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東の不良に西のバカ
しおりを挟む新学期が始まってから、もうすぐ2週間。生徒たちの間ではとある噂が流れ始めていた。
『2年と1年にヤバいやつがいる』
その一言だけだったが、説明しなくともあらかた分かる。
末代の悪ガキコンビ、米露異色の組み合わせ、東欧の不良ディーとキメラのレックスである。そのハチャメチャ振りからスクールカーストは場外、むしろバカにされるどころかほとんどの生徒から恐れられ近付こうとするものはほぼ居ない。
素行はめちゃくちゃだが、授業だけは真面目に受けている、まさに訳の分からない存在なので、教師陣もお手上げである。しかしもちろんやりたい放題やっていると、それなりの対応となる。そんな生活指導から逃げるのも日常であった。
だがしかし…そんな悪ガキ2人の悪行に終止符が打たれる危機が迫っていた。ストッパー役という名の、極東からの刺客がやって来た。
「おいおいおいおいおいマジかよ」
「どしたんそんな大声出して」
「ヤツが…来る」
「ヤツとは」
「ちょーぜつめんどくさい俺らの保護者枠そして一番の敵」
「えなにそれめんどくさい」
「ヤダヤダヤダヤダなんであいつ来んの?!さてはジジイまたやりやがったな?!」
土曜日、午前11時。学生寮の一角にある206号室から悲鳴とも喚き声とも取れる大声が響く。
「ねー1人で焦ってないで説明してよー!!オレなんもわかんないんですけど!!」
「まぁ、言った通りだ。超絶めんどくさい大人が、俺らの監視係として、来る!!って訳」
「でもそれディーの監視って訳でしょ?オレ関係なくない??」
「あるんだよ、同部屋だしだいたいいつもいっしょだし」
「んなら関係あるか」
「…めんどくさいべ?」
「ガチじゃん!!」
「詰みすぎてしぬ!」
「しぬしぬ界隈やめろって」
「まぁ生きてるんですけどー」
「そういうこったねぇよバーカ」
「んで、誰が来んの??」
「ジジイの部下」
「なんでぇ?」
「知ってんだろ、うちのジジイ!シベリアンアーミー・ワーカーズの代表取締役だよ!あのクソジジイ無駄に権力と人脈だけはあるから、あのジジイがやれと言えば必ず誰かがそれをやるんだよ…」
「しべ…え何??知らんて」
「要するにうちの国のクソやば大企業、銃とか戦車とか色々作ってる会社」
「マ?やば。てかディー実家お金持ちだったの??つうか物騒な会社」
「黙っててすまん、でもそういうこと」
「あ~だからぽんぽん通販で高そうなもの買えてた訳だ」
「とにかくめんどくせぇ…今日は俺部屋に引きこもるから、誰が来ても絶対ドア開けるなよ、絶対な!!」
「お、楽しそうだしオレも籠城しちゃお」
「一応スナック菓子のストックはそこそこあるし、食いもんは確保済み」
「よーし、1日籠城作戦と行きますか!」
☆☆☆
午後2時45分。カツカツと規則正しい革靴の足音を響かせ、学生寮へとやって来たスーツ姿の男が居た。
「失礼。私、事前に連絡させて頂いた者なのですが、ノーザンピーク高校学生寮はこちらでしょうか?」
少し訛りはあるが流暢かつ丁寧な言葉遣いで、その男は守衛に確認を取る。入場許可証を受け取り、男子寮へと入っていく。
(坊っちゃまが望んだ学校とはいえ…かなり散らかっていますね。全寮制の進学校と聞いていましたが、この様子ではエセ進学校ですね。こちらのご友人と遊びたかったのは承知しておりますけれど、大人しく地元の学校に通えば良かったものを…)
「ヒッ…」
「どしたん?」
「なんか…なんかさ、聞こえた」
「何が」
「多分もう来た」
「マジで?一応鍵はかけてるけど。いざとなれば窓から逃げればいいっしょ」
「お、おう…」
その時だった。コンコン、と軽い音が鳴った。誰かが206号室の扉をノックしたのだ。
「キターッ!!」
「坊っちゃま??いらっしゃるのですよね??何故施錠しているのですか?」
「やばいやばい逃げるか?」
「籠城なさっているのは解っています。それに、そこの窓は勝手に生徒が開け閉めできない構造のものですよ」
「クッソしまった!!その事見逃してた!」
「開けなさい、早急に」
「イヤだ!!どーせジジイに全部チクるんだろ!!」
「緊急時は全て報告させて頂きますが」
「ねぇ確かにめんどくさいけどさー…籠城するまででもなくね?」
「レクシーこりゃ一大事なんだよ!!あいつを通しちゃ…」
「しょうがないですね、カギ壊しますよ」
「んなことしたらベンショーできるんですかオジサン!!」
「もちろん経費で落とせますから」
「や、やばいよディー、あのオジサン籠城とか関係なしにドア壊して入ってこようとしてる!!」
「お爺様は、目に余る非行があれば即刻ペテルブルクに連れ戻せと私にお命じになりましたが」
「開ける!!開けるから!!強制帰国はイヤだ!!」
「あー完全敗北フラグだ…」
「そうですか、ありがとうございます。では、失礼しますよ」
「げぇ…相変わらず死人みたいな顔しやがって。元気そうでムカつくわ、イリューシャ」
「それはそれは。お変わりなく口がお達者なことで、レノーチカ坊っちゃま」
「え、え、ちょいまち。何事?何??オレ今頭パンク寸前なんだけど。誰か説明して?」
「そちらがご友人のレックス様で?」
「あ、えと、あー、レックスはオレです、ハイ」
「申し遅れました、私S.A.W.社社長秘書兼なんといいますか…坊っちゃまの監視役、を務めております、イリヤ・マンスールヴィチ・ノヴィツキーと申します。以後お見知り置きを」
「オッサンが秘書って珍しくね?」
「人手不足なんだよ、ウチの会社」
「ゴホン…こちらの学校は全寮制、本来部外者の私が常駐する訳には行きませんが、社長の交渉によりこちらの寮に常駐させて頂けるようになりましたので、下の階でこれから学生の皆さんと共にお世話になります。一応用務員としての立ち位置ですので、普段は清掃などの業務に当たらさせて頂きます」
「え、マジかよ?!」
「はい。年齢はネックですが、体力と根性だけは自信がありますので」
「そういやイリヤのオッサンよ、アンタさ、ジジイにこき使われてたな。しょっちゅう短期で左遷かなんか知らんけど色んなとこ行かされてたし。40超えてそりゃキツイんじゃねぇの?」
「いえ、全ては業務ですので。規定額のお給金が貰えるなら、犯罪と尊厳が無くなるもの以外は全てやりますよ」
「左遷ってどんなとこ行ってたンすか??」
「そうですね…先月はアムール川流域地域に。先々月はオイミャコン、半年前はカフカースの方へ。時々海外出張も任されるのですが、メキシコ出張でシナロア州へ行けと言われた時は肝が冷えました」
「あー、あっこら辺やべーもんな。カルテルとかからまれなかったか?」
「…財布と買ったばかりだった昼食をスられました。パスポートだけは死守しましたので、何とか帰国できましたが。暴漢に絡まれた際は社員証を見せてなんとかお引き取り願えました」
「え、社員証見せるだけでヤンキー居なくなるとかどんだけヤバい会社なん?」
「我が社は他より不利益を被れば手酷いしっぺ返しをすることで有名ですからね」
「ウチの法務部怒らすとやべーぞ?Nin○e○doの法務部とおんなじくらいな」
「うおー怖い」
「それではそろそろ失礼します」
「そーかよ、はよ行け!!」
パタンと扉が閉じられ、攻防戦ともなんとも言えない数分間が終わった。
「ねーほんとにさっきの人入れちゃダメなくらいめんどくさい人なん??オレそうは思えなかったけど」
「イリューシャはな、何でもかんでも逐一ジジイに伝えるチクリ魔なんだよ!!俺が暴れたり大事やらかしたりしたら、すーぐジジイに話が行って強制!帰国!!ってなる訳。あっちにダチいねーしつまんねーしクッソさみぃしで俺帰りたくねーの!!ズッ友フォーエバーなお前とも離れ離れはイヤだし、もしかすっともう二度と会うなって言われるかもしれねーの!!だからめんどくせぇって言った」
「えー、離れ離れヤダー!!オレも友達ディーくらいしかいねーからヤダー!!」
「くらいってなんだよ」
「事実じゃんお互いしか友達いねーんだもん」
「まぁ、そうだわな」
「てかさ、なんでディーって呼ばないのじいちゃんもオッサンも」
「あー、発音に馴染みがないからミドルネームで呼ぶんだろ。英語ベースのファーストネームだから、呼びづらいとか?」
「でもミドルネーム、レノでしょ?伸ばし棒とチカどっから出てきたよ」
「あっちの文化だよ。呼び名はナンチャラチカとか、ナントカシュカとかナンチャラーシャとかになる訳」
「ふーん、めんどくさ」
「異文化コミュニケーションってヤツ?」
「なんか違くね??」
「もう何が何だかわっかんねえわ」
「西の端っこと東のど真ん中の国だもんね、それぞれ」
「西にゃお前みたいなバカが居て、東にゃ俺みたいな不良が居るってこったな」
「あはは、言えてる」
「ま、お互いの祖国の仲は最悪っちゃ最悪だけどさ、俺らはズッ友ってやつだよな」
「BFFね」
「ベフレ?ベスフレ??」
「ベストフレンドフォーエバー、ずっと親友ってこと」
「あー、それや」
「ベフレ、最強!!」
そんなこんなで、面倒な監視役は付いてしまったものの、相変わらずのハチャメチャな学園生活が壊される心配は無くなった。
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