レイヴン戦記

一弧

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王国動乱

コーディネートはこうでねーと

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 国家の存亡に係わる重要な任務である、そう言われてアストリッドは呼び出されていた、執務室ではなくヒルデガルドの私室であり、それが却って内密な謀である事を強調しているように感じられた。
 ヒルデガルドの私室には、女性陣がすでに揃っており、あまり見かける事のないフリーダの姿まで見られた。

「アストリッド、戦争や内乱で多くの人が死ぬ、それは分かっているわよね?」

「はっ!」

「避けられる戦争や内乱はなるべく避けられるよう努力するのがいいと思うんだけど、あなたの忌憚のない意見を聞かせて」

 彼女の頭には今夜来賓として来る、ガリシ国王ブルクハルトの名が思い浮かんだ、王を暗殺し一気に国を併呑すれば最小の犠牲で済む、そのために手練れの剣士である自分に暗殺者としての命を下すつもりであろうという考えを察した。

「はっ!いかなご命令であれ良き結果のため粉骨砕身の努力を惜しまぬ覚悟はできております!」

「そう、じゃあさっそくゲルトラウデお願いね」

「はい、こちらに来てください」

 ヒルデガルドの傍らに待機していたゲルトラウデがついてくるように指示し隣の衣裳部屋へと誘導する、アストリッドはいったい何が起きているのかイマイチ理解しかねていた。
 着替えを支持され渡された服はまたも彼女には絶対に似合わないような服であった。

「おい!いい加減にしろ!何度目だ!流石にくどいぞ!テンドンも許されるのはせいぜい2度までだぞ!」

 そんな怒りに任せたような彼女の怒声であったが、醒めたような表情でゲルトラウデは応じる。

「国家紛争に発展しかねない遠大な策です、ヒルデガルド様の策略に間違いがあるとでも思っているんですか?」

 一瞬考えたがどう考えても、関係があるとは思えず、間違いなく詭弁であろうと思えた。

「絶対に関係ないだろう!笑い者にしたいだけだろう!」

「絶対とおっしゃいましたね?今まで何度その絶対の自信を砕かれたと思っているんですか?」

 それを言われると何も言えなくなる、絶対に勝てると思った戦いでもあっさりと策に嵌められて敗北したり、なにか詭弁のような理由かもしれないがしっかりと理由は準備されており、弁舌で勝てる自信は欠片ほどもないのは理解していた。
 渋々と着替え衣裳部屋を出ると案の定クスクスと笑いものにされた、全員殺して自分も死のうか?本気でそう考え出していると、笑いを噛み殺すようにしながらヒルデガルド命じる。

「フリーダ次お願い」

「はい、よろしくお願いしますね」

 指名されたフリーダは返事をすると、軽くアストリッドに会釈をし、連れ立つように衣裳部屋に消えて行った。
 二人が消えてから先ほどに比べかなりの時間がかかったが、出てきたアストリッドを見て皆、目を疑った。別人としか思えなかったのだ、フリーダの選んだドレスはパーティー用の真紅のドレスで、無駄を極力排したような造りで派手さこそないが凛とした佇まいのアストリッドと非常にマッチしていた、彼女の肌は日に焼け若干の黒さは目立ったが、それさえも野生の野薔薇のような野性味を醸し出していた、メイクまでしっかりとされており、フリーダの手によるせいか、若干夜の女といった印象を見る者に与える部分もあるが妖艶さを感じさせるもので、男を知らない女にはとても見えなかった。
 ゲルトラウデにしても、完全に化けたアストリッドを見ると女として負けた気分になり妙に悔しく感じてしまった、女性陣からもあまりの変貌ぶりと美貌に感嘆のため息が漏れる有様であった。
 今度のメイクと衣装では皆の反応もバカにしたものではなく、率直な感嘆を示しており、初めてのそんな反応に照れくさいような居心地の悪さを感じたが、意を決したように尋ねた。

「ヒルデガルド様。国家存亡に係わるとの事でしたが、この服装とどういう関係があるのでしょうか?この格好でブルクハルトに近づき油断させて寝首を搔けとでもおっしゃるのでしょうか?」

「そんな物騒な事言わないわよ、まずは座ってお茶でも飲みながら話しましょう」

 言われて渋々と着席すると、イゾルデがお茶を用意してくれたが、女として下に見ていたアストリッドの見事な化けっぷりに、こんな事なら前回の対決の時全力で頭をかち割っておけばよかったと微妙な殺意を持ってしまった。

「エルゼ、エルナ、さっきの衣装を見てどう思った?」

 二人とも思い出して苦笑いを浮かべていたが、同一人物とも思えないような滑稽な姿であった。

「まあ、聞くまでもないわよね、中身は同じでも装い一つでまるっきり変わるっていういい実例でしょう」

「話は分かりましたが、国家存亡とはまるで関係ないじゃないですか!」

「エルゼは今度辺境伯の下に嫁ぐ事になったの、夫婦円満のために男をどう騙してのひらの上で転がすかっていう講義の第一回ね、十分反乱防止の範疇じゃない」

 皆少し引き笑いをする中で、婚約者が死んだと言って泣き叫んでいた娘が強くなったものだとイゾルデは妙に感慨深いものを感じた。
 弁舌で勝ち目がないと感じたアストリッドは少し不貞腐れたように席を立とうとしたが、呼び止められた。

「今夜、私は急病って事にするから、私の代わりに晩餐会に出席してね」

「はぁ!なんでですか!」

「それこそが国家戦略よ、ガリシに対しての牽制役にあなた以上の適役がいるとは思えないのよね」

 確かにガリシにとって悪夢のような敗戦にあって、その一翼を担った彼女の武名は鳴り響いており、それがパーティーの席に出てくるだけで威圧感を伴う事は事実であるのは間違いないと思えた、しかしどこかで嘘臭さも拭い切れずアストリッドは質問した。

「騙してないですよね?」

「私が嘘を吐くように見える?」

 こいつは生来のペテン師だ、その場にいる一同は皆口にこそ出さなかったが、そんな事を考えてしまった。
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