モノクロス

うー

文字の大きさ
7 / 11
旅人二人

本音

しおりを挟む
 少女を手にかけた黒はそれから毎晩のように白と激しく体を重ね合った。白は黙って黒を受け入れた。
 そんな毎日が続いたある日の夜、焚き火の前にシーツを敷き、白と一つの毛布を被っている黒は己の手のひらを眺めていた。
 どうしたの、と白は首を傾げた。

「腰が痛ぇ」

「……そりゃ毎日猿のように振ってたらね。それで、どうしたの?」

「まぁ、なんだ……いつもありがとよ」

 いいよ、と白は微笑んだ。そしてゆっくり黒の背中を抱き締めた。

「……人を殺すのに躊躇いもねぇし、後悔もしねぇ、だがどうしてもガキはダメだ……いや、殺さなきゃいけねぇなら殺すがよ」

「うん」

「……ただ、なんつうか、なんつうんだろうな」

 目を伏せて白の肩に頭を乗せる黒は白に体を任せた。
 白を引っ張っていく黒だが、白にだけは本音を、弱い所を見せた。その時だけ、黒は化け物から人間になれた。

「黒はさぁ、どうして旅を始めたの?」

「……満たされてぇんだろうな」

 目を細く開けた黒は空に浮かぶ星々を仰いだ。そして手を伸ばした。

「俺はどうしようもなくクズだ。それはいい、別に嫌じゃねぇ、だが、毎日毎日浴びるほど酒を飲んでも、血の池が出来るほど人を殺しても、壊れるほど女を犯しても、何でも出来るほど金を奪っても、なぁんも満たされねぇんだ、なら何をしたら俺は満たされる?」

 白は黙って黒の話を聞いていた。

「だから旅に出た。なんか変わるんじゃねぇのかって思ってよ、そしたらてめぇと出会った」

「満たされた?」

「……わかんね」

 ふふ、と軽く声を立てて笑った白は空に向かって伸びる黒の手に自身の指を絡めさせた。

「黒は自分が思ってるほど、クズじゃないよ」

「……」

「黒は絶対に私を見捨てたりしないもん」

 この言葉に黒は最初は驚きながらも次第に呆れたようにため息を吐いた。馬鹿馬鹿しい、と。

「黒からしたら馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、私はそうは思わない」

「……白、もういい」

 黒は腕を下ろして再びため息を吐くとそう言った。しかし白は言葉を続けた。

「私は黒と出会って……ん」

「……あんま、俺に優しくしないでくれ」

 黒は白の口を自身の口で塞いだ。顔を離すと困ったように眉尻を下げた。
 そうだね、と白は残念そうな顔をして寝転ぶと目を閉じた。

「おやすみ、黒」

「……おやすみ」

 静かに眠りの挨拶を一言、静かに呟くと寝息を立て始めた白。同じく静かで短い言葉で返した黒は枕の下に置いていた拳銃を手に取り白に向けた。

「…………誰だ」

 しかし、そこに不意に感じ取った何者かの気配に黒は目を細めた。

「……殺しちまえよ」

「誰だてめぇ」

 焚き火の光が届かない影から現れたのは黒自身だった。

「魔法使いだろう?」

「……」

「だんまりかよ」

 もう一人の黒は下卑た笑みを浮かべた。不愉快そうに黒は睨みつけた。

「いずれ殺さなきゃならねぇのに」

「黙れ」

「さっさと殺して」

「黙れっつってんだろうが!!」

 もう一人の黒に拳銃の弾を発砲した黒。それの弾丸が当たることはなく、横の岩に当たった。

「何処で変わっちまった? 何を間違えた? てめぇは嘘吐きだな。辛いと抜かしていても、心ん中じゃどうだ、あのガキをその鉄の塊で弾いた時、何を思った? 本当に辛かったのか? 違うだろう、嘘を吐くなよ。そんなに自分を美化したいか? てめぇは黒だ。全てを飲み込む黒い半端な化け物だ」

「…………違ぇ……」

「違わねぇだろ? お前が本当にやりたいことはなんだ? やるべき事はなんだ? その女を抱くことか? 幸せにすることか? 人間にもなれねぇお前がか? はっ、あんま笑わせんなよ、なぁ、黒?」


 そこで黒は目を覚ました。目の前には心配そうに黒を眺める白の顔、先程まで自分が居た暗闇だった場所には何もいない。
 夢か、と安堵する一方で何故か残念がる自分がいる黒はその心を振り払うかのようにタバコに火をつけた。
 白を殺したい、ふざけんな、幸せにしたい、ふざけんな、煙を吐き出す度にそんな感情を吐き出した。

「黒、うなされてたみたいだけど」

「ん、あぁ」

 素っ気ない返事を返した黒は白を見つめた。

「どしたの?」

「昨日の夜、俺はいつ寝た?」

「私が寝てからも起きてたんじゃないの?」

「……」

 黒は拳銃の弾倉を抜き取り弾丸の数を数えた後、もう一人の自身が立っていた近くの岩に目をやった。そこには弾痕があった。

「夢じゃ、ねぇ……だと?」

 はは、と頭を押さえて笑う黒を見た白は首を傾げた。

「くろー? どうしたの?」

「白、少し探してほしいものがある」

 そう言って黒は自身の髪を数本抜くとそれを白に渡した。
 何を探せばいいの、と白は魔法陣を展開させた。

「俺だ」

 何を言っているのかわからないといった顔を浮かべた白だったが言われた通り黒を探す事にした。髪を魔法陣の真ん中に置き、それを手で押さえて魔法を発動させた。

「……あれ、おっかしいなぁ」

 白は魔法で黒を探知した。通常なら目の前にいる黒だけを感じ取るはずだが、そうではなかった。

「複数の黒を探知出来たんだけど」

「……けっ、どこの俺かは知らねぇが不愉快だな」

 白の使用した魔法は本来、無くした物や探し人を探すための魔法だ。探したい対象の情報があれば魔法少女アムレートでも発動する事が出来る簡単な魔法だ。今回は黒自身を知っていることもあり、かなりの範囲で探知出来ていた。
 どの方角だ、と黒は白に問いかけた。白は北東を指さした。

「なるほど……北東か……偶然か?」

「ん、何が?」

「タイヤ痕だ。あのガキの町を襲った機甲兵のタイヤ痕は北東の方角に向かって続いていたからな」

 黒は腕を組み何かが起きているのを感じ、白にどうする、と聞いた。

「……行ってみよう!」

「はっ、そう言うと思ったぜ。よっしゃ! それなら向かうか!」

 二人は荷物を纏めて黒を感じたという北東の方角を向かうことにした。

 二人が北東へと歩みを進めた事を遠くの高台から双眼鏡で眺めている女が居た。

「対象は予定通り移動を開始しました」

 大型のバイクに跨る赤い髪の黒いライダースーツを着る女だった。
 女は耳に通信機を当てて、二人の行動を逐一報告していた。

「……了解。追跡を続けます」

 女は高台から降りていくと二人のはるか後方を走り始めた。文句を言いながらだ。

「なんで私がこんなに長い間追跡しなきゃならないのよ……」

 それもそのはず、彼女が追跡を開始したのは二人が出会いモノクロとして有名になり始めてからだ。数年間も二人を追い続けていた。

「……まっ、黒のためだし仕方ない、か」

 女はその後、数週間野宿をするハメになった。町がないからだ。

「……はい」

 そんな中、通信が入った。二人と積極しろという命令だ。もちろん、上の命令には従わなくてはならない。

「……了解。次に対象が寄るであろう町で接触を図ります」

 通信を切り、バイクの上で立ち上がる女は嬉しそうだった。何故なら彼女と黒は浅はかならぬ関係にあった。
 女の指にはまっているリングが鈍く光る。
 リングにはあなたの幸せを願わない日はない、と彫られていた。

「私を置いて行くなんてひどい人ね、ほんと……でも私は怒らないわ」

 
 ガソリンの切れたバイクを放置して、女は歩き始めた。心底穏やかな表情で。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...