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新世代
結婚式
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結婚式は国王と他国の王族の姫の結婚とあって、極めて盛大に行われた。
王姉とはいえ降嫁で準男爵家の自分との結婚式とでは比較対象にならない豪華な結婚式であった、自分の時も村の結婚式しかしらなかった、テオドールにとっては考えが追い付かないくらいの盛大さに思えたが、これは完全な別物であった。
しかし、そんな事よりも気になるのは自分の置かれている立ち位置であった、降家したとはいえ、国王の姉であるユリアーヌスの配偶者としてかなり目立つ場所に配置されたのだが、そうなることによってより一層『貧相な小男』と評される彼の貧相さが浮き彫りにされていた。
「帰りたい・・・」
そんな彼の呟きを少し笑いながらユリアーヌスは返す。
「王族なんて所詮見世物の道化と似たようなものなのよね、あなたもその一端に触れると思うんじゃないの?好き好んで王族になんてなるもんじゃないって」
心底そう思ってしまっていた、王様の椅子など譲られても全力で断りたいところであるが世の中には好き好んでそれを欲しがるバカがいるかと思うと心底相容れない存在がこの世にはいると思えてしまった。
王城で結婚式が行われる中、アルメ村一行は王都見物に興じていた、王の結婚に合わせて町もお祭り騒ぎとなりそれは盛大なものであった、一応諸注意は守っていたが完全なお上りさん一行であり、祭りの喧騒にまぎれて懐を狙う掏りには格好の獲物に映っていた。
青年団長として今回のリーダー格として参加していたラルスは責任感から、なるべく浮かれる事無く周囲に気を配っていたが、初めて来る王都の珍しさに注意散漫となっていた、仮に注意していたとしてもプロの掏りに対応できたか怪しかったが、本人も気づかぬうちにものの見事に財布を掏り取られてしまった。
掏り取る事に成功した男がほくそ笑みながらその場を足早に立ち去ろうとしたその時、何もないはずの空間にスッと足が伸びその足に躓き転んでしまった、せっかく掏り取った財布が石畳の上に放り出され慌てて起き上がり手を伸ばそうとするも、その背中を思い切り踏みつけられ立つことができなかった、
「おい!そこの兄さん!そこに転がってる財布、あんたのじゃないのかい!」
その声にハッとなり心当たりのある者達が何人も自分の財布を確認し、財布の無事を確かめ安堵する中、ラルスは自分がその掏られた本人であると分かると、あわてて声の方に向かい、落ちていた財布を拾い上げた。
すぐ側では俯せの男の背中を踏みつけ、身動きできないようにしているエキゾチックな美女が勝ち誇ったような顔でラルスの方を見ていた。ラルスに続いてやって来た村人達を確認すると。
「こいつが犯人だよ、そろそろ抵抗がきついんで、あんた達で取り押さえてくれないかねぇ」
なかなか起き上がれないように肩甲骨の周囲をきっちりと踏みつけていたが、それでも猛烈にもがき抵抗を続け、なんとか立ち上がろうとしていた、しかし数人の男達に取り押さえられると、もはやどうする事も出来ず、観念する他はなかった。
「あ、ありがとうございます、おかげで財布を取り戻す事が出来ました」
ラルスの言葉に女性はスッと手を出しながら言う。
「礼は形で顕すもんだろ?」
「ああ、確かに、すいません田舎者なもので、いかほどが相場なのでしょうか?」
その言葉を聞き一瞬呆気にとられてしまった、こんなものに相場などあるわけもなく、そんな回答が返ってきたこともこれまで皆無であったからだ、なんと答えたものであろうかと、思案していると、一人の女性が進み出てきた。
「先ほどはありがとうございました、私はメルボルト伯爵家に仕えるアニと申します、こちらの方々は伯爵家の御客人でして、当家にてしっかり御礼申し上げますので、是非当家までお越し願えませんでしょうか?」
王都の案内役として付けてくれた伯爵家の侍女が、騒動を治めるべく進み出てくれたのだった、伯爵家の名前を出され周りでもガヤガヤと野次馬が集まる中で、取り押さえられた男が暴れ始めた、出来心だった、見逃してくれ、許してくれ、等などとわめきたてていたが、エルゼは冷静に言い放った。
「伯爵家に連行し、きっちり処罰しますので、決して放さないでくださいね」
伯爵家と聞き女は驚いたが、謝礼がいかほどになるのかを期待し、このチャンスを最大限に生かせば、さらに大きく稼げるのではないか?そんな思いから心中で喝采を上げながら一行について伯爵家に行く事とした。
一行は王都見物が中断されて引き返す事になったのが、どことなく残念そうな様子であった、その様子から残念そうにしている理由を察した女は、位置関係からリーダーであろうと察したラルスに話しかけた。
「祭りはまだ続くし、まだ滞在するんなら案内してやろうか?祭り中はああいった手合いも多いからな」
「帰って領主様達と相談してみない事にはなんとも言えませんが、ご厚意は感謝します、えー・・・」
最後口ごもり何か言いたげな様子だったが、何を言いたいのかすぐには分からなかったが、名前を聞きたがっているのだろうか?と当たりをつけ、彼女は自己紹介を始めた。
「ん?名前かな?フリーダ、旅芸人さ」
旅芸人と聞き、一瞬アニの目には疑いとも蔑さげすみとも取れる色が浮かんだ、表面的には何も言わなかったが、警戒対象としてその目は冷静に彼女を捉えていた。
王姉とはいえ降嫁で準男爵家の自分との結婚式とでは比較対象にならない豪華な結婚式であった、自分の時も村の結婚式しかしらなかった、テオドールにとっては考えが追い付かないくらいの盛大さに思えたが、これは完全な別物であった。
しかし、そんな事よりも気になるのは自分の置かれている立ち位置であった、降家したとはいえ、国王の姉であるユリアーヌスの配偶者としてかなり目立つ場所に配置されたのだが、そうなることによってより一層『貧相な小男』と評される彼の貧相さが浮き彫りにされていた。
「帰りたい・・・」
そんな彼の呟きを少し笑いながらユリアーヌスは返す。
「王族なんて所詮見世物の道化と似たようなものなのよね、あなたもその一端に触れると思うんじゃないの?好き好んで王族になんてなるもんじゃないって」
心底そう思ってしまっていた、王様の椅子など譲られても全力で断りたいところであるが世の中には好き好んでそれを欲しがるバカがいるかと思うと心底相容れない存在がこの世にはいると思えてしまった。
王城で結婚式が行われる中、アルメ村一行は王都見物に興じていた、王の結婚に合わせて町もお祭り騒ぎとなりそれは盛大なものであった、一応諸注意は守っていたが完全なお上りさん一行であり、祭りの喧騒にまぎれて懐を狙う掏りには格好の獲物に映っていた。
青年団長として今回のリーダー格として参加していたラルスは責任感から、なるべく浮かれる事無く周囲に気を配っていたが、初めて来る王都の珍しさに注意散漫となっていた、仮に注意していたとしてもプロの掏りに対応できたか怪しかったが、本人も気づかぬうちにものの見事に財布を掏り取られてしまった。
掏り取る事に成功した男がほくそ笑みながらその場を足早に立ち去ろうとしたその時、何もないはずの空間にスッと足が伸びその足に躓き転んでしまった、せっかく掏り取った財布が石畳の上に放り出され慌てて起き上がり手を伸ばそうとするも、その背中を思い切り踏みつけられ立つことができなかった、
「おい!そこの兄さん!そこに転がってる財布、あんたのじゃないのかい!」
その声にハッとなり心当たりのある者達が何人も自分の財布を確認し、財布の無事を確かめ安堵する中、ラルスは自分がその掏られた本人であると分かると、あわてて声の方に向かい、落ちていた財布を拾い上げた。
すぐ側では俯せの男の背中を踏みつけ、身動きできないようにしているエキゾチックな美女が勝ち誇ったような顔でラルスの方を見ていた。ラルスに続いてやって来た村人達を確認すると。
「こいつが犯人だよ、そろそろ抵抗がきついんで、あんた達で取り押さえてくれないかねぇ」
なかなか起き上がれないように肩甲骨の周囲をきっちりと踏みつけていたが、それでも猛烈にもがき抵抗を続け、なんとか立ち上がろうとしていた、しかし数人の男達に取り押さえられると、もはやどうする事も出来ず、観念する他はなかった。
「あ、ありがとうございます、おかげで財布を取り戻す事が出来ました」
ラルスの言葉に女性はスッと手を出しながら言う。
「礼は形で顕すもんだろ?」
「ああ、確かに、すいません田舎者なもので、いかほどが相場なのでしょうか?」
その言葉を聞き一瞬呆気にとられてしまった、こんなものに相場などあるわけもなく、そんな回答が返ってきたこともこれまで皆無であったからだ、なんと答えたものであろうかと、思案していると、一人の女性が進み出てきた。
「先ほどはありがとうございました、私はメルボルト伯爵家に仕えるアニと申します、こちらの方々は伯爵家の御客人でして、当家にてしっかり御礼申し上げますので、是非当家までお越し願えませんでしょうか?」
王都の案内役として付けてくれた伯爵家の侍女が、騒動を治めるべく進み出てくれたのだった、伯爵家の名前を出され周りでもガヤガヤと野次馬が集まる中で、取り押さえられた男が暴れ始めた、出来心だった、見逃してくれ、許してくれ、等などとわめきたてていたが、エルゼは冷静に言い放った。
「伯爵家に連行し、きっちり処罰しますので、決して放さないでくださいね」
伯爵家と聞き女は驚いたが、謝礼がいかほどになるのかを期待し、このチャンスを最大限に生かせば、さらに大きく稼げるのではないか?そんな思いから心中で喝采を上げながら一行について伯爵家に行く事とした。
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