法律では裁けない問題を解決します vol.2 神様の住む家

ろくろくろく

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キャー

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もう大義名分は必要ないのだ。
銀二は他のホストに習って客の誘導。
こっちは葵の救出だ。

葵を連れて行った男の胸には薔薇のカードが刺さってた、つまり勝手知ったる(?)1番手前の部屋だ。狭い出口を取り合う客を掻き分けドアの取手に手を掛けた。
こんな時は鍵の掛からないドアが有り難い。

「火事だっ!!」って叫びながら部屋の中に飛び込んで、お馴染みのカーテンを避けると………

なんて事だ。


おっさんが見覚えのあるレースのビスチェに着替えている所だった。
ハァハァと粘っこい息を吐き出し、真っ赤に充血した目が驚きで丸くなってる。

まさかのお揃いだよ。
同じビスチェ着たよ。
仲間だよ。
「キャーッ」って……こっちがキャーだ。

防音がかなり効いてるとは言え爆発はビルを揺らした。微かだけど外の喧騒だって聞こえているのだ。

そんな事にも気付か無いくらい悪趣味な陶酔に浸り込み、淫らな期待を胸にせっせと準備を整えてる男の姿は酷く滑稽だった。

「何だね君は!」

「火事です!!」
「出て行け!!」

「だから火事ですってば!逃げてください」
「え?……しかし君……」

うん。
わかるよおじさん。
その格好で逃げるくらいなら死んだ方がマシだと思う。もうキナ臭い匂いが追い付いて来ているのだ。もし煙に巻かれて死んだら晩節は真っ黒になる。焦るよな、柔らかいゴムのレースで出来ているとは言えビスチェはピチピチだもんな。
オタオタするのは脱ぐかビスチェの上から服を着るのか迷ってる。

しかしこうしている間にも火が出ているかもしれない、もうコスプレ変態おじさんに構っている暇は無かった。

自業自得だ、ゆっくり着替えるかそのまま外に出て恥をかけ。
グッタリとベッドに横たわっている葵を肩に担いで走った。

本当に最悪の最悪。
葵は例の首輪を付けている。

半目が開いてるから一応だけど意識はあるみたいだけど、ヘラヘラ笑いながらコプリコプリと口から漏れているのはお酒のゲロ?
何でもいい。無事ならいい。

本当に何でもいいんだけど……

あんまりでっかい声でゲタゲタ笑うのはやめろ。スーツの男が浮世離れの激しいヒラヒラの服を着た子供(そう見えるから仕方がない)を担いで走ってるのだ。
しかも謎の汁を口から垂らして笑ってる葵の姿は正に違法薬物でラリってるようにしか見えない。

「葵、ちょっとだけ我慢しろよ、てか、笑うのをやめないか?」

ただでも目立ってんのにこれ以上は通報される。
店が見えなくなるまではなり振り構わず走って来たが、事故の喧騒が見えなくなると道路の脇に葵を下ろしてジャケット着せた。
何が面白いのかそれだけで葵は大爆笑だ。
ハンカチで口を拭いても大爆笑。
もう一回担いだらこれでもかってくらいバンバン背中を叩いて大爆笑。

何を飲んだらこうなる、タクシーを拾ったら、「サボるな担いで走れ!」って暴れて大変だった。

もう寝てくれって思うけど、漏れ出すように少しずつ吐いているのは急性アルコール中毒を発症しかけているからだと思う。
体が自衛しているのだ。
しかしなるべく早くmen'sアナハイムと距離を取らなければならない。
何てったって火事の犯人なのだ。

水を飲ませるなんて悠長な余裕は無く、事務所に帰ったらすぐに全部吐かそうと思っていたのに……

予想外の事ばかり起きる。

事務所の前にタクシーを付けると、出迎えてくれたのは道に並んだいかつい車列と荷物の乗った軽トラック、そして腕を組んで仁王立ちしている椎名だ。


「何してんの?これ何?」

「急げ、このまま引っ越すぞ」
「このままってどのまま?引っ越すって今から?どこに?」

葵は介抱がいるし、まだ笑ってるし、多分もう寝るし、事は急を要するのだ。しかし椎名は「うるせえ」と言って取り合ってくれない。
よく見たら軽トラックの荷台に乗っているのは事務所に置いてあった事務用のキャビネットやソファ、天板の割れたローテーブルだ。

「椎名さん、葵はキツい酒を飲まされたみたいなんだ、さっきから少しずつ吐いてて意識も朦朧としてる、胃の中の物が喉に詰まったりしたら笑いながら死んでるって事もあるかもしれないから先に…」
「なら早くて行け」
「だからどこに?!ってか……もういい」

どうせ椎名とは少し距離を置こうと思っていたのだ。距離って言っても物理的な距離じゃ無くて金銭的な距離なのだが、事務所を引っ越すならこれはいい機会だと思った。

取り敢えずはホテルを探すかカラオケ屋に行くか、何なら漫喫でもいい、とにかく葵の介抱をしてから住む所を探す。そして椎名の傘下から外れる。

「葵、もうちょっとだけ我慢しろよ、すぐに寝る所を探してやるからな」

「つぎはゆりぃ~」が葵の返事。

ずり落ちて来る葵を担ぎ直し「健二」とか「早くしろ」って怒鳴ってる椎名に背中を向けると、襟首を掴まれて否応無しに車の中に押し込まれた。
ドアを閉めた巨体は桃地だ。

「モモッチ!!俺はいい!」
「いいもクソも無いです!行きますよ!」
「行くってどこに!」
「知りません!!」
「知らないの?!」

知らないのに車を出すな!
追われているように急発進した車にバランスを奪われ、担いだままだった葵が座席から落ちて足元に嵌った、いつものように寝てくれれば助かるのに葵はまた爆笑してる。
起き上がろうとはしないから抱いて引き上げ、膝に乗せるともう動けない。

「くそ……何もかもが間が悪い」

もう、諾々と椎名の言いなりになるしか無かった。




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