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なにはともあれ朝ごはん
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「その前に朝ごはんにしよう」
雲嵐さんが慌てて口を挟んだ。
頭の中がグルグルして忘れてたけど、そう言われれば腹が減ってる。
「おう、そうか。人間は腹が減るんだったな。ふむ。では一休みするか。朱里は体があるから食べることは出来るが、まだ果実や葉物ぐらいしか受け付けんから気を付けてくれ。排泄は教えてある。では」
え?体?排泄?…なんか、サラッとスゴいこと言った気がするけど…確かにちょっと頼り無げというか、子どもみたいというか…いや、まあ、うん、かわいいんだけど。
「その辺は万里とは違うんだな。彼女は水しか飲まなかったから。じゃあ買い出しに行ってくるから…白英は一龍と話してるといい」
雲嵐さんが出ていくと、白英は俺に向き直った。
「えっと…何から話そうかな…」
「白英は俺のことを知っていたのか?」
「ああ…うん。知っていた。先に父が見付けたんだ。消えた前の魔王を探していた時にね。それで雲嵐さんと協力し合って一龍を育ててきた。僕が大学に入ることになったから、いろいろ都合がいいってことでここに来たんだ。監視してるとかじゃないよ。そもそも一大学生が大の大人を、なんて無理だし。変な人を入れるぐらいならお前が入っておけ、ってこと。そうしたら父も来た時に泊まれるし」
「まあ、そうだな。俊英さんは元気か?最近ずっと会ってないけど」
「僕も会ってないよ。多分元気。いくつか当たりを付けたところを廻ってるんだと思う」
「前の魔王を…俺の父を見付けてどうするんだ?本当に消えたのかもしれないのに」
「いや…おかしいんだ。今の魔王が引き籠もってるぐらいのことで魔界がここまでおかしくなるはずない。僕が国史を学びたいのもそこなんだ。古代の大戦の時と状況が似ている気がする。魔界の歴史は詳らかにされているから比較出来るし、人間界のことも遺跡やら伝承やらばらばらだけどまあまあ分かる。キナ臭い、ってのが一番しっくりくるかな」
「“神魔大戦”か?また起こるって?」
「かもしれない。前の火種は領地争いだったけれど棲み分けはもう出来ている。今、火種になるとしたら、前の魔王の恨み…違うな、理不尽に対する怒り、なんだと思う。愛する人と添い遂げることが難し過ぎるよね」
「人間が魔界で生き長らえることが出来ないのは変えられないんだろう?妻を人間界に置いて通うのはダメなのか?」
「僕に言われてもね。……消えていなかったのならまだいいんだ」
「ん?消えてないから探してるんだろう?」
「消えたという確信は持てないけど、僕は滅したと思っている。魔界にはね、魔界の谷底に消えた魔族が地中で膨張か発酵かなんかして泡になって浮き上がってくるっていう伝説があるんだ。“悪魔の誕生”と呼ばれてる。僕はそれを警戒してるんだ」
「俺の父が悪魔になって争いを起こそうとしてる…って?」
「記憶が戻ったばかりの一龍にする話じゃないことは分かってる。ごめん。でも、主様も神仙界がおかしいって言っていたから今言うしかないと思ったんだ」
「父のことは…暗い顔しか覚えてないな。たまに会えた母は綺麗で優しくていつも笑っていたけど、そんな時でも隣で思い詰めた顔をしていた。宇然叔父さんは俺には優しくて楽しませてくれたなあ。…魔界での最後の記憶は、動かない母の体を揺さぶって起こそうとする俺を掴み上げて放り出した父の…恐ろしい顔と全身を打ち付けられた痛み…だな」
知らない間に俺は泣いていて、それに気付いた朱里が膝立ちになって顔を寄せ、眦に溢れる涙を吸っていた。
「わっ!わ…ちょっ…そんなん舐めたらダメ!え?どうしたらいいんだ?!白英!助けろよ!」
「朱里ちゃん、かわいいなあ。癒される…」
「何やってんだ?」
いつの間にか戻っていた雲嵐さんが呆れた声で言った。
「一龍の部屋で食べてもいいな?下だと人も来たりするし」
「買い出しありがとうです。お皿出します?」
「いや、このままでいいだろ」
いきなり日常に戻っている二人を横目に、俺は朱里の手を引いてテーブルまで行った。
瓜と苺とお粥と肉饅、卵と野菜の炒め物があった。
お粥の使い捨ての器に炒め物を乗せて食べるからわざわざ皿なんか出さない。
白英んとこは違うのかな?
朱里は瓜と苺を食べ、お粥は不思議そうにスプーンを沈めて薄白い上澄みだけを飲んだ。
雲嵐さんが慌てて口を挟んだ。
頭の中がグルグルして忘れてたけど、そう言われれば腹が減ってる。
「おう、そうか。人間は腹が減るんだったな。ふむ。では一休みするか。朱里は体があるから食べることは出来るが、まだ果実や葉物ぐらいしか受け付けんから気を付けてくれ。排泄は教えてある。では」
え?体?排泄?…なんか、サラッとスゴいこと言った気がするけど…確かにちょっと頼り無げというか、子どもみたいというか…いや、まあ、うん、かわいいんだけど。
「その辺は万里とは違うんだな。彼女は水しか飲まなかったから。じゃあ買い出しに行ってくるから…白英は一龍と話してるといい」
雲嵐さんが出ていくと、白英は俺に向き直った。
「えっと…何から話そうかな…」
「白英は俺のことを知っていたのか?」
「ああ…うん。知っていた。先に父が見付けたんだ。消えた前の魔王を探していた時にね。それで雲嵐さんと協力し合って一龍を育ててきた。僕が大学に入ることになったから、いろいろ都合がいいってことでここに来たんだ。監視してるとかじゃないよ。そもそも一大学生が大の大人を、なんて無理だし。変な人を入れるぐらいならお前が入っておけ、ってこと。そうしたら父も来た時に泊まれるし」
「まあ、そうだな。俊英さんは元気か?最近ずっと会ってないけど」
「僕も会ってないよ。多分元気。いくつか当たりを付けたところを廻ってるんだと思う」
「前の魔王を…俺の父を見付けてどうするんだ?本当に消えたのかもしれないのに」
「いや…おかしいんだ。今の魔王が引き籠もってるぐらいのことで魔界がここまでおかしくなるはずない。僕が国史を学びたいのもそこなんだ。古代の大戦の時と状況が似ている気がする。魔界の歴史は詳らかにされているから比較出来るし、人間界のことも遺跡やら伝承やらばらばらだけどまあまあ分かる。キナ臭い、ってのが一番しっくりくるかな」
「“神魔大戦”か?また起こるって?」
「かもしれない。前の火種は領地争いだったけれど棲み分けはもう出来ている。今、火種になるとしたら、前の魔王の恨み…違うな、理不尽に対する怒り、なんだと思う。愛する人と添い遂げることが難し過ぎるよね」
「人間が魔界で生き長らえることが出来ないのは変えられないんだろう?妻を人間界に置いて通うのはダメなのか?」
「僕に言われてもね。……消えていなかったのならまだいいんだ」
「ん?消えてないから探してるんだろう?」
「消えたという確信は持てないけど、僕は滅したと思っている。魔界にはね、魔界の谷底に消えた魔族が地中で膨張か発酵かなんかして泡になって浮き上がってくるっていう伝説があるんだ。“悪魔の誕生”と呼ばれてる。僕はそれを警戒してるんだ」
「俺の父が悪魔になって争いを起こそうとしてる…って?」
「記憶が戻ったばかりの一龍にする話じゃないことは分かってる。ごめん。でも、主様も神仙界がおかしいって言っていたから今言うしかないと思ったんだ」
「父のことは…暗い顔しか覚えてないな。たまに会えた母は綺麗で優しくていつも笑っていたけど、そんな時でも隣で思い詰めた顔をしていた。宇然叔父さんは俺には優しくて楽しませてくれたなあ。…魔界での最後の記憶は、動かない母の体を揺さぶって起こそうとする俺を掴み上げて放り出した父の…恐ろしい顔と全身を打ち付けられた痛み…だな」
知らない間に俺は泣いていて、それに気付いた朱里が膝立ちになって顔を寄せ、眦に溢れる涙を吸っていた。
「わっ!わ…ちょっ…そんなん舐めたらダメ!え?どうしたらいいんだ?!白英!助けろよ!」
「朱里ちゃん、かわいいなあ。癒される…」
「何やってんだ?」
いつの間にか戻っていた雲嵐さんが呆れた声で言った。
「一龍の部屋で食べてもいいな?下だと人も来たりするし」
「買い出しありがとうです。お皿出します?」
「いや、このままでいいだろ」
いきなり日常に戻っている二人を横目に、俺は朱里の手を引いてテーブルまで行った。
瓜と苺とお粥と肉饅、卵と野菜の炒め物があった。
お粥の使い捨ての器に炒め物を乗せて食べるからわざわざ皿なんか出さない。
白英んとこは違うのかな?
朱里は瓜と苺を食べ、お粥は不思議そうにスプーンを沈めて薄白い上澄みだけを飲んだ。
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