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追憶と嘘
嘘をつき続けた者とつかれ続けた者
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陰陽師が去って数日後、一人の妖怪が山本五郎左衛門の元に現れた。怪我をした妖狐だった。名を玉藻と名乗った。
長屋の前で血塗れで倒れている所を山本五郎左衛門に保護され、現在は山本五郎左衛門の長屋で暮らしていた。
陰陽師の妖怪狩りに巻き込まれたのだろう、と二人は玉藻に話を聞くことにした。しかし、当の本人は記憶を失っており、倒れるまでの記憶が無く、覚えているのは名前だけだった。
それならば、と山本五郎左衛門は玉藻を家に住まわす事にしたのだ。ここなら安全だ、と言って。
玉藻はみるみる元気になっていき、本来の力を取り戻すまでになった。九尾の狐としての力だった。
とある日、山本五郎左衛門は妻の恒河と共に下野国に向かっていた。玉藻の事を調べる為であった。その道中に突然、玉藻の姿が見えなくなった。二人は彼女の行方を探した。だが、見つからなくなり、仕方なく偶然近くにあった宿に宿泊することなった。
その宿の一室で、二人はこれからどうするかを話し合っていた。
「玉藻は一体どこに行ったのだろうか」
「……明日の正午まで探して、見つからなかったら一度帰りんしょう」
仕方ない、とその日は眠りについた二人だった。しかし、翌日になっても山本五郎左衛門が目を覚ます事はなかった。
翌日、目が覚めた恒河はいくら揺らしても起きない山本五郎左衛門を見つめていた。
「………………」
何が起きているのかは理解出来た。だが受け入れる事が出来なかった恒河は何度も山本五郎左衛門の体を揺らした。
「……………………」
夢に違いない、と山本五郎左衛門に寄り添い目を瞑る恒河だったが、少し寝てまた起きて、山本五郎左衛門を揺らしても何も変わる事はなかった。
何故じゃ、と言葉を繰り返しながら、山本五郎左衛門の体から覚えのある妖気を感じ取った恒河はそれが誰の者か、すぐに理解し、誰が山本五郎左衛門をこんな風にしたのかも、すぐにわかった。
「っ……玉藻ぉぉぉぉっっ!!」
がしゃどくろの姿になる恒河は宿を破壊した。しかし、その宿は文字通り消えた。幻術であった。
「あらあら、そんな怖い声を出してどうしたのかしら?」
恒河にとって不愉快極まりない声が聞こえた。賀茂 鏡花と、少し前まで一緒に行動していた玉藻の姿があった。
「何故じゃ……わっちの……答えよ! 玉藻!」
「妾は鏡花の式神じゃからのう」
「そういうこと」
恒河はその場で封印された。
そこで忠敬は目を覚ました。約一年ぶりの目覚めだった。頬には涙が幾つもの筋を作っていた。
今まで見ていた夢の中で忠敬は山本五郎左衛門の中に入っていた。
夢が、自身の忘れていた記憶なのか、はたまた出来の悪い悪夢なのか、それを理解するには時間が必要だった。
「……忠敬、お前」
夢を共有していた指輪は忠敬が目を覚ました事に気付くと声をかけた。放心状態の忠敬は返事も出来なかった。そこに扉を開けて入ってきたのは、たまと鏡花だった。夢で見た二人だった。
「やっと起きたんじゃな……」
「よかったわぁ。心配したのよぉ?」
今の忠敬にとって、二人の顔は見たくもないものだった。夢とはいえ自分を殺した本人だからだ。
「部屋から出ていってくれ……! 今すぐだ!!」
忠敬は柄にもなく声を荒らげた。
「な、なんじゃいきなり! こっちは心配したと言うのに……!」
「たまちゃん、忠敬はちょっと混乱しているのよ。今はそっとしておきましょう?」
落ち着いたら降りてきて、と鏡花は優しい笑みを浮かべてたまを連れて部屋から出ていった。
「……恒河、恒河はどこだ? 妻はどこだ?」
夢の中での記憶が混合してしまっている忠敬は現実で会ったことのない山本五郎左衛門の妻、恒河の名を呼び始めた。
指輪は忠敬を落ち着かせた。
「忠敬、待て、落ち着け。混乱しているのはわかる、だが今は落ち着け」
「……!」
忠敬ははっ、として頭を押さえた。そして夢での事が、事実なのかを確認するためにはどうするかを考えた。
「たまと母さんには相談出来ない……誰か、誰か昔を知っている奴はいないのか……」
指輪が助言をした。
「ふむ、奴はどうだ。神野悪五郎だ」
そうかあいつなら、と壁に立てかけていた大太刀を手に持ち別室にいる継美、エボシ、天音の三人に声をかけた。
すまないがたまと母さんには内緒で俺についてきてくれないか、と三人にお願いすると目を覚ましていたのか、と驚きながらも理由は聞かずに首を縦に降った。
四人は忠敬とエボシのバイクに乗り悪五郎の気を、継美とたまが感じ取った場所に向かった。するとそこには悪五郎の部下である雪女が待っていたかのように立っていた。
「……我が主の元へと皆様をお送り致します。付いてきてください」
四人は雪女の後ろについて行った。辿り着いたのは一つの廃ビルだった。その最上階まで階段で上がった。一つの部屋に入るとそこには中央に椅子を置き、顔に本を乗せて眠っていた。その横には傷だらけで部下に包帯を巻かれている鬼の頭領、イバラの姿があった。
「忠敬、久しぶりだな」
「お前、悪五郎についていたのか」
「まぁな」
二人の声を聞いて悪五郎が目を覚ました。本を取ると涎が顎に流れていた。雪に拭かれ、忠敬を見ると久しぶりだな、とイバラと同じような挨拶をした。
「俺に会いに来たって事は、真実を知ったか?」
「不愉快だがな」
「ははっ、鬼と天狗と鵺か。信じられるのはそいつらしかいねぇもんな……いいぜ。教えてやるよ」
妖怪三人と忠敬は黙って悪五郎の話に耳を傾けた。
「お前が知ったであろう真実は真実だ。全部な? 何処まで知っているかは知らんが、お前は山本五郎左衛門だ」
「……」
「てめぇ殺したのは九尾の狐と賀茂の陰陽師だ。奴らはてめぇを殺害した。その後、陰陽師の術で生きながらえ、子供を産んだ……皮肉だよなぁ、子供を産んだのはいいが、そのガキがてめぇらが殺した奴の生まれ変わりなんだからよ」
ははは、と悪五郎は楽しそうに笑った。そしてすぐに真面目な顔になった。
「……てめぇに合わせたい奴がいる」
悪五郎が来い、と奥に向けて大きな声で発するとガチガチと言う音が鳴り始めた。
夢の中で聞いた、愛しい音であった。
「……恒河……恒河!」
「五郎左衛門……主なのかや?」
天井ギリギリの姿で、巨大な骸骨が現れた。それからは女性の声が発せられた。
「そう、らしい……」
「ちゃんとわかりんす……」
恒河は三百年前と変わらぬ人間の姿になると忠敬に抱き着いた。忠敬も抱きしめた。他の三人の妖怪は苦笑した。
「正妻あれかな」
「まっ、仕方ねぇ。残念だったな天音」
「私は別に」
それでこれからどうする、と悪五郎は問いかけた。
「……恒河を連れて、あの家に帰ることは出来ない」
「……わっちは主となら何処へでも行きんす。それよりじゃ……」
忠敬の腕の中で、恒河はワナワナと震えた。そして、地面から溶岩が噴き出すように怒り始めた。
「この女妖怪共はなんじゃ!? 説明してくりゃれ! いつものたらしが発動でもしたでありんすか!?」
「いや、ほら、成り行きだ……」
「主らは何をされた?」
そう聞かれた三人は顔を見合わせてすぐに答えた。
「婚約した」
「口付けされました」
「うちは特に」
その答えを聞いて恒河は笑みを浮かべた。その笑みにはおよそ喜ばしい感情などはこもっておらず、殺意がその笑みを作っていた。
その顔は忠敬にとってあまり見たくない顔だった。
「いだだだだ!! いだいいだいいだい!!」
忠敬の骨がミシミシと鳴った。恒河が強く忠敬を締めたからだ。
それを始終見ていた悪五郎は穏やかな、また羨ましそうな笑みを浮かべていた。
「山本、てめぇらは隠れていた方が身のためだ」
「っふぅ……それはわかっている。だがしかし」
「九尾に賀茂の陰陽師、今のてめぇじゃ無理だ。てめぇが昔のような力を手に入れるまでは待ってやらぁ」
悪五郎はへへ、と楽しそうに笑った。そして突然、腰に差していたソードオフのショットガンを抜き取り構えた。
悪五郎が構えた先には神野悪五郎と山本五郎左衛門にとって忌まわしき存在だった。
賀茂 鏡花とその式神、忠敬がたまと呼ぶ妖狐、玉藻だった。
「忠敬、お主は騙されておるんじゃ、こっちに戻ってくるがよい」
たまは悲しそうに手を伸ばした。しかし、忠敬は耳を貸すことはしなかった。
「お母さん、悲しいわ。反抗期の無い子だと思っていたけれど……」
鏡花は笑みを浮かべていた。それを見た忠敬はぞくぞくと、背筋が凍てつくような感覚に囚われた。まるで蛇に睨まれたカエルのように、動く事もままならなかった。一筋の冷や汗を流した。
悪五郎は忠敬達の前に立った。
「山本、てめぇは強くなれ、これからてめぇは、陰陽師も天狗も鬼も、全部相手にしなきゃならねぇ」
にひひと歯を見せて笑う悪五郎は散弾銃を肩に乗せ、言葉を続けた。
「それまで俺は待っててやっからよ! さぁ行け! てめぇは自由だ! いくらでも強くなれ!!」
散弾銃を二発、天井に向けて発砲すると楽しそうに高笑いした。
忠敬は一度頭を下げるとすぐに五人で廃ビルを駆け下りていった。それを追いかけようとするたまであったが、イバラに止められた。
「負け鬼風情が、邪魔立てするでない」
「すまんな、それは無理な相談だ」
たまとイバラがぶつかり合うのを横目に悪五郎と鏡花は見つめあっていた。最初に言葉を発したのは悪五郎だった。
「てめぇをぶっ殺すのを首を長くしていたぜ嘘つき野郎」
「嘘なんてついていないわ」
鏡花は目を細め、否定した。
「あの子は私の子供よ。その中に山本五郎左衛門の魂が入っているだけ、私と、茂敬の息子よ」
「騙し続けたには違いねぇ。親に騙され、友に騙され……親を語るんだったらよ……中に何が入っていようと親を貫くんだな」
散弾銃に弾を込めながら悪五郎はタバコを取り出し、吸い始めた。煙を一吐きすると笑みが消えた。
「てめぇのガキを殺そうとしたその時から、てめぇは親じゃねぇ……犬畜生にも劣るクズ野郎だ」
その言葉に、鏡花の顔に浮かぶ笑みも同様に消えた。
「……これ以上、獣と話をするのはやめましょう。言葉も解さないわ」
「言ってくれるじゃねぇか!!」
鏡花と悪五郎が戦闘を開始した頃、無事廃ビルから出た忠敬達は一つのバイクに三人乗りをして、もう一つのバイクに二人乗りをしてアテもなく走っていた。
途中にコンビニを見つけると駐車スペースに停車させて忠敬は真っ先に玻璃に連絡を取った。
「野田か、忠敬だ。すまないが、もう会えないかもしれない。だから別れだけ言っておこうかと」
突然そんな事を言われた玻璃は驚いた。その証拠に小さく、えっ、と漏らした。
「い、いきなりなんで……?」
「すまない。理由は話せないが、もし戻ってきたらちゃんと説明はする」
「待って…………待って!」
初めて聞く玻璃の大きな声に先程の玻璃のように驚く忠敬は彼女の話に耳を傾けた。
「一年間も……賀茂君に会えなくて……玻璃は……寂しかった……! 玻璃は賀茂君に会いたい! もう独りは! 嫌なの……!」
野田、と玻璃の名前を呟く忠敬はわかった、と言った。そして今いる場所の住所を玻璃に伝えた。
「すぐに行く……!」
電話を切ると、周りの女性の視線が痛かった。特に恒河のは穴が開いてしまうのではないかと思うほどだった。
「……はぁ……昔から女好きでありんす」
「妻としては複雑ですね」
「まぁ、賀茂君やからな。仕方ないわ」
「自分の男がモテねぇのはそれで嫌だがな」
ははは、とガールズトークに花を咲かせる妖怪達を横目に忠敬は自身の腹部に手を触れた。そこに肉はなかった。
大天狗によって開けられた風穴は忠敬が眠っている間に指輪によって何ともない事になっていた。指輪との繋がりを深くすることによって忠敬は人間だが限りなく妖怪に似た人間になっていた。忠敬の考えている事や感情が指輪に流れていってしまうこともある。
少しすると玻璃がはっ、はっ、と息を切らしながら走って現れた。そして到着するやいなや忠敬に抱き着いた。
「賀茂君!」
「野田……」
まるで恋人のような雰囲気に恒河は二人を引き剥がした。
「やめなんし!」
「え、と……皆さんは……誰ですか……?」
「移動しながらでも説明しよう。とりあえず、今はバイクに乗ってくれ」
そして、人間である忠敬、玻璃、妖怪である恒河、天音、エボシ、継美は逃亡生活を送ることとなった。陰陽師とその式神であるたまや、天狗の一族から。
長屋の前で血塗れで倒れている所を山本五郎左衛門に保護され、現在は山本五郎左衛門の長屋で暮らしていた。
陰陽師の妖怪狩りに巻き込まれたのだろう、と二人は玉藻に話を聞くことにした。しかし、当の本人は記憶を失っており、倒れるまでの記憶が無く、覚えているのは名前だけだった。
それならば、と山本五郎左衛門は玉藻を家に住まわす事にしたのだ。ここなら安全だ、と言って。
玉藻はみるみる元気になっていき、本来の力を取り戻すまでになった。九尾の狐としての力だった。
とある日、山本五郎左衛門は妻の恒河と共に下野国に向かっていた。玉藻の事を調べる為であった。その道中に突然、玉藻の姿が見えなくなった。二人は彼女の行方を探した。だが、見つからなくなり、仕方なく偶然近くにあった宿に宿泊することなった。
その宿の一室で、二人はこれからどうするかを話し合っていた。
「玉藻は一体どこに行ったのだろうか」
「……明日の正午まで探して、見つからなかったら一度帰りんしょう」
仕方ない、とその日は眠りについた二人だった。しかし、翌日になっても山本五郎左衛門が目を覚ます事はなかった。
翌日、目が覚めた恒河はいくら揺らしても起きない山本五郎左衛門を見つめていた。
「………………」
何が起きているのかは理解出来た。だが受け入れる事が出来なかった恒河は何度も山本五郎左衛門の体を揺らした。
「……………………」
夢に違いない、と山本五郎左衛門に寄り添い目を瞑る恒河だったが、少し寝てまた起きて、山本五郎左衛門を揺らしても何も変わる事はなかった。
何故じゃ、と言葉を繰り返しながら、山本五郎左衛門の体から覚えのある妖気を感じ取った恒河はそれが誰の者か、すぐに理解し、誰が山本五郎左衛門をこんな風にしたのかも、すぐにわかった。
「っ……玉藻ぉぉぉぉっっ!!」
がしゃどくろの姿になる恒河は宿を破壊した。しかし、その宿は文字通り消えた。幻術であった。
「あらあら、そんな怖い声を出してどうしたのかしら?」
恒河にとって不愉快極まりない声が聞こえた。賀茂 鏡花と、少し前まで一緒に行動していた玉藻の姿があった。
「何故じゃ……わっちの……答えよ! 玉藻!」
「妾は鏡花の式神じゃからのう」
「そういうこと」
恒河はその場で封印された。
そこで忠敬は目を覚ました。約一年ぶりの目覚めだった。頬には涙が幾つもの筋を作っていた。
今まで見ていた夢の中で忠敬は山本五郎左衛門の中に入っていた。
夢が、自身の忘れていた記憶なのか、はたまた出来の悪い悪夢なのか、それを理解するには時間が必要だった。
「……忠敬、お前」
夢を共有していた指輪は忠敬が目を覚ました事に気付くと声をかけた。放心状態の忠敬は返事も出来なかった。そこに扉を開けて入ってきたのは、たまと鏡花だった。夢で見た二人だった。
「やっと起きたんじゃな……」
「よかったわぁ。心配したのよぉ?」
今の忠敬にとって、二人の顔は見たくもないものだった。夢とはいえ自分を殺した本人だからだ。
「部屋から出ていってくれ……! 今すぐだ!!」
忠敬は柄にもなく声を荒らげた。
「な、なんじゃいきなり! こっちは心配したと言うのに……!」
「たまちゃん、忠敬はちょっと混乱しているのよ。今はそっとしておきましょう?」
落ち着いたら降りてきて、と鏡花は優しい笑みを浮かべてたまを連れて部屋から出ていった。
「……恒河、恒河はどこだ? 妻はどこだ?」
夢の中での記憶が混合してしまっている忠敬は現実で会ったことのない山本五郎左衛門の妻、恒河の名を呼び始めた。
指輪は忠敬を落ち着かせた。
「忠敬、待て、落ち着け。混乱しているのはわかる、だが今は落ち着け」
「……!」
忠敬ははっ、として頭を押さえた。そして夢での事が、事実なのかを確認するためにはどうするかを考えた。
「たまと母さんには相談出来ない……誰か、誰か昔を知っている奴はいないのか……」
指輪が助言をした。
「ふむ、奴はどうだ。神野悪五郎だ」
そうかあいつなら、と壁に立てかけていた大太刀を手に持ち別室にいる継美、エボシ、天音の三人に声をかけた。
すまないがたまと母さんには内緒で俺についてきてくれないか、と三人にお願いすると目を覚ましていたのか、と驚きながらも理由は聞かずに首を縦に降った。
四人は忠敬とエボシのバイクに乗り悪五郎の気を、継美とたまが感じ取った場所に向かった。するとそこには悪五郎の部下である雪女が待っていたかのように立っていた。
「……我が主の元へと皆様をお送り致します。付いてきてください」
四人は雪女の後ろについて行った。辿り着いたのは一つの廃ビルだった。その最上階まで階段で上がった。一つの部屋に入るとそこには中央に椅子を置き、顔に本を乗せて眠っていた。その横には傷だらけで部下に包帯を巻かれている鬼の頭領、イバラの姿があった。
「忠敬、久しぶりだな」
「お前、悪五郎についていたのか」
「まぁな」
二人の声を聞いて悪五郎が目を覚ました。本を取ると涎が顎に流れていた。雪に拭かれ、忠敬を見ると久しぶりだな、とイバラと同じような挨拶をした。
「俺に会いに来たって事は、真実を知ったか?」
「不愉快だがな」
「ははっ、鬼と天狗と鵺か。信じられるのはそいつらしかいねぇもんな……いいぜ。教えてやるよ」
妖怪三人と忠敬は黙って悪五郎の話に耳を傾けた。
「お前が知ったであろう真実は真実だ。全部な? 何処まで知っているかは知らんが、お前は山本五郎左衛門だ」
「……」
「てめぇ殺したのは九尾の狐と賀茂の陰陽師だ。奴らはてめぇを殺害した。その後、陰陽師の術で生きながらえ、子供を産んだ……皮肉だよなぁ、子供を産んだのはいいが、そのガキがてめぇらが殺した奴の生まれ変わりなんだからよ」
ははは、と悪五郎は楽しそうに笑った。そしてすぐに真面目な顔になった。
「……てめぇに合わせたい奴がいる」
悪五郎が来い、と奥に向けて大きな声で発するとガチガチと言う音が鳴り始めた。
夢の中で聞いた、愛しい音であった。
「……恒河……恒河!」
「五郎左衛門……主なのかや?」
天井ギリギリの姿で、巨大な骸骨が現れた。それからは女性の声が発せられた。
「そう、らしい……」
「ちゃんとわかりんす……」
恒河は三百年前と変わらぬ人間の姿になると忠敬に抱き着いた。忠敬も抱きしめた。他の三人の妖怪は苦笑した。
「正妻あれかな」
「まっ、仕方ねぇ。残念だったな天音」
「私は別に」
それでこれからどうする、と悪五郎は問いかけた。
「……恒河を連れて、あの家に帰ることは出来ない」
「……わっちは主となら何処へでも行きんす。それよりじゃ……」
忠敬の腕の中で、恒河はワナワナと震えた。そして、地面から溶岩が噴き出すように怒り始めた。
「この女妖怪共はなんじゃ!? 説明してくりゃれ! いつものたらしが発動でもしたでありんすか!?」
「いや、ほら、成り行きだ……」
「主らは何をされた?」
そう聞かれた三人は顔を見合わせてすぐに答えた。
「婚約した」
「口付けされました」
「うちは特に」
その答えを聞いて恒河は笑みを浮かべた。その笑みにはおよそ喜ばしい感情などはこもっておらず、殺意がその笑みを作っていた。
その顔は忠敬にとってあまり見たくない顔だった。
「いだだだだ!! いだいいだいいだい!!」
忠敬の骨がミシミシと鳴った。恒河が強く忠敬を締めたからだ。
それを始終見ていた悪五郎は穏やかな、また羨ましそうな笑みを浮かべていた。
「山本、てめぇらは隠れていた方が身のためだ」
「っふぅ……それはわかっている。だがしかし」
「九尾に賀茂の陰陽師、今のてめぇじゃ無理だ。てめぇが昔のような力を手に入れるまでは待ってやらぁ」
悪五郎はへへ、と楽しそうに笑った。そして突然、腰に差していたソードオフのショットガンを抜き取り構えた。
悪五郎が構えた先には神野悪五郎と山本五郎左衛門にとって忌まわしき存在だった。
賀茂 鏡花とその式神、忠敬がたまと呼ぶ妖狐、玉藻だった。
「忠敬、お主は騙されておるんじゃ、こっちに戻ってくるがよい」
たまは悲しそうに手を伸ばした。しかし、忠敬は耳を貸すことはしなかった。
「お母さん、悲しいわ。反抗期の無い子だと思っていたけれど……」
鏡花は笑みを浮かべていた。それを見た忠敬はぞくぞくと、背筋が凍てつくような感覚に囚われた。まるで蛇に睨まれたカエルのように、動く事もままならなかった。一筋の冷や汗を流した。
悪五郎は忠敬達の前に立った。
「山本、てめぇは強くなれ、これからてめぇは、陰陽師も天狗も鬼も、全部相手にしなきゃならねぇ」
にひひと歯を見せて笑う悪五郎は散弾銃を肩に乗せ、言葉を続けた。
「それまで俺は待っててやっからよ! さぁ行け! てめぇは自由だ! いくらでも強くなれ!!」
散弾銃を二発、天井に向けて発砲すると楽しそうに高笑いした。
忠敬は一度頭を下げるとすぐに五人で廃ビルを駆け下りていった。それを追いかけようとするたまであったが、イバラに止められた。
「負け鬼風情が、邪魔立てするでない」
「すまんな、それは無理な相談だ」
たまとイバラがぶつかり合うのを横目に悪五郎と鏡花は見つめあっていた。最初に言葉を発したのは悪五郎だった。
「てめぇをぶっ殺すのを首を長くしていたぜ嘘つき野郎」
「嘘なんてついていないわ」
鏡花は目を細め、否定した。
「あの子は私の子供よ。その中に山本五郎左衛門の魂が入っているだけ、私と、茂敬の息子よ」
「騙し続けたには違いねぇ。親に騙され、友に騙され……親を語るんだったらよ……中に何が入っていようと親を貫くんだな」
散弾銃に弾を込めながら悪五郎はタバコを取り出し、吸い始めた。煙を一吐きすると笑みが消えた。
「てめぇのガキを殺そうとしたその時から、てめぇは親じゃねぇ……犬畜生にも劣るクズ野郎だ」
その言葉に、鏡花の顔に浮かぶ笑みも同様に消えた。
「……これ以上、獣と話をするのはやめましょう。言葉も解さないわ」
「言ってくれるじゃねぇか!!」
鏡花と悪五郎が戦闘を開始した頃、無事廃ビルから出た忠敬達は一つのバイクに三人乗りをして、もう一つのバイクに二人乗りをしてアテもなく走っていた。
途中にコンビニを見つけると駐車スペースに停車させて忠敬は真っ先に玻璃に連絡を取った。
「野田か、忠敬だ。すまないが、もう会えないかもしれない。だから別れだけ言っておこうかと」
突然そんな事を言われた玻璃は驚いた。その証拠に小さく、えっ、と漏らした。
「い、いきなりなんで……?」
「すまない。理由は話せないが、もし戻ってきたらちゃんと説明はする」
「待って…………待って!」
初めて聞く玻璃の大きな声に先程の玻璃のように驚く忠敬は彼女の話に耳を傾けた。
「一年間も……賀茂君に会えなくて……玻璃は……寂しかった……! 玻璃は賀茂君に会いたい! もう独りは! 嫌なの……!」
野田、と玻璃の名前を呟く忠敬はわかった、と言った。そして今いる場所の住所を玻璃に伝えた。
「すぐに行く……!」
電話を切ると、周りの女性の視線が痛かった。特に恒河のは穴が開いてしまうのではないかと思うほどだった。
「……はぁ……昔から女好きでありんす」
「妻としては複雑ですね」
「まぁ、賀茂君やからな。仕方ないわ」
「自分の男がモテねぇのはそれで嫌だがな」
ははは、とガールズトークに花を咲かせる妖怪達を横目に忠敬は自身の腹部に手を触れた。そこに肉はなかった。
大天狗によって開けられた風穴は忠敬が眠っている間に指輪によって何ともない事になっていた。指輪との繋がりを深くすることによって忠敬は人間だが限りなく妖怪に似た人間になっていた。忠敬の考えている事や感情が指輪に流れていってしまうこともある。
少しすると玻璃がはっ、はっ、と息を切らしながら走って現れた。そして到着するやいなや忠敬に抱き着いた。
「賀茂君!」
「野田……」
まるで恋人のような雰囲気に恒河は二人を引き剥がした。
「やめなんし!」
「え、と……皆さんは……誰ですか……?」
「移動しながらでも説明しよう。とりあえず、今はバイクに乗ってくれ」
そして、人間である忠敬、玻璃、妖怪である恒河、天音、エボシ、継美は逃亡生活を送ることとなった。陰陽師とその式神であるたまや、天狗の一族から。
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そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
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