純粋な一騎打ちであれば、攻撃に出られない大和は体力、気力の勝負となり武器の力を大和以上に引き出している桜子の方が若干有利に運び、どうなるか予断を許さなかったかもしれないが、外で待機している二人の存在もありもはや勝負は見えていた。

「貴様に何が分る!」

 いきなりの問い掛けとも叫びともつかない言葉に、なんと返すべきか一瞬思考が止まったが、考えてもなんと返していいか答えは浮かばなかった。
 言葉もしゃべれない状態でいきなり外国で暮らす事になって大変なのは理解できたし、自分も体験していた、しかし彼女の場合はもっと状況がひどかったであろう事も十分想像できた。衣食住すべてがかなり高いレベルで保障され留学気分を満喫していた自分と比較したらたぶん八つ裂きにされるのではないだろうか?そんな事すら考えてしまった。
 復讐は何も生まない、などという言葉が綺麗ごとでしかないことは理解できたが、彼女の場合日本をターゲットにするのはかなり八つ当たりではないのか?そんな事も考えてしまった。政治に詳しいわけではなくても、移民、難民を無条件に受け入れていたら国が酷い事になりそうだというくらいの認識はあった、自業自得と切って捨てるのも違う気はするが、八つ当たりで日本に上陸されて目につく人間を片っ端から斬り捨てているのは絶対に間違いだとしか思えなかった。

「分からんが、君のそれは八つ当たりだろう!せめてターゲットは偉そうな政治家とかに絞れよ!」

 外で聞いていた二人の少しその言葉には呆れていたが、八つ当たりという点に関しては同意できる部分であった。
 彼女にしても自分のそれが極めて八つ当たりとしかいいようのない感情である事は理解していた、しかし実際の仇ともいえるテロリスト達はすでに全滅し、血を吸われ干からびてしまっており、自分の手で殺す事もできなかった、そのやり場のない憎しみの感情は、生まれ故郷とも思っていたのに法律やら血縁やらの問題で追い出すように追放した日本そのものになっていた。
 活動家や支援団体なども、日本の中では支援したが、追い出されるように追放された後はほとんどなんの支援もなされず、活動のための活動、そんな言葉ばかりが浮かんでくるような始末であった。憎しみが憎しみを生むかのように、日本に関するすべてが憎くてたまらなくなっていた。
 大和の言葉に一瞬考えさせられる部分もなくはなかったが、自分の親をいいように安い賃金で使いながら、いざとなったらあっさり切り捨てた社長や、多文化主義などの題目で支援しながら帰国後は一切なんの支援も行わない支援団体の人間を思うと、政治家だけが憎いとはとうてい思えなかった。
 もし彼女がすべての仕組みを理解していたのなら、やはり憎しみの対象はかなり広範囲に広がっていたであろう、支援団体も色々な名目で集めた金をかなり懐に入れており、国内で目立つ活動には方々から金も集まり易かったが、海外に強制的に帰された人間への支援は地味で活動として認識されずらいものがあり、どうしてもアピールが弱いと思われほとんどなにもなされなかった、アピールは繰り返されたがその金が適正にわたるべきところにわたる事がなかったというのが最も正確な表現であった。

 とにかく今は目の前にいる日本語を喋る男を始末する。その決意で大鎌を振るい襲い掛かるがやはり空を斬るばかりで一向に当たる気配を見せなかった。それだけではなく最初は掠っていた事もあったのが、まるで掠りもしなくなってきていた。しかも身体が徐々に重くなってきているのを感じると、その違和感にさらなる焦りを感じ始めていた。戦闘時間などから考えてもまだ疲労で身体が鈍くなるほどの疲労の蓄積はないはずなのになぜか動きが鈍い、その不可解さがより一層の焦りを生んでいた。

 大和は索敵のための叢雲の使い方をかなり体感的にマスターしつつあった、範囲を広げたり幾重にもして一部ポイントを重点的に感知したり、その使い方でかなりの情報が得られるようになって来ていた。
 まず、外部の戦闘が終了し、ヒルダとジークの二人は現状暗闇で行われている戦闘の見守りに入っている事、暗闇故同士討ちを恐れ手出しできずにいるのだろうか?と若干の不満はあったが、それでも二人がいざとなれば協力してもらえる態勢にあるのは心強かった。外の脅威がないと分かれば目の前にいるであろう桜子のみに集中して索敵を掛ければよくなり、動きの把握はより精度を増し、攻撃の軌道を読み完全にかわす事もスムーズにできるようになっていた。そうなると次の段階として、薄く幾重にも張った水の障壁を徐々に厚くしていき水壁によって動きの封じ込めを行う事を試み始めていた、初めての事でありぶっつけ本番であるが故にどこまで成功するかは分からなかったが、三対一の現状がかなり精神的な負荷を和らげており、それが精神的にかなりいい方向に働いていた。空気中の水分密度が濃い状態での運動を続けている事が彼女に普段より多くの負荷となり、疲労を助長する結果となっている事に彼女は気付いていなかった。

 肩で息をするような状態でありながら気力で大鎌を振るっていたが、そんな彼女の攻撃は突如として中止された、頭部を覆うように水が絡みつき、まるでバスケットボールをさらに一回り大きくしたような水玉が完全に彼女の頭部を覆っていた。もがき苦しみ表面の水を手で払っても飛び散った水しぶきはまた磁力で吸い寄せられるかのように水玉へと戻って行き、頭部を覆う水球はほとんど変化を見せないどころか、空気中の水分を集めさらに大きくなるかのようであった。
 当初、水の障壁に閉じ込めるようなイメージを思いついていたが、かなりの力を誇る彼女を封じるとなるとどのくらいの水量が必要なのかすぐには計算できなかったが、バスケットボールくらいの水量を用意できれば彼女の頭部を覆い、そのまま溺れさせることができるのではないだろうか?そんな発想から生まれた戦術であった、たしかに身体能力は上がっていたが、それでも有酸素運動を繰り返せば息遣いは荒くなり、あきらかに心肺機能の爆発的能力向上まではないとの判断からの攻撃であったが、これが完全に嵌った形であった、もし万全の状態であったなら猛スピードでの動きで振り払う事も出来たかもしれないが、現状の彼女には疲労や予期せぬ展開の連続によるパニックによって完全に冷静さを失い、挙句の果てに大鎌を落とし両手で水球を振り落とそうともがき始めたがまるで効果はなく、それほど時間を要することなく窒息し、失神してしまった。

 デスサイズが手から離れ、そこから発せられた瘴気が薄らぐと同時に暗黒も晴れ白みかけた空間の中で頭部に水球に纏わりつかれた桜子がもがいている様子はヒルダとジークの目にもはっきりと写り、大和が一騎打ちにおいて完勝した事をはっきりと認識させた。

「こんな勝ち方もあるのね・・・」

 ヒルダのそんな呟きが異質な勝利を物語っていたが、ある意味では感心してもいた。身体能力で劣り、まだ完全に剣の力を引き出せないでいる大和がそんな不完全な状態で完勝まで持って行けた事は奇跡とも言えたが、足りないものを戦術や智恵で補った上の見事な勝利とも言えたからである。
 桜子がもがきながら倒れ失神するのを確認すると、その勝利を称え、とりあえず桜子の拘束およびデスサイズの回収を行おうとしたが、その行動は予期せぬ形で妨害されることとなった。

「C’est magnifique!」

 どこからともなく現れた、スーツにネクタイという場違いな服装をした男のその言葉に皆は注目した、『何語だよ?』そんな事を考えるだけの余裕がこの時の大和にはまだ残されていた。

 
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