魔法学園エルラード Wizard of Copy

田山凪

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打倒アクア! 二人で狙う勝利 1

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 まだカラミラと会って多くの時間を過ごしたわけじゃないけど、そんな僕でもわかるくらいには気分が落ち込んでいる。
 
「話って何? わざわざ生徒会長まで使って」
「カラミラがアクアに負けて気分が落ち込んでいるのはわかっている」
「なら、わざわざ呼び出さないで。迷惑よ」

 そうだろうな。
 本当ならもっと気分が戻ってからのほうがいいに決まってる。
 だけど、待った結果どうなるかわからない。
 気分の沈み込みは周りのサポートがあることで回復に向かうこともある。
 一人で回復させるのは容易じゃない。
 一見回復したように見えてもから元気で振舞っているなんてこともある。それを見抜けなければ最悪の事態にもつながる。
 まずは、カラミラの状態を自分の目で見て確かめたかった。もし、この言葉を聞いても反応がないようなら今は無理だろう。

「アクアに勝ってみないか? 二人で」
「……」
「僕はギルマに勝てた。でも、アクアは二つ名を持つ魔法使い。アクアはギルマに勝てると躊躇なく言えるほど強い。僕だってギルマが合理的に勝利を狙っていたら勝てなかった」
 
 カラミラはこっちを見なかったが話を聞いてくれているような気がした。

「僕は、魔力コアに異常があって、それはなんでかはわからないけど、結果的にそれがここへ来る理由の一つになった。推薦状を無下にできなかったからここへ来たんだ」
「あなた、あなたの意思でここへ来たのではないの? そんな理由でここにいるの?」
「うん」
「見損なったわ! あなたも努力の人だと思っていたのに!」

 当然のことだ。
 ここは金持ちや才能のある生徒が多い。
 努力をしている人も多いけど、元々才能がある人とそうでない人ではスタートラインがそもそも違うんだ。
 自分がやっと到達したと思ったスタートラインは、すでに才能ある人にとって通り過ぎた場所。その間を埋めるのは難しい。
 
「でも、僕も努力をすることに意味を見つけることができた」
「なによ、いまさら。そんな不純な動機で!」
「魔力コアの異常で、魔力のコントロールが出来なくて、魔法を使おうとすれば爆発する。それは周りにだって被害をあたえてしまいかねない。でも、僕はギルマにただ負けたくなくて、自分でも気づかないうちにギルマに爆発の衝撃を与えたんだ」
「それがなんなの?」
「もしあの時、僕が負けることを素直に選んでいたら、こうはなっていなかった。僕の魔力の異常に興味をもったアーキュさんが治してくれたんだ」
「まって、魔力コアの異常を治すには苦痛が伴うはずよ。死にたくなるほどの」

 僕はそのことを知らなかった。
 たぶん、魔法使いを目指す人ならそれなりに知っているのかもしれない。
 
「とても痛かった。もう死んでしまいたいって。もう魔法なんて使えなくてもいいって」
「なのにどうして?」
「悔しかったからさ。偶然とはいえ人を助けて、推薦状をもらって、ここまで来た。なのにすぐに倒されてさ。ようやく、僕の時間が動き始めたのに、ここでやめたら一生後悔する。だから、無茶でもいいからギルマと戦いたかった」
「勝てる見込みはあったの?」
「なかった。アクアが手伝ってくれたとは言っても、結局はスタートラインに立っただけ。しかもみんなより遥か後ろ。でも、自分で選択して行動をするようになってから、いろんなものが見えるようになったんだ」
「その瞳で何をみるの?」
「相手の動きだよ」

 カラミラは僕の話をしっかり聞き、ようやく目を見てくれた。

「アクアはね、昼間に食べていた料理が大好きなんだ」
「聞いてたわ。仲良さそうにしてさ」
「僕が料理に手を伸ばした時、あとほんの少しで触れられそうになったんだ。でも、咄嗟に皿をとって遠くへ」
「……どういうこと?」
「だったら最初からそうすればよかった。取られないように僕の手を叩けばよかった。カラミラの光弾を気づけるほどの察知能力があるんだよ。なんでそんなギリギリまで気づかなかったのか」
「……アクアに隙が出来たってこと?」
「誰が食事の場で襲われると思う? 誰が自分の部屋で襲われると思う? それを警戒できるのは兵士みたいな命をかけている人くらい。どこまでいったって僕ら一年は子ども。だったら、安心できる瞬間、自分が一番楽しみにしている瞬間は隙だらけなんだ」

 カラミラの瞳に光が戻ったように、輝きを強くして僕の方を見ていた。

「あなた、本当に見る目が優れているのね。さっきは酷いことをいってごめんなさい」
「そんなこといいんだ。僕だってアクアに勝てるなら勝ちたい。でも、僕らは正面から行ったって無駄で、相手が警戒してるなら策を弄しても難しい。だったら!」
「相手が一番油断している時に全力で! ということね」
「アクアの好物を奪う。これが僕らの勝利だ!」

 僕も、きっとカラミラも、やろうとしていることのバカバカしさは理解している。
 だからこそ好物を奪うと決めた瞬間僕らは笑いあった。
 バカバカしさと、今までで一番勝利に近づいたことを知ったから。
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