モノクロス

うー

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旅人二人

黒白コンビ

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「モノクロだ! モノクロが出たぞ!」

 響くのは哀れな子羊達の悲鳴。逃げ惑う事も出来ずにその命を刈り取られていく。まるで流れ作業のように。
 その作業員は二人だけだった。
 白い髪の女と、黒い髪の男。今ではこの二つは恐れられるモノとなっていた。白と黒が通った後には生あるものは残らない、とまで言われている。だが、実際の彼らは、

「いや、手出すつもりねぇんだけど」

「黒の顔が怖いからかな?」

「怖くねぇよ」

「怖いよ」


 二人は荒野を歩いていた。いや、歩いているのは一人だけだ。その一人にもう一人がおんぶしてもらっていた。
 彼らの名は黒と白、不思議な二人組だった。二人の目的は白髪の麗人、白の記憶を探すことだ。二人が旅を始めて数年が経ったが未だに何の手がかりも掴めていなかった。

「くーろー! 私のきーおーくー!」

「るっせぇ! だからこうやって色んな町を回ってんだろうが! てか降りやがれ! 重てぇんだよ!」

「ぶーぶー! 女の子になんてことを!」

 この世界は町の周辺以外は荒野か砂漠になっていた。大昔の天災ラグナロクによってこのような姿になってしまったのだ。

「ねぇねぇ、あれなに?」

「ん?」

 白は遠くを指さした。そこには機甲兵クリーガーを大隊規模で輸送する飛行艇が浮かんでいた。
 その頃、二人の近くでは魔法使いコルドゥーンと機甲兵の戦闘が起きていた。
 他民族同士の争いはいつの時代も起きる。その時代がどんなに高度な文明を持っていようがいまいが、関係の無い事だ。

「あ、私戦争については覚えてるよ」

「ほう? 言ってみろ」

「戦争は悲しいよねー!」

「……そんなウキウキハキハキしながら言う言葉じゃねぇ気もするが、まぁ大半の人間からすりゃぁそうだろうよ」

 だが、と、戦場があるだろうと思われる方向に歩きながら言葉を続ける黒。

「戦争は金の成る木だからな。無くなってもらっちゃ困る」

「あはっ、黒ひっどーい!」

「戦争のおかげで俺達は食っていけんだ。天職を失いたくねぇだろ?」

「それもそっか、なら今日も張り切ってぶっ殺しましょー!」

 二人の仕事とは戦場を渡り歩き、機甲兵の銃火器や魔法使いの杖を集めるという地味な仕事だった。しかし、それらは金になるのだ。魔法使いの町では機甲兵の銃が、機甲兵の町では魔法使いの杖がよく売れた。
 歩いていると谷にたどり着いた。その谷の下では戦闘が行われていた。二人はそれを上から眺めていた。

「どっちが優勢?」

「ここは機甲兵だな」

 戦闘状況を分析しながら、黒は胸ポケットに入れていた箱がなく曲がったタバコを真っ直ぐにして、口をつける部分を地面でトントン、と数回打ち付けてから火をつけた。

「はぁ……」

 一度肺に入れて吐き出した。

「ここの機甲兵は装備がいい。使い古しじゃぁないわな。という事は……」

 黒は笑みを浮かべた。その顔を見た白も笑みを浮かべた。
 金になる、と嬉しそうに二人で同じタイミングで言葉を発した。

「白、好きに暴れてこい。俺はここで見ててやるよ」

「黒はあれだね。亭主関白だね」

「花を持たせてやろうと思ってんだよ。さっさと行け、バケモノ」

「うわ酷い! じゃぁ行ってくるよ! クソ野郎!」

 嬉嬉として谷の下に飛び降りていく白を喜劇でも見る子供のような顔で見ていた黒は何分持つかな、と時計を一瞥した。

「魔法陣展開」

 白は腕を左右に広げながらそう呟いた。すると白の背後に丸い円に文字が書かれた紅い魔法陣が現れた。

「あはっ! 燃え尽きちゃえ!」

 指の先で小さな五芒星を描き、それを魔法陣の中に移動させた。魔法陣の中にはその五芒星が描かれた。
 白の腕に赤い炎が燃え上がった。それを地面に、叩きつけた。

「まっ、奇襲としちゃまずまずの魔法選びだ。及第点だな」

 黒は真下で起こる大爆発を眺めながら右耳に付けているイヤホンマイクの電源を入れた。それは白と繋がっているものだった。

「奴さんたちは混乱状態だ。さっさと終わらせちまえ」

「もう、黒は早撃ちさんのお粗末なんだからー!」

「……てめぇ、今夜も俺様のビックマグナムで啼かせてやる」

「あははっ! 腰が痛くなるからお手柔らかに!」

 下品な話を終えて首をゴキ、ゴキと鳴らした白は周囲を見渡した。機甲兵達が銃口を向けて取り囲んでいた。

「ありゃ、結構立ち直りが早いね! 優秀な機甲兵達だよ黒! 降りてきてよー!」

「はぁ? てめぇのケツはてめぇで拭け」

「ならもうヤらせてあーげない!」

「おいおい、そりゃぁ困るぜ」

 黒はわざとらしくため息を吐きながら谷に飛び降りた。
 白の目の前に着地した黒は白の口の中に手を突っ込んだ。こみ上げる嗚咽に耐えながら白は涙目になった。

「ケツ穴をこさえてやろうか? 鼻か? 耳か? てめぇらで選びなぁ!!」

 白の口の中から出てきたのは、ただの人間が到底扱う事の出来ない代物、ミニガン(ガトリング銃をちょっと小さくしたもの)だった。
 銃火器を扱う機甲兵らにとってミニガンとは三脚などに固定されて制圧射撃などを行う武器という認識だ。人間が携帯し、使用するなんてのは出来るはずがない、という認識だ。だが、目の前の男の持つそれは明らかにミニガンなのだ。

「俺は穴を埋める方が好きだがなぁぁ!!」

 そんな事を叫びながら黒はトリガーを引いた。すると六本の銃口からは繋がっているような発砲音が聞こえ始めた。それと機甲兵達の叫び声だ。
 爆発が起きたと思えば、次に発砲音が聞こえて機甲兵達が逃げ惑っているのだから、魔法使い側からすれば何が起こっているのか全く理解出来なかった。しかし、今が好機と魔法による攻撃を仕掛けた。
 魔法使いの攻撃と黒の乱射により、機甲兵はほぼほぼ壊滅することとなり、残ったのは黒と白、そして魔法使い達だけだった。
 吸いかけのタバコを捨ててブーツの底で踏み消す黒はミニガンをタバコを捨てる感覚で捨て、魔法使いを見た。

「やれ」

 親指で首を切る仕草をする黒を見て、涙を拭きながら白は首を縦に振った。そして地面に手をついた。

「魔法陣展開」

 一際大きな魔法陣が地面に浮かび上がると白は親指を噛み、血を魔法陣に垂らした。すると、血に反応するように赤くなる魔法陣。

「戦争だからね。仕方ないよね? 戦争だからね」

 白の体が少しずつ溶けていった。先程、黒が白の事をバケモノと呼んだ理由がこれだった。本当にバケモノなのだ。

「綺麗に食い散らかせよ」

 白だった液体は辺り一面に広がった。魔法使いの足元にまで及んでいた。そして液体が一度脈を打った瞬間、魔法使いの体からは煙が上がり、ボトボトと泥が落ちていくように崩れていった。
 それを食べるように吸収する液体は魔法使いを全て食べ終えると、一箇所に集まり白の姿に戻った。

「相変わらず気持ち悪いな」

「あはっ、お腹いっぱいだよ!」

 お腹をさすりながら白は満足そうに笑った。二人は落ちている銃火器と杖を拾って何事も無く、歩くのを再開した。

 世界は大きく三つの人間に分別される。一つはマナという大地に蓄えられているエネルギーを利用し、その膨大な力を行使する魔法使い、もう一つは機械や電気、熱などを利用した科学の力を行使する機甲兵、そしてもう一つが力を持たぬ弱い虐げられるただの人間だ。黒達が武器を売るのはこの三つ目の普通の人間だ。
 彼らは魔法使いと機甲兵に対抗する力を持ち合わせていない。だからこそ多少高くても買ってしまうのだ。それを分かっている黒は彼らの足元を見ていた。
 とある町にて、黒は人が多い通りで集めた武器を売っていた。

「そこの若い兄さん達! 新品のライフルを買っていかないか?」

 黒が声をかけるのは決まって若い男性だった。

「いくら?」

「五百でどうだ?」

「五百だと!? 無理だ! 高すぎる!」

 五百というのは一般的な中古のライフルの約二倍ほどの値段であった。いくら武器が欲しいと言ってもそこまでお金を出す者はいない。

「仕方ねぇな、なら四百五十でどうだ!」

 まだ高い、と首を横に振る若い男性。黒は腕を組んでならサービスだ、と指を三つ立てた。

「三百だ! これ以上は下げられねぇぜ?」

「三百か……むぅ、新品で三百なら……仕方ない! 買おう!」

「毎度あり! さぁさぁ! 新品の銃火器が三百だ! 持ってけこの野郎!」

 その日、仕入れた銃火器の殆どが売れる事となり、黒は大量のお金を手に入れる事となった。
 白は宿でお留守番をしていた。商売が出来るほどの器用さは持ち合わせていなかったからだ。
 部屋に一つしかないベッドの上で白は寝転がっていた。暇だった。
 自身の記憶が戻るのはいつ頃になるか、そんな事を適当に予想しながら白は窓の外を眺めた。記憶が無くても今が楽しければそれでいい、それが彼女の考え方だった。

「逆に記憶なんて無くなったままの方がいいのかもしれないなー。ね、黒?」

 扉に目を向けるとそこには黒が立っていた。商売を終えて帰ってきていた。先程の言葉を耳にして黒は白の額を指で弾いた。

「てめぇの記憶なんざ興味ねぇ。俺はてめぇの力と体を利用するだけだ。俺が死なねぇように、俺がヤりてぇ時にヤれるようにな」

「あはっ、流石だね、流石だよ、流石過ぎて逆に感心しちゃうよ!」

 ベッドに座る黒に後ろから抱きつく白は笑みを浮かべたまま黒の体に手を這わせた。まるで蛇がゆっくりと獲物に絡みつくようだ。

「……記憶が戻っても、黒は私の側に居てくれる……?」

「……はっ、考えていてやる。それよりさっさと服を脱げ。啼かせてやる」

「黒はムードって言葉知らないよね! それじゃぁ女なんて出来ないぞ!」

「馬鹿野郎、本当に良い男には女は寄ってくるもんさ」

「それで寄ってきた?」

「いや全然」

 白は黒から一旦離れると服を脱ぎ始めた。

「それじゃぁ仕方ないね。私が相手をしてやるしかないよね!」

 二人はベッドのシーツに入り込んだ。彼らが眠りについたのは日付が変わってからだった。

 黒が寝起きにする事は決まっていた。起きた時は基本的に機嫌が悪い黒は常に目を細めて眉間に皺を寄せていた。自身の首に手を回している白の細い腕をゆっくりと解きながら窓辺に腰掛けた。そして裸のままタバコを吸い始めた。

「……んぅ……黒……?」

 黒と同じ一糸纏わぬ姿の白が目を覚まし起き上がった。機嫌の悪い黒を見るとふふ、と少し笑った。

「白は俺の機嫌悪いの見るの好きだな」

「好きだよ。黒が怒っている所なんて、滅多に見られないからね」

「趣味の悪い奴だな」

「それでも一緒に旅をしてくれるんだから、黒も大概だよ」

「違ぇねぇ」

 黒はタバコを吸い終わると床に捨てた。
 二人は服を着て荷物を纏めると次の町に向かった。

「ねね! 記憶が戻っでも旅を続けようよ!」

「なんでだ?」

 そう問いかけると白は黒の唇を自身の唇で塞ぎ答えた。

「楽しいから!」

 二人の旅はまだまだ終わらない。
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