恋を求めて

日陰

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本編

⒋ 生徒会

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『みんな、聞いてくれ!新しい生徒会役員が決まった!!』

それは暖かな春の日差しが眩しい昼休みのこと。椎名と舞が学食で食事をしていたら、いきなり校内に設置されたスピーカーからそんな声が聞こえてきた。
スピーカーから流れた音は向こうの声が大きすぎたのか、音割れをしてしまっている。
そのため校内には、『キーンッ!』と言う音が響き渡り、周りの生徒達は耳を押さえたり、「うるさぁー」など文句を言っている者がほんとんどだ。
勿論、椎名と舞も例外では無い。

「うっさぁー!なんなの、これ!?」

「耳が痛い………」

椎名と舞は食事を一度中断し、耳を押さえながら他の生徒と同じように文句を垂れていた。

『ちょ、会長、いきなり喋っちゃダメですよー!やり直してください!』

『む?すまない!つい焦ってしまったようだ!』

そして、またスピーカーから声が聞こえたかと思うと、『ブチッ』と言う音と共に、放送は終わった。

「何今の……?」

「さぁ……?」

『俺は生徒会長を務めている五十嵐 漆間だ。今日は新しい生徒会役員が決まった事を報告する為に放送をする事にした!』

終わったかと思われた放送は、再び再開された。今度の放送は先程のような音割れもなく、声量やスピーカーの音量が下げられており、聞きやすかった。
そして、放送の内容は新生徒会役員についてだという。
「きっと椎名は生徒会役員になるよ」と舞に言われてから、物凄く選挙の結果が気になっていた。
椎名は、きっと大丈夫、絶対に生徒会になんてなってない。と心の中で何度も、自分に言い聞かせるように念じながら、五十嵐の言葉を待った。

『早速だが、選挙の結果を伝えたいと思う!まず、一人目は、一年B組、冷泉 凪紗。そして、もう一人が___

椎名は一人目に自分の名前が呼ばれない事に安堵しつつも、まだもう一人いる、と思い直し、再度気を引き締めた。

___一年A組、黒川 椎名だ!』


「……………………………………私は何も聞いてない。」

「こらぁ~現実逃避はいかんよー。とりあえず、おめでとさーん。」

椎名は笑いながら茶化してくる舞に殺意が湧いた。が、既でのところで堪え、頬を抓るだけで我慢した。

「ちょ、まって、痛い!あと、長い!抓ってる時間が長いよ!って、爪くいがくい込んでるんだけど!!私のプリティーなお顔が傷つく!!」

「……不可抗力。」

「なにが?!」

『今呼ばれた生徒は放課後、生徒会室に来るように!これから生徒会役員達で、いい学校になるよう一緒に頑張ろう!!』

椎名達がギャーギャー騒いでいる間に五十嵐は一言そう言うと、『ブチッ』と言う音と共に、今度こそ本当に放送が終わった。

……………

…………

………

___時は進み、放課後。椎名は帰りたいと思いながらも、生徒会室の扉の前に来ていた。だが、やはり生徒会室に入りたくないのか、扉の前で立ち止まりドアノブに手をかけては離し、手をかけては離し、というその行動を何度か繰り返していた。

「あの~、そんなとこで、どないしたんです?」

生徒会室の扉の前で変な行動をしていたからか、後ろから椎名に声をかけた女の子がいた。
その女の子は、焦げ茶色の髪を腰あたりまで伸ばし、ゆるふわ巻にしていた。目は大きく、タレ目でどこかおっとりとした印象をもたせる。一番特徴的だったのは、その存在を盛大に主張する、物凄く大きな胸部だ。椎名はどちらかと言うと貧乳ぎみなので、その胸の脂肪をもいでやろうかと本気で考えた事は秘密だ。

「いや………(帰りたくて)ちょっとだけ入りにくかったの。」

その少女は椎名の答えをどう捉えたのか、顔をパアァ、と輝かせたかと思えば、嬉しそうに喋り出した。

「もしかして、黒川椎名さん?」

「?  そうだけど?」

何故自分の名前を知っているのか一瞬疑問に思ったが、聞くのが面倒なので考えるのをやめ、素直にそうだと答えた。
椎名の答えを聞いてさらに嬉しそうにしだした目の前の少女を、またもや疑問に思ったが、これから教えてくれそうなので、聞くのをやめた。

「ウチは、一年B組の冷泉れいぜい 凪紗なぎさって言うねん。なかようしてな!あ、ウチの事は凪紗でええよ!」

「私は一年A組、黒川 椎名。よろしく。」

「うん、よろしゅうな!ウチはアンタのこと、椎名って呼ぶ事にするわ。」

冷泉 凪紗と言う名前に聞き覚えがあった椎名は記憶を辿り、数時間前のお昼休みの時間を思い出していた。
あの耳を劈くようなスピーカーから聞こえてくる大きな声。その声の主が言っていた、椎名ともう一人の新生徒会役員。確か、冷泉 凪紗と言っていた気がする。
なるほど、どうやら彼女も椎名と同じ、選挙で選ばれた新生徒会役員なのだろう。

「………もしかして、貴方も新生徒会役員?」

「うん、せやでー。椎名もそうやろ?生徒会室の前でたむろってたから、ウチと一緒かなーって思ったんよ。せやから、話しかけてみたんやけど、ウチの思った通りで嬉しかったわ。ほら、この学校元男子校やろ?せやから生徒会もどうせ男ばっかりなんやろな、思ってな。そん中で女子が私一人かもって不安だったんやけど、椎名が女子でほんま良かったわー。」

どうやら、あっていたようである。それにしても、よく喋る人だな、と椎名は思った。まぁ、その方が椎名には良かったのかもしれない。それも、椎名は自分から話しかける事が少ない。だから、会話をリードしてくれるような人と友達としては相性がいいのだ。その分かりやすい例は舞だろう。舞も凪紗同様、よく喋る。だから、ここまで椎名と親友と言う関係を続けてこれたのかもしれない。
椎名がそんな事を考えているうちに凪紗のお喋りはいつの間にかおわっていた。

「ん?椎名、どうしたん?ぼっーとして。」

「いや、別に、なんでもない。それよりはやく生徒会室に入ろ。」

「あ、せやな。椎名と友達になれたのが嬉しくて、すっかり元の用事を忘れとったわ。放課後になってからけっこー時間経っとるし、生徒会の人待たせすぎたかもやし、これは急がなあかんなぁ。」

凪紗の言った通り、放課後になったから大分時間が経っていた。椎名と凪紗はさすがに待たせすぎた、と思い急いで生徒会室に入った。

「ん?……あぁ、ようやく来たか。待っていたぞ!」

少し重い扉を開けた先には既に数名の男子生徒がおり、机に座って、何かの資料を整理しているようだった。
生徒会室に足を踏み入れた椎名と凪紗に声をかけたのは、声が無駄にでかい現生徒会長、五十嵐 漆間うるま。その人である。

「俺は、三年生の五十嵐 漆間だ。この生徒会で会長を務めている。これから生徒会の皆でより良い学校になるよう、一緒に頑張ろう!!」

いきなり始まった、物凄く暑苦しい自己紹介。だから、この生徒会長は苦手なんだよ、と椎名は思ったが、勿論、顔には出さないし、言うつもりも無い。
そんな暑苦しい生徒会長の自己紹介に続いて椎名と凪紗も自己紹介をした。

「一年A組、黒川 椎名、です。よろしく、お願いします。」

「ウチは、一年B組、冷泉 凪紗です。よろしゅうお願いします。」

それを聞いた会長以外の生徒会役員先輩達は、口々に自己紹介を始め、中にはこちらに聞こえないよう、小声で「黒髪美人とか、目の保養。」や「関西弁女子、マジ萌える。」と呟いていた。
椎名も凪紗もその声は聞こえていたのだが、空気を読んで聞こえないふりをした。
先輩達の自己紹介でわかった事は、生徒会役員は椎名と凪紗を合わせて八人という事だ。役職の割り振りは、会長一名、副会長一名、書記二名、会計二名、庶務二名だそうだ。その中で書記と会計に一名ずつ空きがあるのだと言う。

「てか、椎名、表情筋あったんやな~。ずっと無表情やから、笑うん苦手なんやと思っとったわ!!」

椎名の自己紹介(営業スマイル付き)を見ていた凪紗は生徒会の先輩達が騒いでいる間に、小声で椎名にそんな事を言ってきた。

「私の特技は営業スマイル。」

椎名は片手でVサインをしながら、真顔で凪紗に言葉を返した。それを聞いた凪紗はくすくすと笑いながら楽しそうに喋り出した。

「…………あんた、顔に似合わず変な事言うんやなぁ。思わず笑ってしもうたわ。いやぁー椎名とはええ友達になれそうで安心したわ!」

「ん、私もそう思う。」

凪紗は椎名の反応に満足したように笑い、「お近付きの印に飴ちゃんやるわ。有難く貰っとき。」と言いながら、制服のポケットに手を突っ込んで来た。椎名はそれに、「ありがと」と言って返した。

「よし!自己紹介も終わったようだな。一年二人、うちの生徒会は人手が足りなくてな。早速で悪いが仕事をしてくれ。……あぁ、黒川は書記、冷泉は会計だ!わからない事があったらなんでも聞いてくれ!!」

面倒臭いと思いいつも、生徒会役員に選ばれてしまったからには仕方ないと割り切る事にして、椎名と凪紗はまだ慣れない生徒会室で仕事をする事になった。

……………

…………

………

人間とは頭を使うと甘い物が欲しくなるもの。机に座って書類仕事をだんだんとこなしていた椎名も例外ではなく、無性に甘い物が欲しくなった。
それから椎名は、先程凪紗にもらった飴を思い出した。
椎名はその飴を食べようと、ポケットに手を突っ込み、飴を取り出した。そして、手のひらにのった小さな飴のパッケージにはこう書かれていた。

『臭いけど美味しい!!納豆味』

椎名はそれを見ると、静かに飴を元のポケットに戻し、何事もなかったように書類仕事を再開させた。
あの飴は舞にでも食わせよう、そう思いながら………。


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