128 / 139
王国動乱
締結
しおりを挟む
三度目の使者であった、それまでの二度の使者は書状さえ受け取ってもらえず、正に門前払いを喰らっていただけにやっと面会適った事により安堵の吐息を漏らしていたが、そこからどれだけの無理難題を突き付けられるのかが気になり気が気ではなかった。
最初の使者に対して対応したしたテオドールが口上で「和平提案なら具体的な提案を宰相が直接持って来い」と極めて傲慢な態度で、いかにも中堅クラスとしか見えない使節団代表を追い返し、二度目の来訪に際しても「宰相を呼べと言ったはずだ!」と、一喝し書状を読みもせず火にくべて終了となった。
脇に控えるゲルトラウデとアストリッドは能面のような顔でその様子を眺め相手を威嚇していたが、内心では笑いを堪えるのに苦労していた。
「お見事な演技でしたよ」
使者が退席した後で、クスクスと笑いながら言うゲルトラウデに対し、憮然とした表情しかできないでいた。なにより気に入らないのが、使者が退席した後でアストリッドが爆笑していたことであった。こいつのツボはこんなところにあったのかとそんな事を考えながらも、真剣にやった演技を馬鹿にされたようで不快でもあった。
「いや~、どこかの女剣豪の啖呵の切り方を参考にさせていただきましたのでね」
爆笑していたアストリッドが今度は笑いを止め憮然とした表情をする、最近は若干距離が縮んだ気もするが、やはりどことなく好きになれないのはどうしようもなかった。
すべてはシナリオに沿っての演技であった、相手が泣きついてくるのは目に見えていたが、すぐに飛びつくよりもより効果を生むのは、副将であるテオドールの悪名を利用し、使者に極めて傲慢、強気な態度を取り、本当に宰相クラスの人物が来たら大将にあたるヴァレンティンが会見に臨み譲歩した内容の和平案を提示すれば和平案もまとまり易かろうという、ユリアーヌスが出発前に提示していた方針であった。
二度に渡ってテオドールによって追い返され、その間もいくつもの村々が壊滅させられている現状に手の打ちようがなかった、これ以上国内を荒らしまわられると他国も切り取りを狙って侵攻してくる事が考えられ、後がないと感じたガリシは宰相のパスカル自らが親書を携えて占領下にあるオトリシュを訪れる事となった。
「よくぞいらして下さいました」
行政の中心にあった、代官屋敷で面会を行った両名だったが、パスカルはとりあえず噂の『死神』も『夜叉』もその場に同席していない事に安堵した。
「会見に同意してくれて感謝している、国王からの親書と和平提案の書状だ、さらに譲歩する余地もあり、交渉の権限はすべて委ねられておる、何も言える立場ではないのは分かっているが、なるべく早急な和平条約の締結を望んでおる」
自分達から攻め込み逆襲を受けて王都の喉元まで刃を突き付けられた状態ではいかなる虚勢も虚しくなるだけである事を知っており、極めてストレートな表現をぶつけてきた。
「拝見いたしましょう」
鷹揚に頷くと、親書と和平提案の内容に目を通し出した、予想に近い内容ではあったが、割譲地、賠償金の金額など予想より若干少なく感じ、舐めているのか、もしくはよほど懐事情が厳しいのかその確実な判断はつきかねた。
「地図を持て」
ヴァレンティンの命令に傍らに控える副官が即座に反応し、準備していた地図をヴァレンティンとパスカルの中間に広げる。
「賠償金の金額はいいとして、和平後の国境ラインはこのあたりでいかがですかな?」
その地図にはあらかじめヴァレンティンの提案する国境ラインが引かれており、そのラインはパスカルが持参した和平提案の内容よりかなり譲歩したものであった。
提案内容を丸のみしてくれるだけでも助かると思っていただけにさらに譲歩した内容の提示には正直安堵のため息しか出なかった、それでも国土の四分の一を奪われ、第二都市まで割譲する事にかわりはないのだが、それでもなんとか国を維持していける算段が成り立ち安堵のため息を吐いた。
「今後はよき関係を築きたいものですな」
そんなヴァレンティンの言葉に救いすら感じられた。
「はい、是非に。ところでもう一つの提案の方はいかがでしょうか?」
そんなパスカルの質問にヴァレンティンは若干の苦笑いを浮かべつつ、「当の本人に聞いてみませんと」と言うのみであった。
「そのレイヴン卿はどちらに?」
「ああ、すぐに止めて来い!」
パスカルの質問を受けるとすぐに側にいた者に語気鋭く命令を発した、その命令を受けると男は返事と共に即座に退出して行った。そのやり取りを不思議そうに眺めていたパスカルに対し、少し苦笑いを浮かべつつ説明を開始した。
「最初に宰相を呼べと言ったのに次に来たのも宰相ではなかった、舐めている許せん、と言い出しまして王都を陥落させるべく兵を率いて出て行ってしまったんですよ、和平が成立したので、呼び戻さないと大変な事になるのに本当に困ったものですな」
その発言を受けてパスカルは青くなり、早々に和平条約の締結文書に署名すると急ぎ引き返していった、一刻も早く全土に和平成立を宣伝しないと、それが耳に入っていない部隊同士による戦闘継続の可能性もあり、特に王都アンヴェールに甚大な被害が出てからでは取り返しのつかない事態に発展しかねない、そんな思いからであった。
当のテオドールが別室で『夜叉』の膝枕を堪能しているとは全く思いもよらなかったであろうが。
アストリッドは屈辱に震えていた、同時にヨナタンとゲルトラウデは笑いを堪えて震えていた。元々使者に傲慢な態度で接するのも芝居であれば、怒りに震えて王都を陥落させる気もなければそんな戦力の余裕もなかった。いち早く全土に和平締結を広めるためのブラフであった。いない事になっているため、当然会見の席には同席せず休養を兼ねてカードゲームに興じていたが、敗者への罰ゲームとしてまずアストリッドがテオドールに言った。
「私に向かってあらん限りの愛のセリフを投げかけろ!」
最初から上下関係ナシ、後遺症が残るような身体的な罰ゲームはナシというルールであったため、特にルールに抵触する事もない故に全く問題はなかったのだが、心にもないセリフを延々と言わされ続けるのは精神的にかなり来るものがあった。それを見てたヨナタンとゲルトラウデはそのセリフに一片の心情も籠っていない事がハッキリと分かったが、アストリッドの反応は強気であった。
「甘い!もっと心情を込めて!」
アストリッドとしても普段の鬱憤が溜っていた事も手伝い、テオドールにそんな言葉を投げかけられても全く嬉しくなかったが、嫌そうにセリフを言うテオドールの姿を見ると普段やり込められてばかりいる鬱憤が幾分晴れるようでかなりご満悦であった。
意地でも勝ってやる、そんな思いで挑んだ次戦においてギリギリではあったが接戦をものにしてテオドールが勝利した、後にヨナタンは語った『大戦に勝利した時より嬉しそうだった』と。勝利したテオドールが出した命令は非情なものであった。
「可愛いフリフリの衣装で膝枕しながら耳かきをしろ!」
即座に『そんな衣装着れるか!』と言いたかったが、下着や全裸であればさすがに文句も言えたが、ルールに抵触しているとは到底言い難い内容であった。ゲルトラウデもノリノリで着替えを手伝い、人生で一回も着たことのないような衣装を着替えた『夜叉』と恐れられた女騎士は非常に恥ずかしそうに現れた。
彼女の容姿は非常に美しかったが、衣装とは壊滅的に合っていなかった、彼女の立ち居姿容姿が最も映はえるのは凛とした姿であり、可愛らしい服は滑稽なほどに似合っていなかった。彼女は誰かの耳かきをしたことなど、これまでの人生で一度たりともなかったが、ルールには厳格な性格でもあり、非常にイヤイヤながらでもその罰ゲームを遂行しようとしていた。
「そういう時はご主人様痒いところはございませんか、だろ!」
テオドールの調子に乗った言葉に、アストリッドは屈辱に震え、ゲルトラウデとヨナタンは笑いを堪えて震えていた、後にヨナタンは語った『くっ殺せ!とか言い出しそうであった』と。
最初の使者に対して対応したしたテオドールが口上で「和平提案なら具体的な提案を宰相が直接持って来い」と極めて傲慢な態度で、いかにも中堅クラスとしか見えない使節団代表を追い返し、二度目の来訪に際しても「宰相を呼べと言ったはずだ!」と、一喝し書状を読みもせず火にくべて終了となった。
脇に控えるゲルトラウデとアストリッドは能面のような顔でその様子を眺め相手を威嚇していたが、内心では笑いを堪えるのに苦労していた。
「お見事な演技でしたよ」
使者が退席した後で、クスクスと笑いながら言うゲルトラウデに対し、憮然とした表情しかできないでいた。なにより気に入らないのが、使者が退席した後でアストリッドが爆笑していたことであった。こいつのツボはこんなところにあったのかとそんな事を考えながらも、真剣にやった演技を馬鹿にされたようで不快でもあった。
「いや~、どこかの女剣豪の啖呵の切り方を参考にさせていただきましたのでね」
爆笑していたアストリッドが今度は笑いを止め憮然とした表情をする、最近は若干距離が縮んだ気もするが、やはりどことなく好きになれないのはどうしようもなかった。
すべてはシナリオに沿っての演技であった、相手が泣きついてくるのは目に見えていたが、すぐに飛びつくよりもより効果を生むのは、副将であるテオドールの悪名を利用し、使者に極めて傲慢、強気な態度を取り、本当に宰相クラスの人物が来たら大将にあたるヴァレンティンが会見に臨み譲歩した内容の和平案を提示すれば和平案もまとまり易かろうという、ユリアーヌスが出発前に提示していた方針であった。
二度に渡ってテオドールによって追い返され、その間もいくつもの村々が壊滅させられている現状に手の打ちようがなかった、これ以上国内を荒らしまわられると他国も切り取りを狙って侵攻してくる事が考えられ、後がないと感じたガリシは宰相のパスカル自らが親書を携えて占領下にあるオトリシュを訪れる事となった。
「よくぞいらして下さいました」
行政の中心にあった、代官屋敷で面会を行った両名だったが、パスカルはとりあえず噂の『死神』も『夜叉』もその場に同席していない事に安堵した。
「会見に同意してくれて感謝している、国王からの親書と和平提案の書状だ、さらに譲歩する余地もあり、交渉の権限はすべて委ねられておる、何も言える立場ではないのは分かっているが、なるべく早急な和平条約の締結を望んでおる」
自分達から攻め込み逆襲を受けて王都の喉元まで刃を突き付けられた状態ではいかなる虚勢も虚しくなるだけである事を知っており、極めてストレートな表現をぶつけてきた。
「拝見いたしましょう」
鷹揚に頷くと、親書と和平提案の内容に目を通し出した、予想に近い内容ではあったが、割譲地、賠償金の金額など予想より若干少なく感じ、舐めているのか、もしくはよほど懐事情が厳しいのかその確実な判断はつきかねた。
「地図を持て」
ヴァレンティンの命令に傍らに控える副官が即座に反応し、準備していた地図をヴァレンティンとパスカルの中間に広げる。
「賠償金の金額はいいとして、和平後の国境ラインはこのあたりでいかがですかな?」
その地図にはあらかじめヴァレンティンの提案する国境ラインが引かれており、そのラインはパスカルが持参した和平提案の内容よりかなり譲歩したものであった。
提案内容を丸のみしてくれるだけでも助かると思っていただけにさらに譲歩した内容の提示には正直安堵のため息しか出なかった、それでも国土の四分の一を奪われ、第二都市まで割譲する事にかわりはないのだが、それでもなんとか国を維持していける算段が成り立ち安堵のため息を吐いた。
「今後はよき関係を築きたいものですな」
そんなヴァレンティンの言葉に救いすら感じられた。
「はい、是非に。ところでもう一つの提案の方はいかがでしょうか?」
そんなパスカルの質問にヴァレンティンは若干の苦笑いを浮かべつつ、「当の本人に聞いてみませんと」と言うのみであった。
「そのレイヴン卿はどちらに?」
「ああ、すぐに止めて来い!」
パスカルの質問を受けるとすぐに側にいた者に語気鋭く命令を発した、その命令を受けると男は返事と共に即座に退出して行った。そのやり取りを不思議そうに眺めていたパスカルに対し、少し苦笑いを浮かべつつ説明を開始した。
「最初に宰相を呼べと言ったのに次に来たのも宰相ではなかった、舐めている許せん、と言い出しまして王都を陥落させるべく兵を率いて出て行ってしまったんですよ、和平が成立したので、呼び戻さないと大変な事になるのに本当に困ったものですな」
その発言を受けてパスカルは青くなり、早々に和平条約の締結文書に署名すると急ぎ引き返していった、一刻も早く全土に和平成立を宣伝しないと、それが耳に入っていない部隊同士による戦闘継続の可能性もあり、特に王都アンヴェールに甚大な被害が出てからでは取り返しのつかない事態に発展しかねない、そんな思いからであった。
当のテオドールが別室で『夜叉』の膝枕を堪能しているとは全く思いもよらなかったであろうが。
アストリッドは屈辱に震えていた、同時にヨナタンとゲルトラウデは笑いを堪えて震えていた。元々使者に傲慢な態度で接するのも芝居であれば、怒りに震えて王都を陥落させる気もなければそんな戦力の余裕もなかった。いち早く全土に和平締結を広めるためのブラフであった。いない事になっているため、当然会見の席には同席せず休養を兼ねてカードゲームに興じていたが、敗者への罰ゲームとしてまずアストリッドがテオドールに言った。
「私に向かってあらん限りの愛のセリフを投げかけろ!」
最初から上下関係ナシ、後遺症が残るような身体的な罰ゲームはナシというルールであったため、特にルールに抵触する事もない故に全く問題はなかったのだが、心にもないセリフを延々と言わされ続けるのは精神的にかなり来るものがあった。それを見てたヨナタンとゲルトラウデはそのセリフに一片の心情も籠っていない事がハッキリと分かったが、アストリッドの反応は強気であった。
「甘い!もっと心情を込めて!」
アストリッドとしても普段の鬱憤が溜っていた事も手伝い、テオドールにそんな言葉を投げかけられても全く嬉しくなかったが、嫌そうにセリフを言うテオドールの姿を見ると普段やり込められてばかりいる鬱憤が幾分晴れるようでかなりご満悦であった。
意地でも勝ってやる、そんな思いで挑んだ次戦においてギリギリではあったが接戦をものにしてテオドールが勝利した、後にヨナタンは語った『大戦に勝利した時より嬉しそうだった』と。勝利したテオドールが出した命令は非情なものであった。
「可愛いフリフリの衣装で膝枕しながら耳かきをしろ!」
即座に『そんな衣装着れるか!』と言いたかったが、下着や全裸であればさすがに文句も言えたが、ルールに抵触しているとは到底言い難い内容であった。ゲルトラウデもノリノリで着替えを手伝い、人生で一回も着たことのないような衣装を着替えた『夜叉』と恐れられた女騎士は非常に恥ずかしそうに現れた。
彼女の容姿は非常に美しかったが、衣装とは壊滅的に合っていなかった、彼女の立ち居姿容姿が最も映はえるのは凛とした姿であり、可愛らしい服は滑稽なほどに似合っていなかった。彼女は誰かの耳かきをしたことなど、これまでの人生で一度たりともなかったが、ルールには厳格な性格でもあり、非常にイヤイヤながらでもその罰ゲームを遂行しようとしていた。
「そういう時はご主人様痒いところはございませんか、だろ!」
テオドールの調子に乗った言葉に、アストリッドは屈辱に震え、ゲルトラウデとヨナタンは笑いを堪えて震えていた、後にヨナタンは語った『くっ殺せ!とか言い出しそうであった』と。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
143
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる