モノクロス

うー

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旅人二人

アンティリナム

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 時に機甲兵クリーガーは大人数で各地を転々とする。それは遠征であったり、訓練であったり、理由は様々だが一番多いのは問題を起こした機甲兵らが集まって徒党を組むという事だ。
 数十年前には機甲旅団 虎狩り部隊ヤークトティーガーという機甲兵の集団が猛威を振るっていた。
 彼らは闇夜を素早く移動し、あらゆる町で悪事を働いた。金があれば奪い、女がいれば犯し、子供がいれば売り、邪魔な者は殺した。しかしそんな虎狩り部隊ですら最後には数人を残し壊滅してしまったのだ。
 そして再び虎狩り部隊のように勢力を広げつつある機甲兵の集団があった。

 人が居ない町に辿り着いた黒と白は荒れ果てた町の中を探索していた。比較的大きな町だった。そしてかつては賑やかだった。

「町の住人はいねぇな……元住人は沢山いるがな」

 足の踏み場が無いほどの人間だったものが、死体が転がっていた。

「皆殺したぁ、派手だな」

 黒はその死体にある傷を見ていた。銃火器によって頭が弾け飛んでいる死体、僅かながらの肉で繋がっている四肢、同じ銃火器を扱う者として、この鏖殺が機甲兵によるものだとすぐに分かった。

「黒もこんな感じだったのー?」

 白は鼻を指で挟みながらそう問いかけた。黒は頷いた。

「まぁな、だがこいつらはほんとにただ殺してぇから殺したって感じだな」

 白はなんで、と首を傾げた。

「金になりそうなもんが一切取られていねぇ、それに若い女もぶっ殺してやがる」

 もったいねぇな、と黒は少女に覆いかぶさるようにして倒れている女の死体を見つけた。

「……おい白、このガキに治癒魔法をかけてやれ」

 そして少女はまだ息があった。白は急ぎ少女の体を癒し始めた。
 その少女が目を開けたのは治癒魔法をかけてから数時間後の事だった。
 損壊が少ない家屋に入っていた二人は少女をベッドの上に寝転がせながら起きるのを待っていた。

「ねぇ黒、珍しいね」

 白は椅子に座る黒を後ろから抱きしめて黒の珍しい行動に首を傾げた。

「何があったか聞くだけだ」

「連れていかないの?」

「連れていかねぇよ」

 目が覚めた少女は体を起こして二人を見た。そして声をかけた。

「……あの」

 少女の声に気付いた二人はベッドの傍に移動して話を聞くことにした。
 少女もよく覚えていなかった。しかし突然、煙が起こり、そのすぐあとに銃声が聞こえ始めた、としか覚えていなかった。

「……まぁ、まず混乱させるわな」

 黒はベッドに近くに持ってきた椅子に座りながら話し始めた。

「この世界に秩序を守ってくれる存在なんていねぇ、ルールもねぇ、だからてめぇの町が襲われたのは、物凄く不運だったってこった」

「…………」

 少女はワナワナと小刻みに震えた。そこから感じ取れるのは悲しみではなく、怒りや憎しみだった。

「お母さん……」

「ねぇ、黒、この子から少しだけどマナを感じるよ」

 白は少女の額に手を当ててそう言った。黒は少し考えた。
 己の保身が第一の黒はこの少女が己を守る盾になのではないか、と考えた。

「……な、る、ほ、ど、な。なるほどなるほど……」

 何回も頷き、黒は少女に問いかけた。

「おいガキ、復讐したくはないか?」

「復……讐?」

「あぁ、てめぇの全てを奪った奴らに仕返しするんだ。幸か不幸か魔法使いの素質があるお前は仕返しが出来る力を持っている……だから、復讐したくはないか?」

 同じ言葉を、復讐、という言葉を繰り返す少女。それを見つめる黒は白に後は任せた、と伝えると町の中を見て回る事にした。お金になる物を探しに行った。

「…………子供は扱いやすくて助かるな」

 黒は家の外で呟きながら街を歩き始めた。
 一方、白は少女に魔法について教えていた。

「魔法は大地のマナを使うってのは知ってるよね? まずはそのマナを感じる事から始めないとねぇ」

「うん」

 白は家の中で見つけたペンと紙を少女に渡した。

「本当は杖とかあったら早いんだけど、無いから魔法陣を書かなきゃいけないんだよね」

 魔法使いの杖には魔法陣が描かれている。それは魔法を使うプロセスを簡略化するためのものだ。本来なら、魔法陣を描き、その魔法陣にマナを充填しなければならない。杖はその流れを省略するためにある。
 しかし、魔女ストレーガである白が杖を必要としないのはとある理由があった。

「まぁ、ちょっとしんどい時とかあるかもしれないけど、我慢だよ」

 白は回復していない少女に魔法陣の書き方を教えた。魔法陣は個人によって異なる。そして、その魔法陣により得意な魔法が決まる。

「好きに書いてごらん」

 そう言われて少女は丸く円を書いた。自身が魔法陣と思うモノを書いた。

「……こんな感じ……?」

「これは……ん、ちょっと待っててねぇ」

 白は紙を手に取り別室に移動した。そこで少女が書いた魔法陣を見ていた。そしてその魔法陣が普通の魔法陣では無いことに気が付いた。

「闇の魔法かぁ……ちょっと危ない存在かも……」

 白は黒の元へと向かった。少女が書いた魔法陣を見せるためだった。

「くーろー! ちょっとくーろー!」

 黒の名を叫びながら町の中を走り回る白は黒を探していた。

 その頃、黒は町の反対側の入口付近で土の地面に残っている太いタイヤ痕を見つめていた。いくつも重なり合っていた。それが何かはすぐに理解出来た。

「……いつの時代も馬鹿な事をする奴らはいるもんだな?」

 笑いながら声を抑え、タイヤ痕の先を見据えながらそう呟いた黒は後ろから白の自身の名を呼ぶ声を聞き振り返った。

「あ! 見つけた! ちょっと黒! あの子に魔法を教えるのはやめた方がいいよ!」


 黒は首を傾げた。そして何故だと問いかけた。

「闇の魔法はダメ! 絶対に!」

「……お前がそこまで言うなんて珍しいじゃねぇか」

「私は誰もが認める凄い魔法使いだけど、闇の魔法は使えないし、もし今の状態で普通の魔法を教えても時を待たずに堕ちるからね」

 いつもとは違う真面目な顔でそう言いつつ、白は魔法陣の書かれた紙を破り捨てた。

「もしあの子が堕ちた時、私は弟子をこの手で殺さなきゃならないんだよ? 魔法使いが自分の魔法の骨格を教える弟子を取るということは、どれだけ大変な事か理解しているよね?」

 腕を組み無言でため息を吐いた黒は少女がいる家に向かって歩き始め、そして仕方ねぇな、と拳銃を抜いた。

「そんならさっさと楽にしちまおう」

「…………今回は賛成出来ないかな」

「そうか、ならてめぇとはここでお別れだろうよ」

 頬を膨らます白はワガママ、と黒の事をそう言いながら斜め後ろを歩いた。

「黒なら性処理道具として連れていくと思ったのに……『今日は小さくてやわこい肉壺がいい気分だぜ』みたいな感じで」

 白は低い声で黒の真似をしながら黒の隣に追いつき顔を覗き込んだ。

「ガキの体なんぞ使ってみろ、俺様のビッグなフランクフルトが腹を突き破っちまうっての」

「黒のは無駄にでかいからね」

「おい無駄とか言うんじゃねぇよ、これでも結構好評なんだぞ? この前の町でもよ……あ」

 黒は口を滑らせてしまった。取り繕うようにすぐに笑顔を白に向けた。

「この前の町で? 何?」

「違う。違うぞ白、お前が思っているような事は一切ないぞ? 布越しからって事だ、ホントだ。嘘はついていないぞ? 俺がお前を裏切るような事をした事あるか? ねぇだろ? 第一お前以外の体で満足すると思うか?」

 早口でそう捲し立てて黒は早足で家に向かった。

「黒、後で覚えててね」

「OKっておい、あいつ何してんだ」

 黒は足を止めた。白も足を止めて黒が見ている方を見た。
 少女が小さなスコップで地面に穴を掘っていたのだ。遊んでいるわけではなかった。

「おい何してんだ」

 黒が声をかけると少女は手を止めて二人を見た。そして近くにある男女の死体を指さした。
 お墓を作ってるの、と少女は再び掘り始めた。

「……そうか。頑張れよ」

 手に持つ拳銃の引き金に指をかけた黒はゆっくり近付いていき銃口を迷わず少女に向けた。

「助けておいて悪いが、今ここで楽になっちまえ。その方が、楽だ」

「……やだ」

「──あん?」

 黒は何が起きたのか分からなかった。自身の左胸に黒く鋭い少女の影が突き刺さっていた。

「……堕ちた魔女アンティリナム……」

 白は悲しそうな表情を浮かべて倒れる黒を介抱した。
 魔法使いとしての素質がある者が身を焦がすような怒りや悲しみ、憎悪に包まれた時、膨大なマナが体に供給される。その際にマナに飲み込まれた者は自身の欲望のままに動く。少女の場合、機甲兵を殺したいという欲望から真っ先に黒を狙ったのだった。

「……返して……お父さんとお母さんを……返して……みんなを……!!」

 涙を流し、影を触手のように動かす少女を、白は見ていられなかった。魔法陣を展開させようとしたところで、弱々しく黒に止められた。

「いってぇ……白、俺がやる……」

「……楽にしてあげて」

 心臓を貫かれたはずの黒がよろよろと立ち上がり地面に落とした拳銃を拾った。

「……機甲兵……! 死んでしまえ……!」

 起き上がった黒を見て少女は再び影を黒に向けた。黒は避けようとせずそれを受けた。影は黒を貫いた。

「憎いよなぁ……」

 しかし、黒は影を深く深く差し込んでいき少女に近づいていった。そして少女を抱き締めた。

「だが、ガキのてめぇがそこまで気負うこたぁねぇ……」

「離して……! 離してっ……! 離せ!!」

 黒の腕の中で暴れて次第に口調が悪くなる少女の後頭部に、眉を曇らせる黒は手に持つ拳銃の銃口を突きつけた。
 そして一言、

「せめて向こうで幸せになりな」

 その日、黒は一箱分のタバコを吸った。
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