妖怪セプテット

うー

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逃亡

付喪の怪王

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 逃亡生活を始めた忠敬達はまず拠点となる場所を探していた。このままでは数でも力でも劣るため、戦力を集めなければならなかった。しかし、都合良くそんな所があるわけもなく、六人は移動を続けていた。
 その間、敵対する天狗の襲撃、賀茂家傘下の陰陽師の襲撃などの問題はあったが、六人は何とか切り抜けた。疲労の溜まる生活だったが、忠敬と玻璃は我慢強かった。

 逃亡生活を始めてから二週間ほど経ったある日、六人はセルフのガソリンスタンドで給油していた。
 玻璃は自身の体に異変が起きている事に気付いた。違和感があるものの体調不良と言った病気の類ではなかった。

「なんだろう……この感じ」

 顔を隠す前髪の下で、玻璃は不安げな表情を浮かべていた。忠敬に迷惑をかけるわけにはいかない、とそれを打ち明ける事はなかった。自分のワガママで忠敬について行っているのだ。言えるはずがなかった。しかし、元より嫉妬深い玻璃は他の女性と楽しく話すのが何よりも苦痛だった。


「賀茂君……」

「ん、どうしたんだ。野田」

 そんな折、とある山麓にて山を超える準備をしていた。営業しているのかわからないガソリンスタンドで給油していた忠敬を連れ出した。

「……あのね……賀茂君が恒河さんやエボシさんと喋ってるとね、なんだか、胸の辺りがチクチク、する……の」

 忠敬はそれを聞きあぁ、と、どういう事なのか理解して、どうすればいいかを考えた。勿論、下手な事を言うと大変な事になるのは重々承知の忠敬は安易な言葉を出せずにいた。

「……賀茂君……」

「……そう、だなぁ……お前の気持ちは分からなくもないが、こればかりはどうしようもない。もう少し安定するまで、我慢してくれ」

 あ、うん、と明らかに顔を伏せた玻璃はもう一つ何かを思い出したのか、顔を上げた。

「……それと、ね……玻璃……力になりたいな……皆に守ってばかりだから……」

「それはなぁ……俺も今は守ってもらってばかりだからな……」

 忠敬は壁にどん、ともたれながら肩を竦めた。そこに給油を終えたエボシが手についたガソリンを拭きながら歩いてきた。
 二人で何してんだ、と首を傾げて問いかけた。

「あの……えと……」

 言葉を詰まらせる玻璃に代わり、忠敬が説明した。皆の力になりたい、ということについて。

「まぁ、中々難しいわな。嬢ちゃんは本当に普通の人間だしな、忠敬も人間だが、中身がほぼ人間じゃねぇからよ」

「で、でも……玻璃……賀茂君に……わがままを言って来たのに……」

「出来ねぇこともねぇが……」

 エボシは言葉を渋らせた。玻璃はエボシにグイグイ迫っていった。
 わかったわかった、と苦笑するエボシは力になる方法を教えた。

「妖怪の一部を身につければいいんだよ」

「あぁ、指輪と一緒か」

 きらりと光る指輪を見せた。今は寝ている途中だ。

「そっ、けど、人間が妖怪の力を使うってのは相当な負担がかかるから、嬢ちゃんみてぇに慣れてないのには勧めたくはないんだが、やる気なのに断んのも申し訳ねぇからなぁ、天音! ちょっと来てくれ!」

 バイクの所で待っていた天音を呼ぶと、天音は物陰から顔を出した。

「何か?」

「お前の羽根、少し抜かせてくれ」

「いいですけど、私天狗の中では弱いですよ」

「いいんだよ」

 天音はしまい込んでいた翼をばたつかせながら出した。
 天狗の羽には痛覚があり、一本一本抜かれている天音は抜かれてるたびにピク、と体を震わせた。多めに抜いた羽根は束になっていた。

「これを、こうして……」

 エボシが作ったのは手のひらサイズの羽団扇だった。

「妖怪によって力は変わってくる、あたしなら怪力、天音なら風、継美なら雷、恒河は、なんだろ」

「わっちの場合死霊でありんすよ。西洋ではネクロマンサーやらなんやらと言うらしいが」

 恒河が骨の腕を見せながら継美と共に歩いてきた。

「わっちは遊女の骸の集合体でありんすから」

「がしゃどくろの姿も一番迫力があるから、やもんなぁ」

 妖怪の力と一言で言ってもそこには色々なものがあった。エボシが説明したように、その妖怪の特徴を反映したものとなる。
 鬼なら強靭なる力、天狗なら天空を駆ける翼と鋭利な風を、鵺なら猛き雷を、がしゃどくろなら怨念篭る悪霊達。

「……うちらは賀茂君を守りたいって思うあんたの思いを尊重するけどな、一番は人間である脆い自分の体を大事にしいや」

 継美は玻璃の頭を撫でた。

「はい……!」

「それじゃぁ、とりあえずあたしらに力を使ってみな、それを振るだけでいい」

 玻璃は他の者と少し距離をとった。そして小さな羽団扇を強く扇いだ。するとエボシ達に向かって風が拭いた。鋭い風だった。

「なるほど……その大きさでそれかや」

 頬や首元に擦り傷が出来ていた。しかし、恒河だけはかなり深かった。右腕の肘から先が地面に落ちていた。

「! ご、ごめんなさい……!!」

 構わぬ、と言いながら恒河は落ちた腕をまるで人形の腕を付けるようにしてくっ付けた。

「はは、ええやんええやん。頼もしい限りや!」

「っ……なんだか、体が重たい……」

「それが負担だ。あんま使いすぎると、血反吐とか吐くぜ?」

 ケラケラと笑いながらエボシは力の反動でその場に蹲った玻璃を抱き上げた。そして歯の見える元気の良い心地よい笑顔で、

「あとは慣れだ。あたし達がいくらでも付き合ってやっから」

 そう言った。玻璃も髪の毛の下で嬉しそうに笑った。それを忠敬は穏やかな表情で見ていた。
 先程の力で目が覚めた指輪は忠敬に声をかけた。

「中々見どころのある娘だ」

「あぁ」

「才能がありそうだな? お前も嫉妬するなよ?」

「しないさ。俺より力がある、それだけだ。俺には出来ないことも出来るだろう」

「お前に出来る事はなんだ?」

 その問いに忠敬はただ笑みを浮かべるだけで言葉を発することはしなかった。その笑みが語る意味を理解出来るのは忠敬と意識や感情を共有している指輪だけだった。

 玻璃の体を休めるという名目で、ガソリンスタンドにて休憩していた忠敬達の元にとある妖怪が現れた。

「このような場所で妖怪に会うとは、珍しい事もあるものですね」

 褐色の肌を持つ黒のタキシードを着用し、ボーラーハットを被った杖を持つ男性だった。還暦の老紳士だった。

「妖怪でありんす。まぁ、敵ではありんせん」

 恒河は身構える忠敬達を手で制止しながらその老紳士に近付いていった。

「はじめまして、私、塵塚怪王ちりづかかいおうと申します」

「塵塚怪王……付喪神かえ」

「いかにも、私は付喪神の王。そちらの御仁、色々と物の怪の間では有名ですよ」

 塵塚怪王は忠敬をふふ、と笑った。しかし敵対する意思はないことを示した。そして近くに自分達の村があるのを伝えるとその場を去っていった。
 六人はどうするかを相談した。罠であることを考慮しつつその村へと向かう事にした。幸いな事にガソリンスタンドから付喪神の村は近く三十分ほどバイクで走った所にあった。
 そこには確かに村があった。木造の家屋が並んでおり奥に一際大きな家屋が建っていた。人間の気配は一切なかった。
 村の入口に二台のバイクを停車させ、村の中を歩き始めた六人は地面に落ちている陶器や道具に目をやった。

「付喪神の村ねぇ……なんや、ほんまにそこらじゅうにおるんやな」

 突然、地面に落ちているモノが動き出し、一つの陶器の元に集まり始めるとそれらが合体し、人の形をとった。手には大きな槍を持っていた。

「某の名は瀬戸大将! ここは付喪神の村! 部外者は出ていってもらおうか!」

 槍を頭上で回しながら六人に近付く瀬戸大将だったが、大きな体では素早い動きが出来ずゆっくりだった。

「継美! 任したぞ!」

「はいはい!」

 継美の雷撃が瀬戸大将を襲うとその一撃でバラバラに崩れてしまった。しかし、すぐに集まり始める元の形に戻ってしまった。

「うわめんどくさ! なんやねんあいつ!」

「あたしに任せな。こうみえてあたしは細かい事が得意なんだ」

 なにをするつもりだ、と苦笑混じりの忠敬の問いに、言葉では答えず行動で答えた。その答えとは、瀬戸大将を殴り、一度バラバラにして、散らばったモノを一つずつ割っていくというシュールなものだった。

「き、貴様ァ! そこは某の腕だぞ!」

 頭部の部分にあった大きな急須が瀬戸大将の本体だった。それが近くに飛んできた玻璃は、踏んだ。
 そこでちょうど現れたのは先程の老紳士、塵塚怪王だった。

「申し訳ない。瀬戸に伝えるのを忘れていました」

「おいおい、もう少しで消滅させちまうところだったぜ」

 塵塚怪王に案内され、奥の大きな家屋に連れられた一行はその家の中を見て驚いた。

「付喪神だらけだな」

 そこには意志を持った物が動き回っていた。古い鏡や壺に小さな手足が生えていた。
 忠敬らの姿を見た付喪神は物陰に隠れた。

「申し訳ございません。彼らのほとんどが長く使用されたものの、最後には捨てられた付喪神なのです」

 塵塚怪王は目を伏せた。
 古くから長く使用された道具には命が宿るという俗説があり、付喪神の被害から逃れるために煤払いと称し立春前に捨てていた。それによって行き場をなくし、恨みを募らせていた付喪神を集めたのがこの塵塚怪王が作った村だった。
 
「……次から次へと買い替え、古くなったものは捨てる、人間は贅沢だ」

 そこに瀬戸大将が姿を戻して出てきた。彼も元々は瀬戸物であった。
 忠敬は何故だか申し訳ない気持ちになった。自分が捨てたのではないが同じ人間がしたことなのだ。

「今日はお疲れでしょう。明日にでも話をしましょう」

 塵塚怪王は笑みを浮かべて一人の付喪神を呼んだ。鈴の綺麗な音を鳴らしながら一人の着物を着た女が出てきた。

「彼女の名前は鈴、この村にいる間、彼女に世話をさせます」

「神楽鈴の付喪神、鈴と申します」

 鈴を見た恒河はまた女じゃ、と忠敬の頭を叩いた。
 鈴に案内され、塵塚怪王の住む大きな家屋から少し離れた客人用なのか綺麗な家屋に連れてこられた。
 食事をとった後、一行は各々の休憩をしていた。エボシと継美はお酒を飲み、天音は玻璃と天狗の技の訓練に付き合っていた。

「……ふぅ」

 食事を食べた事と、旅の疲れもあり忠敬は壁にもたれながらウトウトと船を漕いでいた。そんな忠敬の隣に恒河が座った。

「寝るならもう敷くかえ?」

「いや、もう少し……起きている」

「…………そうでありんすか」

 起きていると言った忠敬だったが目は閉じられていた。まだあどけなさが残る寝顔は彼がまだ子供だという事実を示していた。

「……ふふ」

 恒河は忠敬の肩に頭を乗せて寄り添うようにしながら目を瞑り、忠敬と同じように静かに寝息を立て始めた。


「……さて皆様、少々よろしいでしょうか」

 二人が寝た事を確認した天音は立ち上がった。

「? 天音さん?」

「我々は天狗や神野悪五郎、そして陰陽師に狙われています。時間の問題だと思われます」

「……そうだが、今は逃げることしか出来ねぇだろう」

 酒に酔い頬を赤らめたエボシが一升瓶を片手にそう言った。
 それはわかっています、と頷きながら天音は続けた。

「忠敬様を妖怪の王へと、百鬼夜行の先頭はと、立たせるのです」

「……忠敬はまだ子供だぜ? ちょいと荷が重いんじゃねぇのか?」

「それは重々承知しています。だからこそ、今のうちにそうなれるように道を作るんです」

 その意見にエボシは否定的だった。だが仲間を集めるという点は賛成した。

「……それは賀茂君が決めることやろ、うちらが、この子の先を決めるもんやないで、うちらは人生の先輩や、先輩は先輩らしく後輩の気持ちも尊重したらなあかんのとちゃうか?」

 それは、と少し言葉を詰まらせる天音だった。そこに恒河が目を開けて静かに言葉を挟んだ。

「何にせよ、こやつが静かに、穏やかに眠る事が出来るまで守る事が第一じゃと、わっちは思いんす」

「…………私もその通りだとは思いますが、それにはやはり私達の力だけでは足りないかと思います。恒河様やエボシ様、継美様や玻璃様の力を過小評価しているわけではありません」

「……賀茂君、次第だと……私は思います」

 その日はその話をやめて眠る事にした。
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