モノクロス

うー

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旅人二人

喧嘩

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 その日、黒と白は言葉を交わさなかった。
 些細な出来事だった。白が黒の背中で眠りについていた際に、寝言で魔法を発動してしまった。その魔法は強力な魔法では無かったが、火の魔法だった。服を大事にしていた黒の背中で、だ。
 黒のジャケットの背中部分は大きく焼けてしまい、そこで黒が怒ったのだ。

「てめぇふざけんじゃねぇ!」

「ふざけてなんかないよ! 寝てたんだからちょっとくらい大目に見てくれてもいいじゃんか!」

 そこから一週間、今日に至るまで一度も言葉を交わしていないのだ。
 数年も旅をしていれば喧嘩の一つや二つはよくあるものだ。以前にも喧嘩をした事があり、その時は黒が娼婦と寝た事から始まったものだった。
 嫉妬した白は一週間ほど黒を無視し続けた。その時は黒が折れて謝り終わったのだが、今回の場合は黒が折れることは決してなかった。

「…………」

「…………」

 殺伐とした雰囲気を出す二人。白も今は自分の足で歩いていた。
 そんな二人の前に町が見えてきた。町というよりかは村といった感じだ。塀や門は無く、村の周りを柵で囲っていただけだった。ぽつぽつと並ぶ家屋はあばら家と言っても過言はない作りだった。

「……」

 黒は村に向けて、ここで泊まるぞ、という意味を込めて顎をしゃくった。白はわかった、と返事をするように小さく頷いた。
 村に入るとそこは魔法使いの村だった。村人の一人が黒と白に気付くと奥へ走っていき村長らしき老人を連れてきた。

「……すまねぇが今日はここで泊まらせてくれねぇか」

「旅の方、ですか」

 村長と村人が目を合わせて頷いた。

「何も無いところですが、どうぞ休んでいってください」

 すまねぇな、と村長に礼を言った。黒は村人に小さな家に案内された。客人用であるその家屋は意外と小綺麗だった。
 中に入り、はぁぁ、と大きくため息を吐きながら床に寝転んだ。その動作に少しイラついたのか白が突っかかった。

「何? なんか文句あるんだったら言ってよ」

「別に」

 黒は腕を頭の後ろで組みながら素っ気なくそう返した。それが再び白をイラつかせた。

「……もう勝手にすれば」

「勝手なのはてめぇだろ。人の服燃やしといて謝りもしねぇで、ガキかよ」

 侮辱するようにけっ、と口に出す黒は起き上がり眉間にシワを寄せた。

「……だから何度もごめんって言ってるじゃん! それでも許してくれない黒の方がガキっぽいんじゃないの!?」

 床を強く叩き白は声を荒らげた。その声に黒も声を荒らげた。

「てめぇのごめんは軽すぎんだよ! ごめんなさいぐらい言えねぇのか!? あぁ!? これだからガキのお守りは嫌いなんだよ!」

「言っちゃ悪いけど! 黒だって私のモノ何回も壊してるよね!? その度にすまん、とかすまねぇとか、はぁ? 馬鹿にしてるのかな? そっちこそごめんなさい言えないの!?」

「それは関係ねぇだろうがよ、女はすぐに昔の事をグチグチグチグチってよ、今の話をしてんだよ」

 ヒートアップする二人はお互いの胸ぐらを掴み始めた。

「そうやってすぐ手を出すのやめた方がいいよ!」

「うるせぇんだよ。てめぇが先に掴んだんだろうが! 俺は相手が女だとしてもグーで殴るぞ?」

 黒は拳を握りしめて振り上げた。しかし先に殴ったのは白だった。グーで。

「っ……てめぇ……やりやがったなぁ!!」

 額に青い筋を張る黒は強めに白の顔を殴りつけた。鼻から血を出す白に構わず、力で勝る黒はそのまま白を片手で持ち上げると壁に投げ飛ばした。

「ぅっ……!」

 背中を強く打った白は少しの間、息が出来なくなり、その場に蹲った。
 それを横目に黒は白に背を向けるように寝転び目を瞑った。

「っ…………黒の、バカ……!」

 少しして息が出来るようになった白は苦しそうにそう言いながら、家から飛び出していった。

「……ッチ……あぁクソ、イラつくぜ……バカか俺は」

 その日、日が落ちてもなお、白が帰ってくることはなかった。

 黒は部屋を明るくすることなく、タバコの燻らしていたが、ため息か煙を吐いているのか分からなかった。
 五分の四ほどタバコが灰に変わった頃、戸を叩く音が聞こえた。はいはい、と開けるとそこには村人達がいた。外には大勢の人がおり、その中心に村長がいた。

「この村では旅人が来ると手厚く歓迎する風習があるんですよ」

 と、村長はニコニコと笑みを浮かべながらそう言った。だがそんな気分ではなかった黒は断ろうとした。しかし突然強烈な眠気が黒を襲った。
 白と喧嘩をしていて油断していた黒はクソ、と言いながら倒れたり

 その少し前、白は部屋から飛び出した後、村の外まで出ていた。血が出ていた鼻を腕で拭いたため、薄く広がっていた。

「はぁぁぁ……黒怒ってるかなぁ……」

 白は岩の上に座っていた。落ち着きを取り戻し、黒がまだ怒っているのではないかと深く長いため息を吐いた。

「確かに私も悪いけどさ、黒だってもうちょっと大人になって許しくれてもいいのに……もうイライラしてきた! 黒のばーか!」

 空に向かって黒の悪口を叫ぶ白はふと、近くで魔法が使われたのを感じ取った。先程まで自身が居た村の方からだ。
 なんかあったのかな、と戻っていると再び魔法が使われた。少し威力の高い魔法だった。

「……また黒がなんかやらかしたのかなぁ? 黒はそんなに強くないんだから無茶だけはやめて欲しいんだけどなぁ……死んだら寂しいしねー」

 村の近くまで戻ってきた白は柵の間から中の様子を伺った。そこにはここは中世なのか、と疑いたくなるような光景だった。まるで魔女狩りのように磔にされた黒が村人に囲まれて足元に火を放たれていたのだ。

「……あらら、魔法使いが狩りしちゃってるよ」

 白はそれを見ながらどうしたものか、と腕を組んだ。

「……ちょっと楽しそうだから見とこ」

 村の魔法使いは黒いローブを身に纏い、黒を取り囲んでいた。
 黒は目を覚ますと自身の状況を確認した。

「…………こいつら」

 魔法の中にはマナの代わりに負の感情をエネルギーとして使用する種類があった。怒りや悲しみ、憎しみを使用するそれは大半の魔法使いに忌み嫌われている。負の感情は死と繋がるからだ。
 本来、魔法とは火を操り闇を照らし、地を操り土を耕し、風を操り種を飛ばし、水を操り大地を潤す、謂わば正の感情に繋がるものだ。今でこそ戦争に使われてはいるが、元々は人を喜ばせ、豊かにするためのものだった。
 しかし、村の魔法使いが信仰する悪しき魔法は呪い、不幸にし、命を奪う、豊さとは真逆のものだ。

 掌に刺さる釘から手を引き抜こうとしたが村人がそれを邪魔する。小さく舌打ちをした黒は大人しかった。
 それを見ていた白は首を傾げた。何故逃げようとしないのか、と。

「……黒、なんで、そんなに……穏やかな顔なの……」

 黒の顔は険しいものではなく、穏やかなものだった。それは殺されそうになっている者の顔ではなかった。

「殺すならさっさと殺しなよ」

 諦めではなく願っているようにも聞こえる口調で黒は村長にそう言った。

「恐れは、ないのですか?」

 村長は疑問を投げかけた。黒は笑みを浮かべて答えた。

「……怖くはねぇな。俺には怖いって感情がねぇ、だからいつでも俺はこう思う『今日も殺されるにはいい日だ』と、な」

 満足そうな笑みとその言葉に白の何かが切れる音がした。

「……ふざけないでよ…………私を置いて一人で勝手に満足して……『あぁ、人生バラ色でした』みたいな顔で死ぬなんて許さない……黒!!!」

 白は黒の名を叫びながら村人達の前に出ていった。手のひらに魔法陣を展開させそれを地面に突きつけたが何も起こらなかった。しかし白は真っ直ぐと黒に向かっていく。

「なんだこいつ! あ……?」

 一人の魔法使いが魔法を発動しようとした。だが魔法陣が展開される事はなかった。
 白が先程使った魔法は付近のマナの流れを止める魔法だった。マナが流れていないということは魔法が使えなくなるという事だ。それは自身もだ。
 魔法が使えないとわかった一人の村人は白に殴りかかった。

「黒を返して、今すぐ、返して、まだあっちに行かせない」

 白は村人の腕を脇で挟み込むと反対の手で顔を掴み押し込みながら踵で払った。そして脇に挟む腕を離し倒れかけている相手の顔に素早くパンチを放った。

「邪魔だ! 黒を返せ!」

 自分と同じく魔法が使えないただの女だと思った村人だったがその判断は間違っていた。
 白は機甲兵の特殊部隊並の格闘術で襲いくる村人を捌いて行った。初めて見る白の接近戦の強さに黒は目を疑った。

「…………」

 大の大人を肘打ちで殴り倒す白はいつもの明るい白ではなく、獣のように、しかしリラックスし、姿勢を真っ直ぐ保ち動き続けるその姿はまるで古強者のようだった。
 そして白はいつの間にか黒の目の前まで辿り着いていた。誰も白を止められる者はいなかった。白はその目つきのまま黒を見上げた。黒は息を飲んだ。

「黒、本当に死ぬのが怖くない?」

 低く冷たい声に黒は冷や汗をかいた。

「答えて」

「……はっ、怖くなんか」

 言葉の途中で白は黒を磔にしている木の十字架の足で折った。白は地面に倒れた黒の上に立った。

「黒がどんなに弱いのか知ってる。嘘は吐かないで、虚勢の殻で自分を覆ってる事も知ってる。けど……だからって……」

 倒れる黒を抱きしめる白は涙を流していた。黒の服に顔を埋めた。

「そんな顔で、殺される事を許容しないで……」

「白……俺がなんで旅をしているか知っているだろ?」

 黒は釘から両手を抜き血塗れの手で白を抱きしめた。

「お前には、お前だけには話したはずだ」

「……わかってる……だけど、黒は自分が死なないために私を利用するって言ったよね? それなら最後まで利用してよ……」

 黒は目を瞑りながら自身の胸中を話した。

「お前を殴った時、俺はやっちまったって思ったんだ。お前が出ていって帰って来なくなっちまっても仕方がねぇとすら思った」

「……結構痛かったけど、私は帰ってきたよ。ちゃんと、ね」

「何故だ?」

 目を開け、白の目を見ながら黒は問いかけた。白はすぐに答えた。

「楽しいから」

 そうだったな、と黒は白を抱きながら起き上がった。

「そんなら仲直りだ。ほれさっさと杖を集めるぞ」

「悪魔信仰者の杖って売れるかなぁ」

「売るんだよ!」

 そして二人はいつも通りの二人に戻った。気絶した魔法使いの手から杖を取り、集め終わるとすぐに村を出る準備をした。

「よぉし! こんな村とはおさらばだ! 危うく供物にされるところだったからな!」

「ま、待て!」

 村の出口から出ようとする二人を呼び止めたのは村長だった。魔法陣を展開させて杖を構えていた。

「よくもやってくれたな……!」

「わぉ、元気なおじいちゃんだね」

「演技力もあるからすげぇよな」

 黒は腰から拳銃を抜き取った。村長は雷の魔法を発動した。しかし、黒の前に出た白の片手に受け止められたのだ。

「シンデレラの最後を知ってるか? 意地悪なお姉ちゃんは目をくり抜かれちまうんだ。てめぇも俺に意地悪したんだからそれくらいの覚悟は出来てんだろ? なぁ白?」

 白を後ろから片手で抱き上げる黒は村長の目を真っ直ぐ撃たず目の横に銃口を向けて二発撃った。

「今回は誰一人殺しゃしねぇ。けど、光は失ってもらう。悪魔を信仰するぐらいなんだから闇が好きなんだろ? 良かったじゃねぇか」

 黒は地面に蹲る村長から目を離し踵を返し歩いていった。一言だけ残した。

「お先真っ暗、なんつって」
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