The Gang Stars

鮫島さそり

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chapter8〜反逆者処す〜

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【アメリカ某所・廃倉庫】

パァン、と1発の銃声が、暗く埃っぽい廃倉庫に響く。


「…クソが、クソが!!なんで、この野郎、この、ウソツキ!!」

「…エド、もうやめろ」

「クソが!!裏切りもんが、大嘘つきのペテン師野郎が!!騙しやがって、騙しやがって…!!」

「もう虫の息だ、さっさと沈めに行くからな」

「チッ、わーったよ…」



先程何があったかと言うと、アメリカ組織から出た裏切り者を、幹部2人が制裁として、始末したのだった。なぜこうなったのか?それは、5日前に遡る。




《5日前、2022年4月》



【アメリカ、アリゾナ州某所】


「はい、今週も定例幹部会議始めるよ」


いつも通りの午前10時半、オフィス街のいつものビル。”ファミリー”の拠点である会議室。会議に集まる幹部4人に、寝ぼけ気味のルカ。いつもの5人の、ゆるい雰囲気。
シャツにネクタイ、いつも通りきっちりと着こなして、会議を取り仕切るボスのアルフォンス、まだ寝ていたかった所を起こされて不機嫌絶頂なエド、疲れ気味の目を酷使しながら新聞片手に煙草をふかすトリィ、寝癖を気にして集中できないグリーシャ…本当にこの4人が幹部なのか、やる気はあるのかと不安になる面々だが、これがいつもの光景。


「とりあえず最近のことについて報告ね。一昨日までトリィにヨーロッパ方面…特にシチリア支部とフランスの方見に行って貰ったんだけど、まぁ大丈夫そうってことで。抗争の危険性はまだ低そうなんだよね。」

「でもよぉ、噂程度に聞いた話だが…フランスの方はピリピリしてるらしいぜ。なんせ裏切り者が出たから処理するついでに、暗殺チームの解体するんだってさ」

「チームごと解体とは、大層なこった。これは『ウチは大丈夫』とか言ってられる日もそろそろ無くなるかもな」


会議と言っても、いつも話す内容は最近の情勢と周辺の出来事。後半は粗方雑談になってしまう。


「裏切り者…なんか、やだね。ウチの組織は記録辿っても裏切り者は出たこと無いみたいなんだけど…それだけお爺様たちが上手くやってきたってことなのかな」

「記録に残す前に処分してんじゃねぇの?」

「それもあるかもな」


穏やかな会議室の空気が、少し重く濁り始める。


「と、とりあえず警戒態勢ってことで!なんかあったらすぐ僕に報告!いい?!んじゃ解散!!」


少し焦ったようにアルがそう言うと、今日の所の会議は終了した。定例会議が終わると、他の仕事があるものはそれへ、ルカやエドなど暇なものは好きな事をしたりするので、すぐに会議室はがらんと静かになる。


(…誰も居なくなったな)


1人残ったグリーシャは、当たりを見回した後スマホを取り出し、誰かに電話をかけた。

「…もしもし」

「ああ、バレちゃいない」

「わかった」

「…もちろんだ」


一連の会話を終え、電話を切り会議室を出ようとしたその時だった。

「グリーシャ??」

誰もいないと思っていた背後に、誰かがいる。

「お、おうどうした?」

「ん、寝ぼけてたせいで上着置きっぱにしちゃって~…見てない?グレーのオレンジ線はいってるやつ」


眠そうに目を擦りながら、ルカが戻ってきていた。

「あ、あったあった。聞くまでもなかったし~。」

(クソ、面倒なことになった)

「てゆーかぁー…」

大あくびをしたあと、ルカが訝しげに言う。

「さっきの電話ぁ~、誰~??きーたことない声だったけど~」

「気にすんな、部下の連中だよ」

「え~?おれぇ、みんなの声覚えてるから~、したっぱでも誰が誰か声で分かるよ~??だからさ~、聞いた事ない声してる人だと~、知らない人なんだよね~」

「そら、お前の知らないメンバーがいたらどうするんだよ。組織ってのはしたっぱが山ほどいるもんだろ?」

「いーやー…帰るね~」

「…チッ、おい待て!!」

「ば~いば~い」


明らかに何か情報を掴んだことを察したルカは、追いかけられる前にじゃぶん、と水しか入っていない水槽に飛び込んだ。ルカは人間ではない。海か何か、水が関係している人ならざるものらしい。だから、大きめの水槽くらいの水があれば、そこから別の水場まで移動できる。泳いでいる訳でもなければ、ワープでも無い。原理はとにかく分からないが、この移動と人を捕食するという点でその利便性を買われ、この組織に居るのだ。


(チッ、逃げられたか…あの魚畜生め、余計な事話すだろうな…さっさと消さねぇと)






☆☆☆





【アメリカ、とある一軒家】


「たーだーいまーっ」

じゃばっ、とバスタブからルカが顔を出す。びしょ濡れのままだが、そのまま靴だけスリッパに履き替えて、リビングに向かう。


「あ、ルカおかえり。忘れもの見つかった?」

「あったー。ソファに置きっぱにしてたー」

「もー、気をつけなよ?てゆーかこっち来る前に拭いてって言ってるよね~…」

「あ、やば忘れてた!!アルッ、あのさっ、あのさっ!!」

「え、何どうしたの??なんでそんなに焦ってんの??」

「グリーシャ!!なんか、知らない人と電話してた!!」

「え、そんなこと?プライベートの知り合いかもしれないし、部下かもだし、そこまで焦らなくても…」

「違う!!何言ってるかわかんなかった!」

「え?待って待って、どういうこと?」

「おれ、分かるの、えーごと、イタリア語!ほか、わかんないから、仲間じゃないのと喋ってる!だってさ、仲間アメリカとイタリアにしかいないじゃん!!」

「んーそうなんだけど…外国の取引先の人?いや、そうだったら僕の方に連絡が来るはず…ん?そう考えるとおかしいかも…。え、何が何だか分からなくなってきた…」

「裏切り疑惑ぅ…」

「今決めちゃうのはまだ早とちりが過ぎると思うけど…探ってみるのはアリかもね」

「おん」

「じゃあ2人に連絡しようか…。ルカは水場経由で見張り、よろしくね。オフィスには何ヶ所か水槽置いてあるから、そこから出入りできるよね。危なくなったらすぐここに戻ってくること、いい?」

「わかったー」

「いい、本気で見つからないようにしてよ。ルカったら割と見つかりやすいからね。水槽入る時も、できるだけ静かに!」

「はーい」


ルカを見送った後、アルは慌てて電話を掛けた。相手は従兄弟たちだ。従兄弟たち、つまりトリィとエドはこの組織の中でも始末に長けている。なんせ2人ともその道の経験はアルと比較すれば雲泥の差、エドは数えられる限りでも前科25犯余罪数多の凶悪殺人犯で刑務所と娑婆を行ったり来たりしているし、トリィはその育ちの悪さと狡猾さを利用し、14歳頃から暗殺の業界に身を置いているのに加え、この組織の殺し屋達の元締め。要するに、組織でトップ2を飾る殺しのエキスパート達である。

「お願い、どっちでもいいから早く出て……!!」

携帯電話と固定電話どちらからも電話を掛けるも、なかなか繋がらない。しばらくして固定電話の電話線が物理的に切断されていることに気づいた。


「アルちゃ~~~ん??居るんだろ、出てきてくれよ~。ちょっと話したいことがあるんだわァ~」


アルフォンスの背中に、ぞわりと悪寒が走る。今1番顔を合わせたくない相手が、家に来てしまった。玄関の鍵は掛けているが、インターホン越しに聞こえる声が今はどうしても恐ろしい。背水の陣だ。自分一人では、戦闘になった場合時間稼ぎは出来ても勝つことはできない。自分が弱いことくらいは分かりきっている。拳銃を2、3発撃った程度で手首を痛めてしまうし、比較的扱えるショットガンでも装弾に手間取る。普段銃を向ける相手はせいぜい動物だが、今回は違う。人間同士が銃を向け合い、本当の殺し合いが始まろうとしているのだ。執務机の引き出しに隠しておいたS&Wを握りしめながら、再び電話をかける。

『……pronto、どうした』

「トリィ!!よかった、やっと繋がった……!」

『察するに緊急事態だな、今何処にいる』

「ぼ、僕ん家!!いい、落ち着いて聞いて。ルカが裏切り疑惑の情報持ってきた。グリーシャは高確率でどこかのスパイだ。多分僕の家の前に居る。どうしていいかわかんなくて、僕、今執務室に立てこもってる!!」

『落ち着けや……とりあえずそっちに行く。話はそれからだ。俺が着くまで生き残ってろ』


ぷつん、と電話が切れる。ただ時計の音だけが家に響く。


「居ねぇのか??困ったな……」

(お願い帰って…!!)

「チッ、めんどくせぇ」

外から足音がする。きっと諦めて帰ったのだろう。
結局、その日は何事も無かった。

(心配しすぎたのかな……)




☆☆☆




《数時間後》

「限りなく、黒に近いな」

写真や殴り書きのメモがローテーブルの上にばら撒かれ、それを囲んだ4人は皆顔を顰める。

「今日の朝から昼にかけて、ルカが色々探ってきてくれた。でもこれ……うちの組織のものじゃないよね」

「ああ、こりゃ臭うぜ。物理的にも怪しさ的にもな」

「裏切りはー、喰うよ??」

「ヤク臭ぇな、これ…。しかもなんだ、これ何語で書いてあんだ??それと、なんなんだよこの写真。」

「アナログ媒体で情報持ち運びするって、かなりリスキーなのにね……。わざと偽情報を掴ませて撹乱しようとしてる??」

「いや、それだったらおかしい。この辺りはうちの下っ端ども……それもヤク横領して処分した連中だ。よく見ればヤク関連の話か多いな……」

「奴はウチの麻薬取引担当…まさか」

「麻薬取締官…?!」

「しかもコレ見て。僕らの写真…!!」

「何何ィ?しかもご丁寧に所見まで書いてあるじゃねぇか。…読めねぇわ。トリィ、訳して」

「ったく翻訳アプリくらい使えっての。はぁ…『アルフォンス・セラチェラータ、32歳、組織ボス。取るに足らない弱音吐きの雑魚。無力同然なので始末は後でもいいかも』」

「え?酷くない何その言い方?!」

「『エド・コナー=ジョバンニ、26歳、所属部署不明恐らく懲罰部。銃器の扱いはカスほど下手くそだがなんでも武器にするイカれたヤク中』」

「はぁぁぁぁぁ??アイツ俺のことそんなふうに思ってた訳??がぜんイラつくわ、ぶっ殺す」

「んで、俺だな。『トリテス・ルドガー=スクアーリア、29歳、相談役コンシリエリ兼暗殺部元締め、命令されれば誰でも殺す組織の狗、弱みはガキ、人質に取れば有利』……外道な事考えてやがる、あいつ」

「『ルカ”シーモンスター”、意味不明生物。喰われる前に殺せ』」

「逆に喰ってやんよ!!」

「……これってさ、僕らの事殺そうとしてない?証拠だよね?」

「真っ黒だな」

「じゃ、どうすんだよボス?」

「処分、かな……。こういうの、あんまり好きじゃないんだけど」

「オーケー、任せろや。正直俺もイライラして滾ってきたんだわ。なんだか色々、騙された気分になってきたし」

「どうする?作戦は」

「とっ捕まえて…跡形もなくぐちゃぐちゃにする!!」

「おれの取り分はー??」

「すまねぇなルカ、今回はお預け」

「まーいーや。1番イライラしてるのはエドだもんねぇ、ミンチになるまでぐちゃぐちゃにしちゃえば?」

「もちろんよ……」




翌日の22時、周りは暗く静まり返った繁華街の一角に、グリーシャは呼び出された。繁華街と言ってもかなり端っこの方にある廃倉庫で、人通りはなく明かりも少ない。

「……なんで呼び出した訳?話ならいつも通り会議開けばいいんじゃねぇの?」

「とぼけてるつもりか?」

「何の話さ?」

「エド、やっていいぞ」


トリィが合図を送ると、後ろに隠れていたエドがグリーシャの後頭部目掛けて金属バットを振りかざした。完全に気配を消していたので、反応できずにバットは頭にめり込み、鈍い音が響く。

「よ~く縛っとけよ、今から思いっきりボコボコにしてやるから。」

「……てめぇら、何のつもりだ」

「お、お早いお目覚めで。しばらく寝てるかと思ったわ。しらばっくれても無駄ってこたぁもう分かってんだろ?」

「お前がメキシコ麻薬取締局捜査官ってことはもう割れてんだよ、”ロス・イーエン・リヴェロ”」

「は?!”グリーシャ・ジノヴィエフ”ってのは?」

「真っ赤なウソ、だろ?因みにこいつは東欧要素全く無し、純度100のメキシコ野郎だ」

「ふーん?そこまで調べたのか。やるじゃんかお前ら」

「何余裕こいてんだよ、そのヘラヘラ口開けねぇようにしてやる……!!」

「おい待て。てめぇらマトリはどこまで知ってやがる?吐かねぇと一本づつその指潰す」

「言うかよそんなの」

「いいから吐けっての!」


尋問は、拷問に変わった。静かに詰問する時間はもう終わりだ。エドが金槌で1本1本、グリーシャの指を叩き潰していく。

「5問聞いても答えなかったもんなぁ、もう左手お釈迦になっちまったなぁ??よくも裏切りやがったなぁ、騙したなァ…!!」

「エド、あくまで尋問の為の拷問だ。怨恨でやりすぎるなよ」

「やってられるかよ、俺に対してこいつクソみたいな被害しか持ってこなかったんだぜ…??ADXフローレンスにぶち込まれたのもこいつのせい、金騙し取って多額の借金擦り付けやがったのも、クスリ止められなくなったのも、全部こいつのせいだ!!カス野郎、生きてていいクズじゃねぇ!!」

「もういい、お前が殺るか?」

「…いや、お前が殺れよ。俺は、後でいい」

「殺すのか?やっぱりな。いつかこうなると思ってた」

「何をヘラヘラと」

「だって俺はさ、本部に取っちゃ捨て駒なのさ。潜入してるうちに本職どもの癖が移って、捜査官の癖にヤクに溺れ男漁ってクソみてぇな生活して…死んで至極当然なんだよ」

「言い訳がましいこと言うな!!ちょっと前まで仲間ヅラしてたくせに!!思い入れはミリもねぇってか?クソッタレ野郎が!!決めた決めた!!てめぇはとことんバラしてぐちゃぐちゃにして、頭だけ干し首にして公開処刑だ!!」

「はぁ……スイッチが入っちまったか」

「ハッ、やってみろよ殺人鬼」

「うるさいうるさい!!もういい!!」

「……ガキの喧嘩かよ」

「とにかく許さねぇからな…」

「最後に言い残すことは?」

「ねぇよ、あってもテメェらに聞かれてたまるか」

「あっそ」

「じゃ、せいぜいあの世でがんばれよ」


銃声が響く。こうして、裏切り者は排除された。


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