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第十二話
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夏が終わるというのは、何処か感慨深い。今までで様々な事が起きた。その内の殆どで俺は怪我を負ってしまったが、なんとか死なずに頑張っている。
先日の旅行でも、片目を喪失してしまった。姫先生にはとても心配させてしまい、申し訳ない気持ちだ。
その事もあり、一人で居るのは危ないとして姫先生の家に居候させてもらっている。力場校長にはかなり謝られてしまった。どうやら知らなかったようで、俺の傷を見ては、頭を抱えていた。
柊にも現状を写真で送っておいたが、すぐに電話が掛かってきて、茶化されただけで終わった。何が理性を保てよ、だ。バカにしてくれる。
こっちは崩れ去りそうになる理性をギリギリの所で食い止めるのが精一杯なんだ。女性と一つ屋根の下なんて、中々辛いものがある。他人の家ということもあり勝手が未だにわからない。
七月三十一日
柊から連絡があり海に行く事になった。あいつはいつも唐突だな。その事を姫先生に話すと「柊君と一緒なら、安心ですね」と行っていいそうだが、出来るなら一緒に行きたかった。いやなに、彼女の水着姿が見たいという訳では無い。そんな事は思っていない。あぁ、全くそんなつもりは無い。
彼女は軍の仕事で少し遠くへ行かないと行けないらしくて、明日には帰ってくるようだが柊との予定が無ければ、俺も一緒に連れていっていたそうだ。仕事ならば、仕方がない。
移動手段は柊の知り合いが車を出してくれるそうだ。俺は待ち合わせの場所である駅前に向かった。
荷物は帰りの着替えやブルーシートくらいだ。水着は既に履いていて、向こうで着替えなくても済むようにした。
十分ほど花壇に座り、携帯を弄りながら待っていると凡そこれから海に行きそうには思えない黒塗りのSUVが目の前に止まった。助手席からは、これから海に行きますよとアピールしまくりの、髪の上にサングラスをかけた、アロハシャツと水着のズボンを履いた柊が出てきた。
「よっ、独眼竜」
「うるせぇハワイ野郎」
俺達なりの挨拶を済ませた。運転席から出てきたのは、姫先生とはまた違った感じの助成だ。なんだそのホットパンツ、ほとんど下着じゃないか。
「はじめましてっす」
「あ、どうも。鬼塚 稔です」
「有名人っすから知ってるっすよ!」
あぁ、そうですか。中々元気な人だ。皇 蘇芳、年齢は秘密だそうだ。因みに上から八十七、六十一、八十九らしい。あぁ、かなり我儘な体つきだ。
「それにしても、お前色々と大変だな?」
車のドアを上げながら助手席に座ろうとする柊はこちらを見て苦笑混じりの顔でそう言った。自分でも確かにそう思うぞ。
片目、背中に多数の刺し傷、心臓にチップが一つ、頭にはチップが二つ入れられていたし、何故だかこれからも増えそうな予感がする。
「でも中々可愛い顔してるんすねぇ、歳上の女に好かれそうっす」
バックミラーでこちらを見る蘇芳さんの顔と目が合うとニコニコと笑った。その時はただ気さくな人だな、という感じにしか取らなかった。
数時間、車で移動すると、人が少なく海の家も無い遠浅の比較的透明な海に着いた。日本海側だろうか?
「さて、鬼塚、準備はいいか?」
「俺はいつだって出来てるぞ」
俺と柊はシャツを脱ぎ捨てて車を飛び出していった。砂に足を取られて転びそうになりながらも俺達は海に飛び込んだ。
慣れるまではやはり冷たいな。肩をすぼめていると、体が浮き上がった。何事かと後ろを振り返ると、柊が俺の足を腕と胸で挟み込むようにして持ち上げていた。
「まだ目が染みる!」
「知らねぇな!」
そのまま後ろに倒れるように俺は海に落とされた。鼻や目に水が入りながらも水面に顔を出すと柊が爆笑していた。
「やりやがったなこの野郎!」
俺も負けじと笑っている柊の背中に回り込み腹部に手を回した。そしてそのまま持ち上げ、後ろに倒れた。バックドロップをする日が来るなんて思いもしなかった。
海水で目が少し痛むがあまり気にはならない。それよりも、鼻を押さえながら目をゴシゴシと擦る柊の方が気になる。
「てめぇやりやがった! あークソ目が痛ぇ! お前の方が重症だが目が痛ぇ!」
「言ってくれるじゃないか」
そんな風にガヤガヤしていて、ふと浜の方を見ると、蘇芳さんがいつの間にか、ロッジテントを張り、俺が持ってきていたブルーシートを地面に敷いて、リクライニングチェアに座りこちらを見守るようにして見ていた。
柊とはどんな関係なのだろうか? 詮索は好きじゃないが少しだけ気になる。俺は柊にその事を聞いてみた。
「ん? 蘇芳は昔からの馴染めでな、アウトドアに関してはすげぇ得意だぜ。軍関係の仕事をしているからな」
蘇芳さんの事を話す柊はどこか楽しそうだった。それにしても軍の関係者ということは姫先生の事も知っているんじゃないだろうか。そうなれば不思議な縁だな。
縁というのは本当不思議なもので、例えば力場校長と俺の縁は、俺の両親と知り合いだったから俺はこうしていられる。感謝しかない。こういう縁は大事にしなくてはならないな。
そうこうしている内に昼になってきたのかお腹が空いてきた。そういえば朝から何も食べていなかったのを忘れていた。
柊と共に海から出ると、肉の焼ける匂いがした。どうやら、蘇芳さんが持ってきていたようだ。何から何まで申し訳ないな。
「あ、今いい感じに焼けてるっすよ!」
いつの間にか水着に着替えていた蘇芳さんは豊満な胸部を揺らしながら手を振っていた。姫先生より目のやり場に困ってしまう。
「蘇芳レタスあるか?」
「はいはいーあるっすよー」
慣れた手付きで、蘇芳さんはブロックの氷が敷き詰められたクーラーボックスの中からレタスを一玉、手に取りそのまま柊に手渡した。
「稔君は何かいるっすか? 色々あるっすよ」
まるで青いロボットが持つポケットのように色々なモノを取り出している。ぱっとボックスの中を目をやると、こんな彼女が軍人だと再確認させるモノが入っていた。
「これ気になるっすか?」
「あぁ……まぁ、はい」
姫先生と同じ型の拳銃だったが、それより気になってしまうのが、始終ニコニコとしている蘇芳さんの顔が逆に怖く感じてしまう所だ。
「本当ならこんなの持ってるってバレたら即逮捕っすけど、やっぱり一度持つと手放せないもんなんすよ」
一昔前に、世界的に銃を規制しようという運動があったようだがそれは叶わなかった。例えば、あの自由の国でさえそれは不可能だった。日本では銃の解禁は出来なかった。しかし、その代わりカパチタが現れた。一度手にするとわかるが、安心感が違う。
信頼出来る銃所持者、というのは全くもってよくわかる。それはカパチタも同じだろう。大半が信頼出来るカパチタ保持者、という名目で保持しているが、一部の信頼出来ないカパチタ保持者によって、カパチタを規制しよう、という声も上がり始めている。俺は反対だ。
まぁ、今日は楽しみに来ているんだ。こんな難しい話はやめておこう。
昼からは蘇芳さんも海に入るようになり、三人でゴムのボールを使いバレーボールをした。彼女の身体能力に翻弄されながら、時間は過ぎていった。
焼けた肌がヒリヒリとしている。思う存分に楽しめた一日だった。そう俺は思っていた。
「鬼塚」
隣のシャワールームから柊に呼ばれた。何処か疲れた様子だった。朝から遊んでいれば仕方の無いことだがな。
俺はどうした、と返事をした。
「今日は楽しかったか」
「当たり前だろ。来年も来れたらいいな」
俺がそう言うと、柊は少し間を開けてそうだな、と悲しそうに小さく呟いた。隣で何やらカチャカチャと音が聞こえはじめた。何の音だろうか?
「すまねぇな鬼塚」
何に謝っているのか分からなかった。しかし、その謝罪の意味はすぐに理解する事となった。
「俺のために犠牲になってくれ。許せとは言わないし、恨んでくれても構わねぇ」
「柊……お前」
後頭部に突き付けられる鉄の物体。それは脅しには充分すぎる代物だ。しかし、それよりも柊がそれを使い、俺に突き付けているという現実が全くもって信じられない。こいつはこんな事をするような奴じゃない。
「事情があるんだろう……海に来たのも、これの為か?」
「……そうだ」
そうか、初めからそのつもりだったのか。そうか、そうだったのか。馬鹿馬鹿しいな、一人ではしゃいでいた、だなんて。
最初から俺は騙されていたのか? 柊が声をかけてきたあの時から? それなのに俺は馬鹿正直に信頼していたのか? そんな事を思っていると変な笑いが出てしまった。
「だが楽しくなかった、なんて事はねぇ」
「いいんだ、柊。好きにしてくれ」
もうどうでもいい。言葉通りだ。好きにしてくれ。抵抗する気さえ起きない。
「……蘇芳、鬼塚の服を持ってこい」
柊はシャワールームの外に居るのだろう蘇芳さんに、声をかける。
最後に、姫先生の声が聞きたかった。二度と聞けなくなってしまうのだろう。そう思っていると、服の中に入っていた俺の携帯のコール音が鳴り響いた。
姫先生だけは音を変えていた為、それが彼女からの連絡だとすぐに気付いた。
「……鬼塚、何も言わないのなら、取ってもいいぞ」
「……頼む……」
彼女の声を耳に刻む事が出来るのなら、俺はそうしよう。服を着た俺はポケットから携帯を取り出して、耳に当てた。
「稔君! 今すぐ逃げなさい! 柊君は──」
「姫……先生」
通話はすぐに途切れた。彼女の方でも何かが起きたようだ。これは自己満足だが、俺は彼女の声を聞く事が出来て充分だ。
それから、俺が人間として生きていく事は出来ないのだと気付かされるのは、そう遠くない未来だった。
先日の旅行でも、片目を喪失してしまった。姫先生にはとても心配させてしまい、申し訳ない気持ちだ。
その事もあり、一人で居るのは危ないとして姫先生の家に居候させてもらっている。力場校長にはかなり謝られてしまった。どうやら知らなかったようで、俺の傷を見ては、頭を抱えていた。
柊にも現状を写真で送っておいたが、すぐに電話が掛かってきて、茶化されただけで終わった。何が理性を保てよ、だ。バカにしてくれる。
こっちは崩れ去りそうになる理性をギリギリの所で食い止めるのが精一杯なんだ。女性と一つ屋根の下なんて、中々辛いものがある。他人の家ということもあり勝手が未だにわからない。
七月三十一日
柊から連絡があり海に行く事になった。あいつはいつも唐突だな。その事を姫先生に話すと「柊君と一緒なら、安心ですね」と行っていいそうだが、出来るなら一緒に行きたかった。いやなに、彼女の水着姿が見たいという訳では無い。そんな事は思っていない。あぁ、全くそんなつもりは無い。
彼女は軍の仕事で少し遠くへ行かないと行けないらしくて、明日には帰ってくるようだが柊との予定が無ければ、俺も一緒に連れていっていたそうだ。仕事ならば、仕方がない。
移動手段は柊の知り合いが車を出してくれるそうだ。俺は待ち合わせの場所である駅前に向かった。
荷物は帰りの着替えやブルーシートくらいだ。水着は既に履いていて、向こうで着替えなくても済むようにした。
十分ほど花壇に座り、携帯を弄りながら待っていると凡そこれから海に行きそうには思えない黒塗りのSUVが目の前に止まった。助手席からは、これから海に行きますよとアピールしまくりの、髪の上にサングラスをかけた、アロハシャツと水着のズボンを履いた柊が出てきた。
「よっ、独眼竜」
「うるせぇハワイ野郎」
俺達なりの挨拶を済ませた。運転席から出てきたのは、姫先生とはまた違った感じの助成だ。なんだそのホットパンツ、ほとんど下着じゃないか。
「はじめましてっす」
「あ、どうも。鬼塚 稔です」
「有名人っすから知ってるっすよ!」
あぁ、そうですか。中々元気な人だ。皇 蘇芳、年齢は秘密だそうだ。因みに上から八十七、六十一、八十九らしい。あぁ、かなり我儘な体つきだ。
「それにしても、お前色々と大変だな?」
車のドアを上げながら助手席に座ろうとする柊はこちらを見て苦笑混じりの顔でそう言った。自分でも確かにそう思うぞ。
片目、背中に多数の刺し傷、心臓にチップが一つ、頭にはチップが二つ入れられていたし、何故だかこれからも増えそうな予感がする。
「でも中々可愛い顔してるんすねぇ、歳上の女に好かれそうっす」
バックミラーでこちらを見る蘇芳さんの顔と目が合うとニコニコと笑った。その時はただ気さくな人だな、という感じにしか取らなかった。
数時間、車で移動すると、人が少なく海の家も無い遠浅の比較的透明な海に着いた。日本海側だろうか?
「さて、鬼塚、準備はいいか?」
「俺はいつだって出来てるぞ」
俺と柊はシャツを脱ぎ捨てて車を飛び出していった。砂に足を取られて転びそうになりながらも俺達は海に飛び込んだ。
慣れるまではやはり冷たいな。肩をすぼめていると、体が浮き上がった。何事かと後ろを振り返ると、柊が俺の足を腕と胸で挟み込むようにして持ち上げていた。
「まだ目が染みる!」
「知らねぇな!」
そのまま後ろに倒れるように俺は海に落とされた。鼻や目に水が入りながらも水面に顔を出すと柊が爆笑していた。
「やりやがったなこの野郎!」
俺も負けじと笑っている柊の背中に回り込み腹部に手を回した。そしてそのまま持ち上げ、後ろに倒れた。バックドロップをする日が来るなんて思いもしなかった。
海水で目が少し痛むがあまり気にはならない。それよりも、鼻を押さえながら目をゴシゴシと擦る柊の方が気になる。
「てめぇやりやがった! あークソ目が痛ぇ! お前の方が重症だが目が痛ぇ!」
「言ってくれるじゃないか」
そんな風にガヤガヤしていて、ふと浜の方を見ると、蘇芳さんがいつの間にか、ロッジテントを張り、俺が持ってきていたブルーシートを地面に敷いて、リクライニングチェアに座りこちらを見守るようにして見ていた。
柊とはどんな関係なのだろうか? 詮索は好きじゃないが少しだけ気になる。俺は柊にその事を聞いてみた。
「ん? 蘇芳は昔からの馴染めでな、アウトドアに関してはすげぇ得意だぜ。軍関係の仕事をしているからな」
蘇芳さんの事を話す柊はどこか楽しそうだった。それにしても軍の関係者ということは姫先生の事も知っているんじゃないだろうか。そうなれば不思議な縁だな。
縁というのは本当不思議なもので、例えば力場校長と俺の縁は、俺の両親と知り合いだったから俺はこうしていられる。感謝しかない。こういう縁は大事にしなくてはならないな。
そうこうしている内に昼になってきたのかお腹が空いてきた。そういえば朝から何も食べていなかったのを忘れていた。
柊と共に海から出ると、肉の焼ける匂いがした。どうやら、蘇芳さんが持ってきていたようだ。何から何まで申し訳ないな。
「あ、今いい感じに焼けてるっすよ!」
いつの間にか水着に着替えていた蘇芳さんは豊満な胸部を揺らしながら手を振っていた。姫先生より目のやり場に困ってしまう。
「蘇芳レタスあるか?」
「はいはいーあるっすよー」
慣れた手付きで、蘇芳さんはブロックの氷が敷き詰められたクーラーボックスの中からレタスを一玉、手に取りそのまま柊に手渡した。
「稔君は何かいるっすか? 色々あるっすよ」
まるで青いロボットが持つポケットのように色々なモノを取り出している。ぱっとボックスの中を目をやると、こんな彼女が軍人だと再確認させるモノが入っていた。
「これ気になるっすか?」
「あぁ……まぁ、はい」
姫先生と同じ型の拳銃だったが、それより気になってしまうのが、始終ニコニコとしている蘇芳さんの顔が逆に怖く感じてしまう所だ。
「本当ならこんなの持ってるってバレたら即逮捕っすけど、やっぱり一度持つと手放せないもんなんすよ」
一昔前に、世界的に銃を規制しようという運動があったようだがそれは叶わなかった。例えば、あの自由の国でさえそれは不可能だった。日本では銃の解禁は出来なかった。しかし、その代わりカパチタが現れた。一度手にするとわかるが、安心感が違う。
信頼出来る銃所持者、というのは全くもってよくわかる。それはカパチタも同じだろう。大半が信頼出来るカパチタ保持者、という名目で保持しているが、一部の信頼出来ないカパチタ保持者によって、カパチタを規制しよう、という声も上がり始めている。俺は反対だ。
まぁ、今日は楽しみに来ているんだ。こんな難しい話はやめておこう。
昼からは蘇芳さんも海に入るようになり、三人でゴムのボールを使いバレーボールをした。彼女の身体能力に翻弄されながら、時間は過ぎていった。
焼けた肌がヒリヒリとしている。思う存分に楽しめた一日だった。そう俺は思っていた。
「鬼塚」
隣のシャワールームから柊に呼ばれた。何処か疲れた様子だった。朝から遊んでいれば仕方の無いことだがな。
俺はどうした、と返事をした。
「今日は楽しかったか」
「当たり前だろ。来年も来れたらいいな」
俺がそう言うと、柊は少し間を開けてそうだな、と悲しそうに小さく呟いた。隣で何やらカチャカチャと音が聞こえはじめた。何の音だろうか?
「すまねぇな鬼塚」
何に謝っているのか分からなかった。しかし、その謝罪の意味はすぐに理解する事となった。
「俺のために犠牲になってくれ。許せとは言わないし、恨んでくれても構わねぇ」
「柊……お前」
後頭部に突き付けられる鉄の物体。それは脅しには充分すぎる代物だ。しかし、それよりも柊がそれを使い、俺に突き付けているという現実が全くもって信じられない。こいつはこんな事をするような奴じゃない。
「事情があるんだろう……海に来たのも、これの為か?」
「……そうだ」
そうか、初めからそのつもりだったのか。そうか、そうだったのか。馬鹿馬鹿しいな、一人ではしゃいでいた、だなんて。
最初から俺は騙されていたのか? 柊が声をかけてきたあの時から? それなのに俺は馬鹿正直に信頼していたのか? そんな事を思っていると変な笑いが出てしまった。
「だが楽しくなかった、なんて事はねぇ」
「いいんだ、柊。好きにしてくれ」
もうどうでもいい。言葉通りだ。好きにしてくれ。抵抗する気さえ起きない。
「……蘇芳、鬼塚の服を持ってこい」
柊はシャワールームの外に居るのだろう蘇芳さんに、声をかける。
最後に、姫先生の声が聞きたかった。二度と聞けなくなってしまうのだろう。そう思っていると、服の中に入っていた俺の携帯のコール音が鳴り響いた。
姫先生だけは音を変えていた為、それが彼女からの連絡だとすぐに気付いた。
「……鬼塚、何も言わないのなら、取ってもいいぞ」
「……頼む……」
彼女の声を耳に刻む事が出来るのなら、俺はそうしよう。服を着た俺はポケットから携帯を取り出して、耳に当てた。
「稔君! 今すぐ逃げなさい! 柊君は──」
「姫……先生」
通話はすぐに途切れた。彼女の方でも何かが起きたようだ。これは自己満足だが、俺は彼女の声を聞く事が出来て充分だ。
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