恋を求めて

日陰

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本編

⒊ 生徒会選挙

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「よーし、お前ら、1回しか言わねぇから、耳の穴かっぽじってよく聞けよ。」

そう、黒板の前で気だるげに椅子に座る一年A組担任、御子柴 和成が言い放った。
現在は五月中旬。椎名は新しい学校や寮生活、そして無事に入部出来たバスケ部にも徐々に慣れ始めていた。

「実はなぁ、生徒会の椅子が二席空いてんだよ。まぁ、そんで選挙する事になったんだけどよ、立候補者が二年からも一年からも一人も出ねぇもんだから、クラスで一人代表決めてそんで選挙するんだってよ。と、まぁそんなわけだから立候補したい奴は手ぇ挙げろー」

御子柴の言葉にシーンとするクラス一同。まぁ、当たり前だろう。生徒会なんてかっこいい名前がついているが、やっている事は雑用みたいなものだ。そんなめんどくさい事好き好んでやる人は少ない。

「決まるまで帰さねぇからなー」

その御子柴の言葉に生徒達は目の色を変えて、「お前、立候補しろよ。きっと向いてるぜ。」や、「いやいや、お前の方が出来るって。」と面倒事の押し付け合いが始まった。

「あ、推薦でもいいぞー」

またもや御子柴が発言をすると、舞が突然後ろを向き、椎名に小声で、

「シーナごめん!今日は絶対に見たいドラマがあるの!!この埋め合わせは必ずするから!!ほんっとごめん!」

と一方的に言い放ってきた。椎名は、何故舞に謝られているのか理解出来ず、ついポカーンとしてしまった。だが、次の瞬間、舞が何故椎名に謝ってきたのかを理解する事になった。

「せんせー!私、黒川 椎名さんがいいと思いまーす!!」

舞は、椎名の方を向いていたのを一転し、前を向き、勢いよく立ち上がり、そんなふざけた事を言い放ったのだ。
またもや、椎名は舞が何を言ったか一瞬理解出来ず、ポカーンとしてしまった。
だが、すぐに舞が何故謝ってきたのかを理解したのだ。
そう、舞は自分が早く帰りたいがために、友達を売ったのだ。
椎名は思った、なんでこんなやつと友達やってんだろ…と。

「俺もさんせー!黒川さんでいいと思う!!」

舞に続き、一人の男子生徒が立ち上がり、賛成の有無を宣言していた。その男子生徒はチャラ男のお手本。八重樫 海斗、その人である。
八重樫は数ヶ月でクラスの中心人物となったコミュ力チャラ男。そんな奴が誰かを推薦すればほとんどのクラスメイトが賛成するだろう。
案の定、八重樫の近くに座っていた男子生徒が「俺も!」と言い出し、またその近くの生徒が……と言うふうに、連鎖的に広がって行った。

「いや、ちょっとまっ___」

「ほい、じゃうちのクラスの代表は黒川で決まりなー」

椎名の意見を丸無視で進められ、勝手に立候補者にされた。椎名は、反対してもきっと聞き入れてくれないな、と結論づけ、諦めた。反対すること自体が面倒臭いし、そもそも、立候補者になっただけなのだから、落選すればいいと楽観的に考える事にした。

「あ、そういえば後もう一個あんだよ。」

椎名が反対する事を諦めたところで、御子柴がさも今思い出したかのように振る舞いながら、もう一つの要件を告げる。

「いやー、俺とした事がクラスの委員長を決めんのを忘れてたわ。あ、これも立候補でも推薦でもどっちでもいいぞー、あと、男女一人づつの合計2人な。」

その言葉を聞いた椎名は少し舞に仕返しをしてやろうと少しいい事を思いついた。椎名は早速舞の肩をポンポンと二回軽めに叩き、こちらを向かせ、小声で話しかけた。

「舞、ごめんね。でも、きっとお互い様だと思う。」

「え?」

それを言われた舞は何を言われているのか理解出来ず、先程の椎名のようにポカーンとしてしまった。だが、すぐに椎名のやろうとしている事を理解した。まぁ、もう手遅れだったのだが。
椎名は舞がポカーンとしている間に勢いよく立ち上がり、御子柴に言い放った。

「先生。長谷川 舞と八重樫海斗さんを推薦、します。」

「シーナァアアア!!?」

「え、ちょ、椎名ちゃん!?」

それを聞いた舞は椎名の名前を叫び、八重樫の方も驚いていた。これは囁かな椎名の仕返しである。
というか、いつから八重樫は椎名の事をちゃん付けで呼ぶようになったのか……。

「ちょっと、私はやり___」

「はいはい、じゃクラス委員長は長谷川と八重樫で決まりなー」

御子柴はそう言うと、さっさと教室を出て行ってしまった。

「ちょっとぉ、しーなぁー……」

「ほら、お相子でしょ?」

「そーだけどさぁー」

御子柴が出ていくやいなや、案の定舞が椎名に絡みながらにブー垂れていた。

「ほんとだよー椎名ちゃん。なんで俺を推薦しちゃうかなー。もしかして俺に向いてるから推薦してくれたのかな?!」

いつの間にこちらに来ていたのか、椎名と舞の横にはコミュ力チャラ男、八重樫 海斗が立っていた。

「別に。そんな事まったく思ってない。」

「えぇ、即答……。じゃあさ、じゃあさ、椎名ちゃんのタイプってどんな人!?」

何がどうなって、じゃあなのかまったく分からないが勝手に推薦してしまった事もあるので一応答えてやる事にした。

「落ち着いてて、静かな人。あと、チャラ男は断固拒否。」

これは遠回しにお前は好きじゃないのだと言っているのだが、八重樫は気づいているのか、はたまた全く気づいていないのか、さらに質問をしてくる。
舞はそんな八重樫を見て、「こいついい根性してんじゃん!!」とか言いながら感動していた。椎名は、アホの考える事など分かりたくもないのでそれについて考えるのはやめた。

「じゃあ、彼氏いる?」

「いない。」

八重樫は椎名のその返答を聞いて、顔をパァと輝かせ何処かに去って行った。

「あの人、いいメンタルしてんね!椎名に嫌いって言われたのに!!」

「そうだね。」

何故、舞が興奮しているのかは知らないがやたらとテンションが高かった。いや、まぁ、テンションが高いのはいつも通りなのだが。

「なんでテンション高いの?」

「いや、考えたら、イケメンと一緒に委員長になれて私ってば、ラッキー」

「なるほど……」

 ……………

…………

………

生徒会役員選挙当日。全校生徒を体育館に集め、その中で立候補者一人一人が演説をする。そして、その後に投票時間が設けられ、数日後に結果が分かる仕組みらしい。
体育館に設置されたステージの壇上の上では誰もがやる気のない態度で適当に演説をしていた。全員、生徒会役員になりたくないのがありありと伝わってくる。
勿論、椎名も生徒会役員もとい雑用係には絶対になりたくない。

そして、いよいよ椎名が演説をする番だ。司会進行役の先輩に自分の名前を呼ばれ、椎名は座っていた椅子から立ち上がり、ゆっくりと壇上のそばまで歩いいて行った。

「一年A組、黒川 椎名、です。私には生徒会と言う大役はむいていません。どうか皆さん、私には投票しないでください。きっと私より適任がいます。以上です。」

椎名の演説時間、約二十秒。椎名は言いたい事だけ言い残すと、すぐにお辞儀をし、元の場所に戻って行った。
残されたステージ前の生徒達はほとんどがポカーンとしてしまっている。いや、一人、口を両手で押さえながら、笑いを堪えている女子生徒が一名………。
椎名以外の生徒会役員候補達は嫌々ながらも、一分~二分は演説をしている。そして、内容も「よろしくお願いします。」的なものだった。だが、椎名は演説時間は短いし、ましてや自分に投票するなと言う。そりゃあ、ポカーンとしても、仕方ないと言えるだろう。

それから数秒、焦った司会進行役の指示により、次の人の演説が始まった。

……………

…………

………

生徒会役員選挙の為の演説は無事に終わり、候補者以外の生徒には投票時間が設けられ、それも終わり、現在の時刻は四時半。
椎名と舞は放課後の教室で雑談をしていた。

「シーナの演説面白すぎっ!!私、笑いこらえるのに必死だったんだけど~」

「?、何も面白い事は言ってないよ?」

「いやいや、皆ポカーンってしてたじゃん。なに、『私に投票しないでください』って。しかもめちゃくちゃ短いし。」

「喋るの面倒臭いし。」

「あー…まぁ、そうだね。シーナ頑張ってたよね~いつも以上に喋ってたし、敬語使ってたし。」

「うん、頑張った。これで生徒会役員は回避。」

「え!!」

「え?」

舞は椎名との会話中に、しまった!と言う顔をした。椎名は何かあったのか、気になり舞を問い詰める。

「なに?何かあったの?」

「あ、いや、まぁ、うん、………」

「はっきり言ってよ。」

椎名は何度か問い詰めるが、舞はその度に言葉を濁し、はっきりと答えようとしなかった。
椎名はそんな舞に痺れを切らし、少し、強めの口調ではっきり言うように促した。

「んー……多分さぁ、シーナは生徒会役員になっちゃうと思うよ?」

舞はしょうがないなぁ、と前振りをしながら、椎名の様子を伺うように語りだした。
椎名は舞の言った事に心の底から驚き、疑問の声を上げた。

「はぁ?なんで?」

「いやさ、実際ね、私達一般の生徒って、誰が生徒会になろうがならまいが、まったく、これっぽっちも気にならないわけよ?てか、心底どうでもいい。」

「まぁ、そうだね。」

椎名は舞の説明に相槌をしながら、その内容に同意していた。
確かに舞の言う通り、椎名だって誰が生徒会に入ってもどうでも良かった。だって、そんなの誰がやったって大して変わらない、同じような結果しか残らないのだから。

「そんで、そんな私達一般生徒の投票基準は、見た目がいい人とか、印象に残った人とかになるわけよ。」

「それで?」

「私が何を言いたいかって言うとね、シーナは見た目いいし、めちゃくちゃ印象に残ったから、きっと投票されてるよ、って事。どんまい。」

舞はそう言いながら、慰めるよに肩に手を置き、ポンポン、と叩いてきた。椎名はその仕草に、少しイラッときてしまったのでつい、舞の腕を叩き落としてしまった。

「……いたっ!ほらぁ、だから言いたくなかったんだよー私にとばっちりが来るから!」

「あ、ごめん。つい、イラッときて。」

「そーでございますかぁー……」

椎名は机の上で頬を膨らましながらブー垂れている舞を他所に、顎に手を添えながら考え事をしていた。
舞の言った事を信じるなら、何故自分は生徒の印象に残ってしまったのか。舞は椎名の見た目がいいと言っていた。それは椎名も認めている。それを自慢する気はないが、他人よりは整った顔立ちをしていると思っていた。
ならば、見た目のせいで印象に残ったのだろうか?だって自分は演説でおかしな事は言っていない。椎名はそう考え、生徒の印象に残ったのは見た目のせいだと結論づけた。

「…………ねぇねぇ、シーナさん、私さ、シーナが何考えてるかなんとなく分かるんだけどさ、多分ちょっとだけ違うと思うよ。」

「私の考えがわかるなんて………貴様、さては能力者だなっ」

「ふははは!!やっと気づいか、この愚か者め………!って、そうじゃなーいっ!!」
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