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嘘からの実
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「あー、うん。それは嘘だ。弟ではない」
俊英は、とりあえず事実を言った。
「え…?では、あの少年は誰なのですか?それに、見張られていたはずなのにいつの間にあのアパートに入ったのですか?」
秀清はたたみ掛けるように言い募った。
俊英は迷った。
雲嵐の動向が掴めないことも迷いを深めた。
沈黙を貫くか、知っている全てを共有するか。
迷った時はどうするべきか。
「俺は正直、雲嵐と腹を割って話したことがある訳じゃないし、今だってどこで何をしているか分からん。でも師匠が曾孫を信頼していることは分かるし、俺は師匠を信頼している。明確な敵が判明した今、俺は秀清のことを信頼したい。お前がそれに応える気が無いなら俺は話さない。施設長に縋るなり、季明の元に戻るなり好きにすればいい」
「………施設長には二度捨てられました。命を宿した時と今と。私は私が自分の足で立って歩くために真実が知りたいです。信頼に応えられるかどうかは分かりませんが、裏切ることはしません。それは誓います」
俊英は秀清の瞳をじっと見つめた。
チラッと師匠を見やると、師匠は顎で促した。
「あの子は朱里という名で、女の子だ。“渡り”に乗じてアパートに入った」
「え…っと、それは…神仙だということですか?なぜ人間界に留まっているのですか?」
「厳密には神仙ではないそうだ。魔界もおかしくなっているが、神仙界も尋常ではないらしい。ことの発端は宇然なんだが…長いぞ、この話は」
俊英は、自分の知っていることを話した。
宇然の生い立ちからの葛藤。
その果てに空を飛べるようになって産場を抜けて神仙界へ行き、万里と出会い恋に落ちたこと。
万里を人間界に渡らせることが嫌で、連れて逃げた時に傷を負って雲嵐に助けられたこと。
普通ではない状態ではあったが、朱里が神仙界の産場で産まれたこと。
だが、神仙ではなかったこと。
「朱里は宇然と万里の子で、神仙でも魔族でもないのだと、朱里の中に入り込んでいる神仙が言っていた。現状の神仙界が調わないのは万里が幸せではないからで、それを何とかするために来たのだ、と」
「なるほど…“渡り”でしたか。あれは実態が分からないですから…。では季明様が一龍様と朱里様を魔界へ連れ去ったのは結果的には良かったのですね」
「その三人は魔界へは行っていない。どこに居るのか分からん」
「え?」
「白英にも雲嵐にも一龍にも連絡ツールは付けてあったんだが、白英しか居場所が分からない」
俊英が言葉を切ると、師匠が口を挟んだ。
「魔界にも人間界にもいないのなら、産場か神仙界だろうな。わしの知り合いに、酔っ払った人間の女性の中に入れるという変わった神仙がいたんだが、どうやら其奴のようだな」
「仲良くなった魔族とか半魔がいた話もしてましたね。それが師匠だったとは。しかし、20年後の“渡り”まで戻れないと言っていましたが?」
「イレギュラーだろう。思うようにはいかんものだ。雲嵐は、中心部ということは多分宇然のいる塔に向かっているだろうな。宇然たちを匿っていた時に何らかの約束事でもあったのかもしれん。こちらはどう動くつもりだ?俊英」
「当てというか、目印は分かっているので、魔界に潜入している半魔を探ろうと思います。秀清と共に。彼らは谷底には長居出来ませんから、施設長とは別で動いていると思います」
「それがいいだろうな。わしは谷底に行く」
「ありがとうございます。白英も谷底に向かっているようですので、よろしくお願いします」
「それでは私は魔界の塔に向かいます。雲嵐は母親がクォーターなので半魔よりも魔族よりだし、いろんな道具も仕込んでありますが…心配なので。爺さんとしてはね」
雲嵐の祖父が苦笑いしながら言うと、曾祖父である師匠は微笑んだ。
俊英は、とりあえず事実を言った。
「え…?では、あの少年は誰なのですか?それに、見張られていたはずなのにいつの間にあのアパートに入ったのですか?」
秀清はたたみ掛けるように言い募った。
俊英は迷った。
雲嵐の動向が掴めないことも迷いを深めた。
沈黙を貫くか、知っている全てを共有するか。
迷った時はどうするべきか。
「俺は正直、雲嵐と腹を割って話したことがある訳じゃないし、今だってどこで何をしているか分からん。でも師匠が曾孫を信頼していることは分かるし、俺は師匠を信頼している。明確な敵が判明した今、俺は秀清のことを信頼したい。お前がそれに応える気が無いなら俺は話さない。施設長に縋るなり、季明の元に戻るなり好きにすればいい」
「………施設長には二度捨てられました。命を宿した時と今と。私は私が自分の足で立って歩くために真実が知りたいです。信頼に応えられるかどうかは分かりませんが、裏切ることはしません。それは誓います」
俊英は秀清の瞳をじっと見つめた。
チラッと師匠を見やると、師匠は顎で促した。
「あの子は朱里という名で、女の子だ。“渡り”に乗じてアパートに入った」
「え…っと、それは…神仙だということですか?なぜ人間界に留まっているのですか?」
「厳密には神仙ではないそうだ。魔界もおかしくなっているが、神仙界も尋常ではないらしい。ことの発端は宇然なんだが…長いぞ、この話は」
俊英は、自分の知っていることを話した。
宇然の生い立ちからの葛藤。
その果てに空を飛べるようになって産場を抜けて神仙界へ行き、万里と出会い恋に落ちたこと。
万里を人間界に渡らせることが嫌で、連れて逃げた時に傷を負って雲嵐に助けられたこと。
普通ではない状態ではあったが、朱里が神仙界の産場で産まれたこと。
だが、神仙ではなかったこと。
「朱里は宇然と万里の子で、神仙でも魔族でもないのだと、朱里の中に入り込んでいる神仙が言っていた。現状の神仙界が調わないのは万里が幸せではないからで、それを何とかするために来たのだ、と」
「なるほど…“渡り”でしたか。あれは実態が分からないですから…。では季明様が一龍様と朱里様を魔界へ連れ去ったのは結果的には良かったのですね」
「その三人は魔界へは行っていない。どこに居るのか分からん」
「え?」
「白英にも雲嵐にも一龍にも連絡ツールは付けてあったんだが、白英しか居場所が分からない」
俊英が言葉を切ると、師匠が口を挟んだ。
「魔界にも人間界にもいないのなら、産場か神仙界だろうな。わしの知り合いに、酔っ払った人間の女性の中に入れるという変わった神仙がいたんだが、どうやら其奴のようだな」
「仲良くなった魔族とか半魔がいた話もしてましたね。それが師匠だったとは。しかし、20年後の“渡り”まで戻れないと言っていましたが?」
「イレギュラーだろう。思うようにはいかんものだ。雲嵐は、中心部ということは多分宇然のいる塔に向かっているだろうな。宇然たちを匿っていた時に何らかの約束事でもあったのかもしれん。こちらはどう動くつもりだ?俊英」
「当てというか、目印は分かっているので、魔界に潜入している半魔を探ろうと思います。秀清と共に。彼らは谷底には長居出来ませんから、施設長とは別で動いていると思います」
「それがいいだろうな。わしは谷底に行く」
「ありがとうございます。白英も谷底に向かっているようですので、よろしくお願いします」
「それでは私は魔界の塔に向かいます。雲嵐は母親がクォーターなので半魔よりも魔族よりだし、いろんな道具も仕込んでありますが…心配なので。爺さんとしてはね」
雲嵐の祖父が苦笑いしながら言うと、曾祖父である師匠は微笑んだ。
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