The Gang Stars

鮫島さそり

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chapter 2〜動乱の予兆〜

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─某ホテル─

「あー遅せぇ!!ったくジジイ何してやがるんだ畜生…」

ヒステリックに頭を掻きむしりながら、スマホの画面を覗き込んでいるのはディールズ・レノ・ルーザー…先程の会合に参加していたアレクサンドルの孫だ。
同じ所を行ったり来たり、落ち着きなく歩き回っている。

「クソが…マジでどーなってんだよ」

ボソッと何回目かも分からない不満を吐き捨てると、ガチャリと音が鳴った。

「すまない、思いの外長引いてしまった」

話をすれば、本人が戻ってきたようだ。
祖父が戻ってくるなり、ディーは怒鳴り散らしながら詰め寄った。

「おいクソジジイ!!一体どうなってんだ?!説明しろや!!なァーにが“同盟“だ!アメ公とサレンダー野郎共の組織と?!バッカじゃねぇのか?!」

「落ち着け。そう騒ぎ立てるな。大体ちゃんとした計画は練ってある。事前の準備は万全なんだよ、そんなに恐れることはない」

「余裕ぶっこいてる暇ねぇだろうが!!フランスクソ女はこっちをヤク漬けにするだろうし、ヘボのアメ公んとこには数は少ないが腕利きのヒットマンが居るんだぞ!!それに比べりゃウチはどうだ?!武器作るくらいしか取り柄ねぇし貧乏国家のクソ貧乏組織なんだぞ?!」

「はぁ…そうウチを貶すな、レノーチカ。これも野望の為さ」

「野望?!何言ってやがんだ?!」

「私には野望がある」

「んだよカッコつけやがって……。お爺様は何をご計画なさってまして?!」

「東欧統一だ」

「…え??」

「散り散りになった東欧諸国を統一する。」

「……っつーこたぁ……ま、まさか?!」

「フフ、言いたいことは分かるだろう?」

「……ソヴィエト連邦の、再建?!」

「そうだ」

「いやいやいや、野望デカすぎんだろ!!アタオカじゃねぇか!」

「私は至極本気だぞ?先の大戦後、東欧は大分裂を起こした。ひとつの連邦として纏まっていた頃はまさに黄金期!かつての栄光を取り戻し、愚かなる支配者階級に思い知らせてやるのだ!」

「…なぁるほどぉ??納得した訳じゃあねぇけど……。でもよジジイ、てめーの本望それじゃねぇだろ?」

「流石我が孫だ、レノーチカ。察しがいいな。私の本望…それは祖国への復讐!無駄な争いを繰り返す政府の連中に目にもの見せてやるのだ!」

「第2のスターリンにでもなろうとしてンのか?」

「たわけ。そんな訳なかろう。あんな髭面の統合失調症野郎と私は違う。あのようにはなりたくないものだ。」

「んで、その“本望“とやらを叶えるためにアイツらと手を組んだっつー訳か。」

「そうだ。あの米国の若造は御しやすく利用価値が高い…まぁ相談役の殺し屋が厄介だが…。もう一方のブルジョワ気取りはドラッグビジネスに精通しており、勢力拡大にはもってこいの商材だ。どちらもあくまで手を組んだのみ。不要になれば即刻切り捨てるまでよ。」

「アッサリしてんなぁ…」

「このくらいドライでいいのだよ。裏の世界に裏切りや抜け駆けは付き物。馴れ馴れしくしすぎると裏切られた時のダメージが増えるだけだ。世は使うか使われるかだ」

「自衛の為にもってことか…。んだよ、理にかなってんじゃねぇか。はぁーあ、クソジジイが何言い出したかと…ついにボケたんじゃねーかって焦ったわ」

「私は他の老いぼれ共とは違うのだよ。スラヴ人の執念とやらを奴らに見せつけてやろうじゃないか」

「俺は関係薄いけどな?東洋人オリエンタルとのハーフだし」

「お前も半分は私達と同じ民族だと言う事を忘れるな。下手な口を叩くなら捨て駒に降格させるぞ」

「げ、それはヤダ」

「お前はまだ若い。なんせ18だ。これから学ぶ事も多かろう、先人の知恵を知っておけ」

「へいへい、俺も無関係じゃねぇってことか…。しょーがねぇな、ま、ドンパチやるのは嫌いじゃねぇし」

「ああ、そうだな…。気を抜くなよ、いつ抗争が始まってもおかしくない」


ソヴィエトの老兵はニヤリとほくそ笑み、窓の外を見やった。この先の抗争を見越しているかの様に……


☆☆☆


─アリゾナ某所 とあるビルの一室 ─

「最悪な状況にゃ変わりねぇが…これからどうするつもりなんだ?」


訝しげにエドがそう聞く。しかし2人とも黙りで答えが返ってくる気配もない。


「…まさか、ノープラン?そんな訳ないだろうな?!」

「ノープランな訳ないじゃん!!どこかしらが仕掛けてくる事は想定して、そこから考えてるし…」

「アルは抗争とかそういうのには疎いもんな、まぁドンパチは俺らに任せろや」

「うん…いつもごめん、エド。僕が頼りなくて…ちゃんとしなきゃ」

「…そもそも、だが。曾祖父様のやらかしが無きゃ、俺らはこんな面倒事しなくて済んだのに」


ボソリとトリィがそう呟く。遠い目をしながら珍しく恨みつらみを吐く様に、2人も共感した。


「そもそもは…そうだよね、僕らの代から始まった訳じゃないし。曾お祖父様から始まった事だし…」

「あー…まぁある意味イカれた家系のせいって訳でもあるのか…。めんどくせぇな…」

「さ、恨みつらみ吐いても死んだ人には届かないよ!お爺様への愚痴はここら辺にしといて、真面目な話でもしようか」


アルがそう言うと、デスクの引き出しから丁寧にファイリングされた資料を取り出した。

「これ見て。最近の裏事情。めんどくさいことに、またが出回り始めてる。」

「アレ…??おいおい、マジかよ…」

「……正気を疑うな」

「だよね。こんな頭おかしい薬が出回るなんて…世も末だよ…。」

REDMOONはダメだろおい!!ありゃ狂気だぜ、下手すりゃ人類選別の化学兵器だって、地上から人間消すことだってできるもんの元を……!!」

「しかも更に厄介な事に、ヤク使った連中が暴れ回って事件も起こしてる。そのうちテロとかなるぞ、ほっとけば」

「おいアル!!これ…ウチでの扱いはどうする??」

「…使うわけ、無いでしょ。売らせも、買わせもしない」

「取引相手の連中はどうなんだ?」

「ロシアのほう……は、徹底的に排除してるみたい。なんならアレ使っちゃった構成員をボス自ら処分してるって噂もあるよ……。フランスの方は反対で…」

「知ってる。逆に横流しや生産とかしてるんだろ。さすが西ヨーロッパの女王だな」

「と、に、か、く!!うちは買わない、売らない、使わせないの三原則で行くからね!!なんか文句ある?!」

「ねぇぜ、アル様の言う通り~。」

「…ロクデナシどもの同類になるよかいいな」



「じゃ、決まりね」とアルフォンスが言うと、緊張していた空気が解れ、なんとも言えない緩い雰囲気が流れてきた。


「あんなもん人がやるブツじゃねーっての。マジでムリ。ゲロるわ、フツーに」

エドがボソッとそう言った。


「え、エド…?!アレやったことあるの?!」

「まぁなー…俺は適応も拒絶もせずにこの通り五体満足だけどな。バケモノになるのは中毒の連中だけだぜ。1回やっただけじゃならねぇらしいな。2回目以降は…知らねーけど」

「…カスが」

「ああん?!」

「その不細工なツラァ世間様に晒すよか、いっそ獣になっちまえば良かったのに」

「はぁ~…トリィ、俺さ、お前のそういう皮肉っぽい?っつうの?ノリ悪ぃ?みたいな?そーゆートゲトゲした言い方嫌ーい」

「俺もお前が嫌いだよ、エド」

「はぁ……いっつもそうだよね、エディとトリィが目ぇ合わせたらすーぐ喧嘩になっちゃうもの。大の大人がさ、恥ずかしくないの?」

「ゆーてアルよぉ、てめーも30越えた癖してぴーぴー泣いてんじゃねぇかよ、泣き虫アルフォンスは変わってねぇなぁ?ん?」

「少年院入ってた奴には言われたくないね!!」

「……みっともねぇ」

「「あ?!」」

「テメェらどっちも中身はガキじゃねぇか、うちの息子たちのほうが10倍利口だな」

「なんだとこいつ~!!」

「比較対象が幼児なのもイラつく……」

「俺の言いてぇ事、分かるか?」

「あ?!知らねーよ!!」


いつものノリで始まったしょうもない喧嘩を眺めていたトリィが、少々引きつった顔でそう言った。

「これから有事になるかも知れんのに、こんなくっだらねぇ喧嘩してる暇あったら……」

(あ、やべ)

(うん、キレさせちゃった)

「情報の1つ2つ、集めろや……。裏の世界は情報戦、いつ死んでも可笑しかねぇぞ。相手は歴戦の猛者どもだ。舐めて掛かってるとすぐ頸が飛ぶ」


ひやりとその場の空気が凍てつく。昔からそうだ。この三人、中が良いのか悪いのか。誰か二人が喧嘩を始めれば、残りの1人が仲裁に入る。そして大抵─空気がピリつく。とくに彼が怒るとこうだ。冷たい目線、唸るような重低音の声…それがこちらに伝わってくれば、『それ以上やったら容赦しない』の合図なのだ。

「ははは……まいったな、うちの相談役コンシリエリには頭が上がらないや……」

「お前がマジギレすると全米が氷河期になるわ……おー怖…」

「…はぁ…覚えておけ、ここにいる奴ら、俺たちもだが…。これから相手にする奴の大半は人殺しだ。下手をすれば自分の命が危うい。こんな下らねぇ事でいちいち腹を立ててるようじゃ、いくつ命があっても足りないからな」

「うっ……やっぱそうか」

(やばい、図星だ)

「アル?なァに黙ってんだ??」

「あっいやっ、その…えと。今日さ、久しぶりに3人揃ったからテンション上がっちゃってちょっと空気ゆるゆるになってたなー、反省しなきゃなーって…思っ…」


慌てて目線を逸らしながらモジモジとそう言うアルフォンスだったが、急にプツリと言葉が途切れた。まるで無理やり電源を切られたテレビみたいに黙りこくって、俯いたまま動かない。

「オーイ、大丈夫か?ハロー??もしもし??見えてる??てか起きてる??寝たか??」

「エド、下がれ」

「は?!俺に指図すんな!!」

「『指図すんな』ァ?!そりゃァこっちのセリフだわクソボケが!!ギャーギャーピーピーうるせぇんだよ!!」

「うわッ?!」

「…めんどくせぇ」

俯いていたアルフォンスが顔を上げると、まるで人が変わったかのように怒鳴り散らし始めた。

「あ、アル?!オメーどうした??」

「あ?!俺をあのクソボケ出来損ないヘボフォンスと一緒にすんなダボ!!」

「アルのツラした別のなんかが出てきた……怖ぇ~!!」

「だいたいテメェの余計な一言のせいだろエド!!テメェがいちいちめんどくせぇ小言吐くからこんな下らねぇ事になるんだろ?お?」

「…アンタ、何者だ」

「ようやっと聞いてくれたなぁ、さすが聡明な相談役ってもんよ、ルドガー?まぁお前らダボ二人が知らなくて当然だもんな?」

「…よく喋るやつで…」

「んだよこいつ…絶対アルじゃねぇ」

「俺はこのボケフォンスの兄貴…まぁ8歳ん時死んでるがこいつの人格として戻ってきた!クリスティン、まぁクリスで良いぜ」

「クリス、ねぇ。でもとりまあんたに用事ないからアルに代わってもらえね?」

「あいつ二重人格だったのか……」


ベラベラとよく喋り騒がしいクリスの登場に、二人は大いに戸惑った。一方的に話され内容が充分に飲み込めないまま話が進んだが、ちょっと目を離した隙にまた意識を失ったのか、ガクンと倒れ込んだ。

「あれ……??僕何の話してたっけ?」

「あ……アル??戻ってきたのか?」

「え?“戻ってきた“?何の話??」

「お前の兄貴が一方的にくっちゃべって出てった」

「うわ……えっ、もしかしてだけど…二人とも、クリスと喋った?」

「ああ」

「まあな」

「最悪…。二人の前では絶対出てこないように言ったはずなのに…」

「お前、二重人格隠してただろ」

「うん、ごめん…。実は、一昨年から…」

「ゲェ……うちの情勢、どーなってんだか……」

さらに訳の分からない事態になってしまったのだった…
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